首都圏各地を流れる川のリスクをお伝えする「かわ知り」。今回は、首都圏の4県にまたがって流れる渡良瀬川です。近年、大きな水害は起きていませんが、かつては氾濫による被害が相次ぎ、700人を超える犠牲者を出したこともあります。
勾配が急なため、大きな川としては流れが速いという渡良瀬川。その特徴と、命を守るためのポイントをお伝えします。
(宇都宮放送局/記者 川上寛尚)
群馬、栃木、茨城、埼玉の4県にまたがる渡良瀬川。流域にはおよそ128万人が暮らしています。その全長はおよそ107キロに及びます。
過去には何度も氾濫し、大きな被害が出ています。なかでも被害が大きかったのが、昭和22年の「カスリーン台風」です。渡良瀬川流域での死者、行方不明者はあわせて709人にものぼりました。
近年は大きな水害は起きていないものの、国の想定では、いま最大規模の大雨が降った場合、流域のほとんどで浸水が起きると予測されています。
渡良瀬川の水害から命を守るポイントはどこか、一緒に見ていきましょう。
渡良瀬川は栃木と群馬の山間部から流れ出し、比較的、勾配が急なため、流れが早いのが特徴です。ひとたび水の量が増えると、下流まで一気に押し寄せる可能性があります。
被害に遭わないためには、「上流の水位」を早めにチェックすることが大切になります。
そこで注目してほしいのが、「氾濫危険情報」などを出す際に基準観測所となる、群馬県みどり市の「高津戸」水位計です。大雨で渡良瀬川の水位はどのように変化するのか。おととし10月の台風19号を例に見てみます。
オレンジで示したのが「高津戸」の水位の変化をグラフにしたもの。青で示したのが、およそ20キロ下流の、栃木県足利市の「足利」の水位です。それぞれ、水位がピークになるところに○印をつけています。
その時間を見比べてみると、「高津戸」は午後8時、「足利」は午後9時。その差はわずか1時間しかありません。大雨が降ると、足利などの市街地にもすぐ洪水が到達する可能性があるのです。自分が住んでいる地域でもすぐに水位が上がることをイメージして、早めに上流の水位を確認してほしいと思います。
渡良瀬川河川事務所 穴原一幸 副所長
「大雨があったときにはなるべくお住まいの地点よりも上流の水位観測所で水位を確認し、早め早めのアクションを起こしていただきたいと思います」
大きな川には、弱点として「重要水防箇所」が公表されています。堤防が低かったり、老朽化していたりと、大雨が降った際に決壊や氾濫が起きる可能性が高い場所のことです。渡良瀬川では、200か所余りが指定されています。
中でも特に危険度が高いとされているのが、栃木県足利市の「中橋」です。
今から85年前、昭和11年に完成した橋で、そのあとに作られた堤防よりおよそ3メートルも低くなっています。橋を通る車を横から見ると、堤防の陰にすっぽりと隠れてしまうほどの低さです。
国や県は橋桁を高くした新たな橋の架け替えを計画していますが、こうした場所では、より早い避難が必要です。自宅や会社の周辺をあらかじめ確認しておきましょう。
渡良瀬川の流域には30を超える支流が流れ込んでいます。渡良瀬川が氾濫を免れた場合でも支流での水害を想定しておく必要があります。
実際、おととしの台風19号では、支流にあたる秋山川や旗川が氾濫し、流域の栃木県佐野市や足利市で大きな被害を出しました。
支流の水位の情報は河川事務所や住んでいる自治体のHPなどで確認できます。
大雨の前に、情報を得る手段をチェックしておくことが大切です。
渡良瀬川河川事務所 穴原一幸 副所長
「いざ水害が起こったらどうなるかということをあらかじめ確認しておいていただきたい。空振りを恐れないで、迅速な避難行動が大切だと思います」
渡良瀬川の水害から命を守るための3つのポイントを見きました。
このほかにも、自治体が発行している最新のハザードマップや、川の水位の確認方法をあらかじめ調べておくなど、事前の準備が水害から命を守ることにつながります。ぜひ、実践してみてください。