シュトボー
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. シュトボー
  4. 台風や大雨 河川氾濫に備える4つのポイント “川のプロ”に聞く

台風や大雨 河川氾濫に備える4つのポイント “川のプロ”に聞く

  • 2021年10月12日

首都圏各地の川のリスクをお伝えする「かわ知り」。
この企画を制作する中で、取材班は、河川の氾濫から命を守るために大切な4つのポイントがあることに気がつきました。それは、今から、誰でも実行に移すことができます。
そのポイントとは何か?
首都圏ネットワークの高井正智キャスターが、「河川防災のプロ」と一緒に考えてみました。
(聞き手:首都圏ネットワーク キャスター/高井正智)
(まとめ:首都圏局/直井良介、阿部和弘)

「川のプロ」関東地方整備局の河川部長に問う

今回、話を聞いたのは、国土交通省関東地方整備局の塩井直彦河川部長。
関東地方の一級河川を管轄する責任者、いわば「河川防災のプロ」です。

川のリスクを伝える企画「かわ知り」では、整備局の管内にある河川事務所の担当者などから話を聞き、命を守るポイントを一緒に考えてきました。
「かわ知り」の企画を始めたきっかけは、2019年の台風19号。300を超える河川が氾濫し、多くの犠牲者が出たことです。

塩井さんに、台風19号の災害とはどのようなものだったか、問いました。

 

高井アナ

2019年の台風19号を振り返って、どんな風に受け止めていますか?

塩井部長

その前から西日本など各地で大きな水害が発生していたので、「来てしまった」という思いがありました。各地で複数の河川が決壊をした非常に特徴的な台風であったと思います。被害を軽減するための対策も進めていますが、川の整備には時間がかかります。改めて川のリスクを認識してほしい。

命を守る4つのポイントとは

「かわ知り」を制作する中で、川の氾濫から命を守るために必要だと考える4つのポイントをまとめました。

1つ目は、上流の水位を確認して備える。
2つ目は、川の弱点・重要水防箇所を知る。
3つ目は、支流との合流部に注意。
4つ目は、マイ・タイムラインを作って備える。

命を守るポイント(1)上流の水位を確認

確認してほしいのは、上流にある観測所の水位です。
次の図を確認してください。

確認してほしい場所は、次の通りです。

・多摩川下流に住む人は、東京・青梅市の「調布橋」。
・荒川下流に住む人は、さいたま市の「治水橋」。
・利根川下流に住む人は、埼玉県久喜市の「栗橋」。
・渡良瀬川の利根川との合流部に近い場所に住む人は、群馬県みどり市の「高津戸」。
・那珂川の水戸市などに住む人は、「野口」と「小口」など。

例えば、多摩川の河口から上流60キロ、東京・青梅市にある「調布橋」です。

台風19号では「調布橋」の水位がピークに達してから、下流の大田区・田園調布の観測所の水位がピークに達したのは、およそ1時間半後でした。

上流の水位を確認することで自分の家の近くの水位も予測することができるのです。

 

上流の危険性を知ることが避難につながるとは、どういうことですか。改めて教えてください。

 

川は上流から下流に向かって流れますので、例えば、雨がやんだとしても上流側の水位が上がっているということは、その後下流側の水位も上がっていくのです。上流の水位を知る事は、危険性を早く察知する非常に大事なポイントです。

川の水位の情報は国土交通省のホームページなどで確認できます。身近な川の上流の水位をチェックして、避難につなげて下さい。

命を守るポイント(2)川の弱点・重要水防箇所を知る

次に、「川の弱点・重要水防箇所を知る」。
「重要水防箇所」は聞き覚えのない言葉かもしれません。
その意味は、水防活動をしている人たちが、川が増水すると重点的にその場所の対策を行う箇所だということです。つまり、洪水の時に特に危険が予想される場所だということなのです。

例えば、渡良瀬川にかかる、栃木県足利市の「中橋」。
昭和11年に完成した橋で、そのあとに作られた堤防より、およそ3メートルも低くなっています。
水害が起きやすい場所として注意が必要です。

重要水防箇所は、国土交通省のホームページで公開されています。
自治体のハザードマップとともに、身近な場所のリスクを確認するのに使用してみてください。

 

「重要水防箇所」とは、水害から守るための重要な場所なのでしょうか?

 

地域の水防活動のポイントとしてまとめていますが、流域に住んでいる方にも十分参考になる情報だと思います。例えば、整備がまだ途上で、川の堤防の高さが少しちょっと低くなっている場所があります。こういったところは周囲に比べて氾濫の危険性が高い箇所として重要水防箇所に定めているので、ホームページなどで参考にしてください。川の弱点となる場所を知っておくことが重要です。

 

重要水防箇所が難しいと思う方は、どうすればいいでしょうか?

 

自治体のハザードマップが一番大事な情報です。ハザードマップを確認して、浸水が想定される範囲や深さをしっかり認識してほしいと思います。機会あるごとに見てほしいと思います。

命を守るポイント(3)支流との合流部に注意

命を守るポイントの3つめです。支流との合流部には特に注意してください。
一級河川には、大小さまざまな支流がいくつも流れ込んでいます。

大雨などで本流の水位が上がると、支流からの水がせき止められます。
支流の水が流れにくくなる「バックウォーター」という現象が起きやすくなり、氾濫につながる危険性があるのです。

2019年の台風19号では浸水の多くが支流と本流の合流部の近くで発生していました。
支流との合流部の周辺は、特に注意が必要だというのです。

 

家の近くに合流点がないか確認をして、その状況がどうなっているか注意が必要ですね。

 

特に本流側の水位と支流側の水位を比べた時に、本流側の水位が高い状況になりますと、支流の水が本流に入りづらくなります。結果、支流側の水位が上がっていって氾濫が起きやすくなりますし、場合によっては本流側の水が支流側に逆流するといったような 現象も起こりますので、合流点は特に注意が必要だと思います。

命を守るポイント(4)マイ・タイムラインを作って備える

「マイ・タイムライン」とは、時系列でとるべき行動を書き出し、事前にまとめておく「自分だけの避難計画」のことです。

埼玉県加須市の自治会で防災を担当する寺本道郎さんは、台風19号の時、その重要性を実感しました。

寺本さんは、利根川がどの水位に達したら避難するかなどを、細かく「マイ・タイムライン」にまとめていました。
そして、利根川に氾濫の危険が迫ったとき、周辺は避難する車で渋滞が起きましたが、マイ・タイムラインを元にいち早く行動したことで、渋滞に巻き込まれず避難できたのです。

寺本道郎さん
「準備を重ねていって、マイ・タイムラインを作ることが大事だと、台風19号の体験からも強く感じます」

関東地方整備局の塩井さんにも、マイ・タイムラインを作る上で何が大事なのか、尋ねました。

 

ハザードマップをよく見て頂いて、堤防が決壊したときの深さなどの情報をしっかりと認識し、川の水位がこうなったら避難の準備をしようなど、そういったことをあらかじめルール化しておくということで、いざという時にためらいなく逃げられると 思います。1回作ってそれで終わりという事ではなくて、日々確認をしてください。

現場で聞いた「後悔の言葉」 なくすにはどうすれば?

私(高井)は取材者として、数々の河川の氾濫の現場を見てきました。
そして、当たり前の生活を奪われたり、大切な家族を失ったりした被災者の方々に、話を聞いてきました。

その中で、いつも耳に残って忘れられない言葉。それは「後悔の言葉」でした。

「(迫り来る水を前に)きっとこのまま死ぬんだなと思った。
 みんなにお別れの電話をしなきゃと思った」(2019年 台風19号)

「この地域では、同じような災害はなかったから大丈夫だろうと安易に考えていた。
 避難を考えないとだめ。命あってですから」(2015年 関東・東北豪雨)

「家族と連絡がとれない。もっと早く声をかけていれば」(2011年 紀伊半島豪雨)

こうしたことを、少しでも減らすためにはどうすればいいのか。
「河川防災のプロ」の塩井さんに聞いてみました。

 

取材で被害の現場に足を運ぶと、必ずそこに後悔の言葉がありました。住民の皆さんに今受け取ってほしいメッセージはありますか?

 

気象現象が激甚化・頻発化し、毎年のように各地で大きな被害が発生しています。『次は自分のところかもしれない』という意識をもって、日頃から準備をしてほしいと思います。首都圏を中心に流れる大きな河川は、ひとたび決壊が起きれば大変な被害が 発生します。この機会に、川のリスクをしっかりと認識してほしいと思います。

身近な川のリスクを知ってほしい

「後悔の言葉」をなくしたい。
取材班は、そんな思いを胸に、「かわ知り」を作ってきました。
その中で見えてきたのが、命を守るための4つのポイントです。

何よりも大切なのは、身近な川の特徴やリスクを知り、実際の行動に移していくことです。
自分の命、そして大切な人の命を守るために、今、改めて考えてみてほしいと思います。

ページトップに戻る