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災害の備蓄“大事だけど大変!”災害担当記者が体験して感じたこと

  • 2021年11月10日

地震や水害のたびにやらなければと思っていた災害の備蓄。災害担当の記者としていつも防災の取り組みを呼びかけてきました。でも、実際やってみたらめちゃくちゃ大変…。ネットや本などいろんな情報があるなかでいったい、どう備えを進めればいいのか、体験をもとに紹介します。
(社会部 災害担当/記者 若林勇希)

災害担当記者として伝えているけれど…

私はふだん、災害対策や防災の取り組みを取材しています。10月から11月にかけて、首都圏では震度4以上を観測する地震が3回発生し、そのたびにSNS上で災害時の備蓄を進めようという投稿が相次ぎます。

万が一のために停電や断水の備えもしておきましょう

 

食料品や水を備蓄しといた方がいい

 

地震が起きてから店頭に走っても手に入りません

 

私は地震や台風の接近などのたびに「最低3日分、できれば1週間分の水や食料の備蓄を」と書いてきました。でも、ふと思ったんです。“そういえば我が家ではちゃんと備蓄のこと考えてなかったな”と。

備蓄みんなはどうしているの?

 

飲み物ぐらいですね

 

玄関に防災リュックあります!

みなさん、なんらかの備蓄はしているようです。その一方で、果たして自分の備えが正しいのか、分からないといった声も聞きました。

 

どこまで必要なのかが、よく分からない

 

本屋に行けば、なにか分かりやすい参考書が見つかるかもしれない。
東京駅近くの大型書店には、防災の専門コーナーが設けられ、ざっと200冊もの関連本が並んでいました。
案内してくれた内田俊明さんによると、東日本大震災以降、防災に関する本が急激に増え、最近は特に地震が相次いだことなどもあって、一般家庭向けの備蓄などのマニュアル本が人気だそうです。
「節約防災」「おしゃれ防災」「シニア防災」など、多種多様な防災本がありました。

八重洲ブックセンター 内田俊明さん
「無理なく楽しく効率的な災害対策を進めるための本が多くなってきている気がします」

さっそく準備をしてみよう!

なんだか急に、自分もしっかりやらなきゃいけない思いに駆られて、さっそく準備することにしました。
まずは「備蓄リスト」づくりから。東京都のウェブサイト「東京備蓄ナビ」は一緒に暮らす人の性別や年代などを入力すると、家庭で必要な備蓄品リストを紹介してくれます。作業はとても簡単。すぐにリストが表示されました。
ところが…。

「ご、52品目!?」
画面に表示されたリストのあまりの多さに、思わず二度見してしました。
「これ、全部用意しなきゃいけないの?」
都の担当者に聞いてみると「リストの品々が家の中にあると思うので、確認してください」と勧められました。

言われたとおり、台所や物置を見てみると、確かにあるある!

「レトルトカレー」「缶詰」「野菜ジュース」などが出てきました。
ラップやアルミホイルは、いつも使っているもので代用できそうです。実に33品目。必要なリストの6割はすでに家にあったんです。

東京都の担当者のアドバイス
「備蓄と言っても特別に準備しなくてはいけないものは少ないです。ふだん使っているものを少し多めに買っておく『日常備蓄(ローリングストック)』という視点が大事ですよ!」

 

リストが出来たら物品購入

次は、購入する品物のチェックです。
ご飯を作るカセットボンベや歯磨き用ウェットティッシュ、簡易トイレ、部屋をともすランタン、情報を入手するための手回し充電式ラジオ…どれも確かに必要です。
でも、ちょっと待って。
ポータブルストーブや水で溶いて飲む健康飲料粉末。こんなものまで必要なの?
サイトの説明によると、冬場、停電やガスが停止しても暖をとれるようにしておくことや災害時は食事に偏りが出やすいため、手軽に必要な栄養を補給できる食品やサプリメントも用意しておくと良いのだとか。
リストに従って2週間くらい掛けてちょこちょこ買い足し、ようやく必要な物をそろえました。

並べてみると…こんなになっちゃいました!なかなかの存在感です。費用は5万9900円。意外とかかりました。すると隣で、妻がぽつりとひと言。

これ、どこに置くの?しまいきれない時は自分の部屋に置いてよね。

 

達成感に浸っていたのもつかの間、無表情で詰め寄る妻に焦る私。

物置はすでにいっぱい。このままでは備蓄品と毎夜、過ごすことになってしまいます。
高校時代の青春をともにした野球道具や仕事のストレスを発散してきた古いゴルフセットともお別れですが、備蓄を達成するためには仕方ありません。物置の荷物の多くを処分して、備蓄品の大半を収納しました。

備蓄サイトには災害時、家全体を防災倉庫と考える「すきま収納」という取り組みも紹介されていました。分けて保管しておくことで、万が一、物置の扉が開かなくなるなどしても困らずにすむというわけです。レトルトごはんは廊下の棚に。キッチンの棚の空きスペースにカレーやゼリーをしまいました。

私の備蓄これで大丈夫?

自分なりに工夫した災害備蓄。果たしてこれで万全なのか?
防災アドバイザーの高荷智也さんにチェックしてもらうことにしました。まず、必要な備蓄品に漏れは無く、お墨付きをもらいました。ほっとしていると、高荷さんは気になることがあると話し始めました。

防災アドバイザー 高荷智也さん
「物置のドアが内側に向かって開くようになっているんですが、地震の揺れで積み上げた備蓄品が崩れてしまうと、ドアが開かなくなってしまうおそれがあります」

さらに、廊下に面した棚でもチェックが入りました。

「この廊下は玄関につながる、いわば『避難経路』です。棚の扉にレトルトご飯がはさまって動かなくなると、避難の妨げになってしまうかもしれません」

棚の中のものが落ちないよう固定したり、扉が開くのを防ぐ器具を取り付けたりすると安心だと教えてくれました。

高荷さんは備蓄品を準備するだけでなく、保管場所や揺れの対策が十分かまで想像して、収納していく必要があるといいます。

防災アドバイザー 高荷智也さん
「備蓄品の購入は災害対策に必要なはじめの一歩です。その上で、家具の固定や避難場所の確認など、『命が助かるための対策』もあわせて、トータルで考えていくことが大事です」

大切な人を思い浮かべる備蓄で気付いたこと

今回、備蓄を進めるなかで、ちょっとした気づきもありました。準備した保存食を娘と食べてみたところ、缶詰の焼き鳥はバクバクほおばっていたのに、野菜ジュースは嫌いと言って、飲んでくれませんでした。

災害時には急な変化に対応できず食欲をなくしたり、食べ慣れていない物を受け付けなかったりすることがあります。ふだんから、少しずつでも慣れておくとか、子どもが食べられるものを準備しておく必要がありそうです。私は妻と小さい娘の世帯ですが、お年寄りの方がいたり、ペットを飼っていたりなど家庭の状況によって必要な備蓄品も変わってきます。

取材後記

災害に必要な備えをすることは、大切な人をより深く知って、その人を守ることにつながると感じます。子どもの好き嫌いや、妻の化粧品など、災害時でもできるだけふだんと変わらないでいられることがきっと安心にもつながるんだと思います。

ぜひ1度、大切な人と備蓄の話をしてみてはいかがでしょうか。

  • 若林 勇希

    社会部 記者

    若林 勇希

    2012年入局 初任地は鹿児島局。警視庁担当を経て2020年から災害担当

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