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“暴れ川”「利根川」の下流 命を守るための3つのポイント

  • 2021年6月24日

首都圏各地の川のリスクをお伝えする「かわ知り」。
今回は、「日本三大暴れ川」の一つとされる一級河川・利根川の下流区間についてです。
洪水に苦しまされた歴史から改修工事を積み重ねた結果、近年は氾濫が起きていませんが、記録的な豪雨が繰り返される現代に、これまで通り「眠れる暴れ川」であり続けるとは限りません。
この川の特徴と、命を守るための3つのポイントです。
(千葉放送局/記者 坂本譲)

眠れる“暴れ川” 台風19号では氾濫危険水位超

利根川は新潟県と群馬県の境にある大水上山を源とし、全長およそ322キロ(東京~名古屋間約350キロ)、信濃川についで長さ全国2位の河川です。1都5県にまたがって千葉県銚子市の太平洋に注いでいます。

江戸から明治にかけ氾濫に悩まされましたが、堤防が強化されたこの100年間、下流域での氾濫は起きていません。

しかし、毎年のように列島を記録的な豪雨が襲うようになった今、「これまではなかった」と安心できる状況ではありません。2019年の台風19号では一部の観測所で氾濫危険水位を超えました。
かつての暴れ川が再びよみがえっても、命を守ることができるようふだんからの備えが重要になっています。

命を守るポイント(1) 上流・栗橋の水位に注目

まず利根川下流の水害から命を守るために、気をつけるポイントは何か。日頃、利根川の監視に目を光らせている「利根川下流河川事務所」の井口和夫副所長があげたのが、埼玉県久喜市にある水位観測所の名前です。

井口副所長

栗橋水位観測所の水位に注目してほしいと思います。

栗橋水位観測所は、河口から130キロも離れた上流域にある観測所です。
井口副所長は、この水位に注目することで、自分たちが暮らす地域に危険が差し迫っているのかどうかを知ることができると言います。その理由が下のグラフです。

グラフは台風19号で、利根川の観測所で水位がいつピークを迎えたかを示しています。

10月13日午前3時頃 栗橋の水位がピークを迎えます

下流の千葉県我孫子市付近では 13時間後の午後4時すぎにピークを迎えます

香取市付近では さらにその4時間後の午後8時ごろにピークを迎えました

栗橋から半日以上遅れてやって来る下流のピーク。
栗橋の水位から危険をいち早く察知し、余裕を持った避難につなげることが重要です。

利根川下流河川事務所 井口副所長
「利根川上流の栗橋から下流に向かって、水位のピークが12時間、半日以上かけて移っていきます。12時間後にはすでに雨雲が抜けて晴れているかもしれない。つまり、下流域では、晴れているのに水位が上がるという状況も起こります。雨が上がったからといって安心せずに、下流だけではなく栗橋の水位の状況がどう推移しているかを見てもらって、注意を継続していただきたい」

かわ知りメモ:家康が変えた利根川の流れ

利根川は西暦1600年ごろまでは太平洋ではなく東京湾に注いでいました。
しかし、利根川が江戸にたびたび水害をもたらしたことから、徳川家康が川の流れを東にうつす大事業「東遷」に着手。そして、60年にわたる作業の末、太平洋に注ぐ現在のかたちとなったのです。

命を守るポイント(2) 長引く避難への備えを

河川工学などが専門の東京理科大学の二瓶泰雄教授は、利根川下流域での氾濫には注意すべき特徴があると指摘します。それが「浸水時間の長さ」です。

下流の流域は昔、周辺が入り江だったこともあり、起伏が少なく、水はけも悪い場所も多くなっています。このため、ひとたび氾濫がおきると以下のような現象が起きると言うのです。

▼広範囲に水が流出する
▼水が引きにくい
▼川に水が戻りにくい

利根川が決壊した場合の国の想定です。
完全に水が引くまでにかかる時間ごとに色が塗られています。赤い部分は1週間以上、紫の部分は2週間以上も浸水が続くと予想されています。

東京理科大学理工学部 二瓶泰雄教授
「利根川下流は、もともとは海だったような低い土地を流れています。平野部を流れる大きな河川ですので、一旦氾濫すると、深い浸水深になるエリアも多く、浸水が長期にわたって継続するような場所もあります。そういうことも踏まえて避難する場所や備蓄品の準備をしていただく必要があると思います」

命を守るポイント(3) 本流だけでなく支流にも注意

全国2位の長さを誇る利根川。下流域だけでも流れ込む支流の数(国・県が管理するもの)は15にのぼります。こうした支流の氾濫への注意も必要です。

ふだん支流の水は水門などを通じて、本流に流れ込んでいます。
しかし、本流が増水し氾濫の危険が迫り一定の水位に達すると、水門が閉じられます。本流が氾濫するとより大きな被害が出るためです。すると行き場を失った支流が氾濫するおそれがあるのです。

実は2019年の台風19号の時に、利根川は氾濫の一歩手前まで近づいていました。一部の観測所では、支流からの排水を遮断する水位まであと数十センチまで近づいていたのです。

二瓶教授
「小さな支流が注ぎ込む大きな川の水位が高くなって排水がままならないという状況になったときに支流の氾濫が発生します。支流の周辺地域にお住まいの方は、近くの支流の水位の情報だけじゃなくて、利根川本流の水位の状況を見ていただいて、その氾濫のリスクを理解していただく必要があるかなと思います」

利根川のかわ知り 3つのポイント

この記事では以下の3つのポイントをお伝えしました。

(1)「上流・栗橋」の水位に注目
(2)「長引く避難」への備えを
(3)「本流」だけでなく「支流」にも注意

国土交通省のサイト「川の防災情報」や、NHKの「ニュース・防災アプリ」で川の水位の情報を確認していち早く危険を察知することが重要です。
一度アクセスしていただき、使い方をぜひ確認しておいてください。

また、避難の準備や計画も重要です。改めて食料や防災用品の備えが十分か確認してほしいと思います。
 

「川の防災情報」 https://www.river.go.jp/index
「NHKニュース・防災アプリ」 https://www3.nhk.or.jp/news/news_bousai_app/

 

  • 坂本譲

    千葉放送局 記者

    坂本譲

    2020年入局。警察・司法を担当。 大学時代、東日本大震災について研究。これまで台風15号ゴルフ場鉄柱倒壊問題などを取材。

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