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“富士山の溶岩流が神奈川県に到達” 最新ハザードマップが示す脅威

  • 2021年6月5日

“富士山の溶岩流が神奈川県の7つの自治体に到達する可能性がある”
17年ぶりに改訂された富士山のハザードマップで示された最新の想定です。溶岩流の速度は遅いものの、到達すれば、家屋や道路は甚大な被害を受け、住民は長期間の避難を余儀なくされる恐れがあります。最新の知見をもとに導き出された溶岩流の脅威、そして動き出した自治体の対策を取材しました。

富士山の溶岩流が神奈川県まで 新想定に困惑の自治体も

過去に何度も大きな噴火を繰り返しきた富士山。その数は過去5600年間でおよそ180回にのぼります。単純に考えれば、30年に1度の頻度で噴火してきたことになります。
しかし、1707年の噴火を最後におよそ300年間噴火が起きていないことから、専門家の間では「いつ噴火してもおかしくない」とも言われています。

CG 溶岩流イメージ

そしてことし3月、17年ぶりにハザードマップが改定され、溶岩流が神奈川県の7つの自治体に到達する可能性があることが初めて示されました。その自治体は、到達までの予測時間が短い順に、山北町、南足柄市、開成町、松田町、相模原市緑区、小田原市、大井町です。

溶岩流到達の可能性がある7つの自治体

「降灰はあると思っていたが溶岩は予想していなかった」
「風水害や地震の対策はしているが、噴火対策はできていない」

これまで神奈川県に溶岩流が到達した実績も予想もされてなかったことから、それぞれの自治体の防災担当者からは困惑の声も聞こえました。

想定変更の理由 専門家があげた2つのポイント

山梨県富士山科学研究所 吉本充宏博士

なぜ、これまでよりも遠くまで溶岩流が届くと想定が覆されたのか、ハザードマップの改定に中心的に関わった、山梨県富士山科学研究所の吉本充宏博士に、その理由を聞きました。吉本さんは、神奈川県へと溶岩流が到達する可能性を示した理由について、大きく2つのポイントを挙げています。

(1)溶岩流の噴出量がおよそ2倍に
最新のボーリング調査の結果、過去5600年間で最大規模の噴火となった貞観噴火で噴出した溶岩流の量が、7億立方メートルから13億立方メートルへと規模を見直し

(2)詳細な地形データでシミュレーション
詳細な地形データをもとに、想定される噴火口から溶岩流の流れをシミュレーションすることで、より現実に近い溶岩流のルートの予測が可能に

動画:山梨県防災局作成

山梨県富士山科学研究所 吉本充宏博士
「以前は、溶岩流は広がって流れる想定でしたが、詳細なデータをもとに、谷や川などの細いところを流れることによって、溶岩が冷えずにずっと遠くまで流れていきます」

ハザードマップの新たな想定が発生する可能性は

今回示されたハザードマップでは、想定された噴火口の中でも、神奈川県へと流れ着く溶岩流を噴出するのは、富士山東部のごく一部とされています。さらに、過去5600年で起きた過去の噴火では、96%が小・中規模噴火で、大規模噴火が起きた回数は少ないといいます。
しかし、過去に発生した頻度が低いからといって、いつ神奈川県に甚大な被害をもたらすような大規模噴火が起きるかは、予測が難しいといいます。

吉本さん
「大規模噴火が起こるというのは、数としては少ないだろうと思われますが、次に起こる噴火が大規模噴火になるのか、小規模噴火になるのかというのは、われわれ研究者にも実際にはわかりませんので気をつける必要があります」

町全体が溶岩に 富士山の東30キロの自治体は

一方、対策に動き出した自治体もあります。富士山から東におよそ30キロ、人口およそ1万8000人の神奈川県開成町です。ハザードマップでは、最悪の場合、町全体が溶岩に覆われる想定が示されました。全町避難を余儀なくされると町の担当者は危機感を募らせています。

開成町 防災安全専門員 葛西宣則さん
「溶岩流に埋まってしまうため、全町避難するしかありません。溶岩流が流れてくれば、家屋などすべて火災となって焼けてしまうだろうと思います」

避難1万8000人の難題 “避難の決断は噴火から2日以内か”

葛西さんは、ハザードマップをもとに独自に溶岩流の予想到達図を作成しました。溶岩が町の北部に到達するまで5日ほどで、18日後には町は完全に飲み込まれます。

このため、住民が避難する時間を考えると、噴火からおおむね2日以内には、避難を決断しなければならないと考えています。
さらに、逃げる手段に加えて、およそ1万8000人の住民の避難先も大きな課題です。すべての住民を町の外に避難させるには県やほかの自治体の協力が欠かせませんが、現時点では、まだ見通しが立たないといいます。
長期の避難生活が余儀なくされるため、どのように行政機能を維持するかも検討していく必要があるといいます。

葛西宣則さん
「今までこういう計画を町でも作ったことはありませんし、想定外のことでしたので、計画をつくるのは非常に難しいと思っています。しかし、被害の予測がされたからには、しっかりと県やほかの自治体との連携を進めて、避難計画をつくり、いざというときの備えを進めていきたいと思います。それが住民の安心につながると思います」

最悪の事態に備えるために

新たなハザードマップを受けて、開成町の隣の山北町は、茨城県境町と住民の避難を含んだ災害時の協定を結んだということです。また、神奈川県は、今後、地元の自治体と連携して広域避難計画の策定に向けた検討を進めていくことにしています。それぞれの地域で、どのような計画が示されるのか。住民も最新の情報を入手して火山災害に備えておかなければなりません。

  • 山田友明

    横浜放送局 記者

    山田友明

    2015年入局。長野放送局を経て2019年から横浜放送局小田原支局に勤務。災害や福祉を中心に取材。小田原支局では火山防災をテーマに取材を継続している。

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