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雨がやんだあとに氾濫する那珂川!?命を守るための3つのポイント

  • 2021年6月6日

首都圏各地の川のそれぞれの特徴と氾濫のリスクをお伝えする「かわ知り」。
今回は、栃木県から水戸市の市街地までを流れる「那珂川」です。台風19号をはじめ、戦後10回も氾濫し、暴れ川としても知られる「那珂川」について、命を守るために知っておきたい3つのポイントをまとめました。
(水戸放送局/記者 齋藤怜)

暮らしを支える那珂川

那珂川は、栃木県と福島県の境にある那須岳が源で、栃木県那須塩原市から水戸市の市街地を経て太平洋に注ぎ、長さは150キロに及びます。

流域の自治体は、栃木県が那須塩原市、那須町、大田原市、那珂川町、那須烏山市、茂木町。茨城県が常陸大宮市、城里町、那珂市、水戸市、ひたちなか市、大洗町で、流域には合わせて90万人余りが暮らしています。上流では日光国立公園などの豊かな自然を織り成す一部になっているほか、下流では水戸市などの市街地の生活を支えています。

"暴れ川”の一面も

しかし、那珂川を語る上で欠かせないのが、戦後あわせて10回にわたって氾濫し、被害をもたらした暴れ川だということです。
記憶に新しいのが、おととしの台風19号。水戸市を含む16か所で氾濫し、住宅2000棟余りが浸水しました。

また、昭和61年8月には台風による雨で7600棟余りが浸水。水戸市の市街地が一面泥の海となりました。

国の被害想定では、さらに深刻な事態も予測されています。
最大規模の大雨が降ると、上流から下流まで広く浸水し、大部分で水が引くのに3日間はかかるとされています。また、水戸市の市街地では浸水が3メートル以上になり、命にも危険が及ぶおそれがあるのです。

この那珂川とともに暮らしながら、命を守るためにはどうすればよいのか。知っておきたい以下の3つのポイントを解説します。

ポイント(1) 雨がやんでからの氾濫に注意

「170人」
これは、2019年の台風19号で那珂川の下流、水戸市で自宅などに取り残され、ヘリコプターなどで救助された人の数です。
当時、水戸市は避難指示を出していましたが、自宅にとどまった理由の一つが「雨がやんだから」でした。川が氾濫する前に雨がやんだため、一度は避難した住民が自宅に戻ったり、避難せずに自宅にとどまったりする人が相次ぎました。

水戸市に住む鯉渕幹男さんも自宅から救助された1人です。川が氾濫する前の日の夜に雨はやんでいたといいます。これを受けて、「避難しなくても大丈夫だろう」と思い、妻と二人で自宅に残っていました。しかし、翌朝の7時半頃に近くを流れる那珂川の支流、藤井川の堤防が決壊。濁流が玄関から一気に流れ込みました。家は床上1メートル23センチまで浸水し、消防に助けてもらいながら避難を余儀なくされました。

「向こうから水が・・・」当時の状況を話す鯉渕さん

鯉渕幹男さん
「水害が発生する前の夜に雨はやんだので、避難する必要はないと思って自宅にいました。自宅は近所の中でも少し高い位置にあるので、浸水することはないだろうと甘く見ていました。ただ、堤防が決壊すると水の勢いはとても早く、避難も大変で、水は怖いなと感じました。上流の雨の降り方も確認しておく必要があると思いました」

ポイント(2) 「野口」「小口」の水位を確認

では、氾濫の兆しをどうやって把握したらいいのでしょうか?

那珂川を管理する常陸河川国道事務所の堀内輝亮副所長は、台風19号の教訓から「上流の水位」を知ることだといいます。中でも重要なポイントだと挙げたのが「野口(のぐち)」と「小口(こぐち)」の2か所の観測所の水位です。

「野口」観測所は、水戸市の30キロ上流で茨城県常陸大宮市にあります。台風19号では、昭和20年に観測を始めてから最も高い、6メートル40センチまで水位が上がりました。
また、「小口」観測所は「野口」のさらに40キロ上流、栃木県那珂川町に設置されています。
なぜ、この2か所の水位が重要なのか。台風19号のときの雨の降り方と、川の水位の高さの記録からひもといていきましょう。

台風19号が近づいた10月12日の夜、激しい雨が降り続いて上流の「小口」で水位が上がり、13日の午前1時に6.54メートルとピークに達しました。

午前1時 小口観測所(左)の水位に注目

そして、このころ、雨はやみましたが、下流の「野口」の水位がだんだんと上がっていき、午前6時にピークになりました。

午前6時 野口観測所(中央)に注目 右の水戸市も上昇中

このあと、さらにその下流の水戸市の水位が上がり続けていき、「小口」のピークから9時間後の午前10時に9点78メートルと水位がピークとなりました。氾濫は午前7時ごろに始まったとみられています。

午前10時 雨雲もすっかり遠ざかっているのに水戸市の水位が…

「時間差で下流の水が増えていく」
台風19号ではこの那珂川の特徴がよく表れていたと、堀内副所長は語ります。

常陸河川国道事務所 堀内輝亮副所長
「那珂川の特性として、上流で降った雨をどんどん集めながら、川が下流に下っていくということになります。上流の水位がどうなっているのかという情報も確認し、川の水が今後どうなるのかということを自分なりに想像して、逃げるというアクションにちゃんとつなげていただきたいと思います」

かわ知りメモ:野口や小口の水位はここで確認

「野口」や「小口」などの観測所の水位のデータは、国土交通省「川の防災情報」のホームページや、NHKの「ニュース・防災アプリ」でリアルタイムに見ることができます。

ポイント(3) 「同じ場所」で再び氾濫のリスク

3つめのポイントは、台風19号で氾濫した場所では、再び氾濫するリスクが残されているということです。
常陸河川国道事務所では、現在堤防のかさ上げや川沿いの樹木を伐採するなどの工事を進めています。また、今後は流域全体で対策を進めて被害を減らす「流域治水」の考え方に基づいて、水をためる遊水池や堤防に開口部を設けて水を誘導することで大規模な決壊を防ぐ「霞堤(かすみてい)」が整備されることになっています。

常陸河川国道事務所 堀内輝亮副所長に現場を案内してもらいました

ただ、これらは茨城・栃木の12の市と町にまたがる、かつてない大規模な対策で、工事が完了するのは令和7年の予定です。そのため、流域の住民にとって完了までリスクとして残るのが、台風19号で一度氾濫した場所です。
その台風19号で浸水した場所がこちら。水色の川沿いに白や青で描かれた部分で、水戸市や常陸大宮市など、あわせて16か所で氾濫しました。

こうした場所では、対策が進むまで再び氾濫するリスクがあるというのです。水害が心配されるこれからの時期を前に、那珂川の弱点となっている台風19号での氾濫箇所を確認しておいてほしいといいます。

常陸河川国道事務所 堀内輝亮副所長
「地元の方のご協力を得ながら工事を進めているところですが、那珂川全体の対策が完了する令和7年までには、まだ時間があります。その間に、また同じような出水があったときには、台風19号で氾濫した場所は再び被害が出る恐れもあるので、みなさんには事前にそうした場所を確認しておいていただき、避難してほしいと思います」

那珂川のかわ知り 3つのポイント

この記事では以下の3つのポイントをお伝えしました。

(1) 「雨がやんでから」の氾濫に注意
(2)「野口」「小口」の水位を確認
(3)「同じ場所」で氾濫リスク

中でも、「雨がやんだから大丈夫だと思った」という声は、これまでの全国各地の水害でもよく聞かれた証言ですので、ご自身が住む地域の川でも那珂川と同じようなことが起きるかもしれないと思って、ぜひ確認していただければと思います。

また、これからの水害が心配される時期を前に、川の水位を伝える国土交通省「川の防災情報」のホームページや、NHKの「ニュース・防災アプリ」の使い方も確認しておいてほしいと思います。

  • 齋藤怜

    水戸放送局 記者

    齋藤怜

    2016年入局。県政や原発などを担当。福島県いわき市に生まれ、高校生の時に東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に被災し避難。その経験を踏まえ、被災者の取材を続ける。

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