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「防災はステキだ」亰先生の“ポジティブ防災教育”のススメ

  • 2021年4月14日

「防災は『ステキなこと』だと知りました」
授業を受けた生徒がこんな風に話す中高一貫の女子校が、東京・世田谷区にあります。その防災教育を中心になって進めているのが、この学校の亰百合子先生。楽しみながら学べる防災教育には、5つの秘けつがありました。(首都圏局/記者 岩本直樹)

「防災が趣味」の先生の授業

亰先生が教えているのが、目黒星美学園中学高等学校。東京・世田谷区にある中高一貫の女子校で、防災教育に関する数々の賞を受賞してきました。

そしてこちらが、亰百合子(きょう・ゆりこ)先生。「趣味は防災です」と語ります。

授業を見せてもらうと、いきなりテンション高く始まりました。

(亰先生)
「亰先生が、このテンションということは、きょうは何をするでしょうか?」

 

(生徒)「防災!」

 

生徒たちが目を輝かせて「防災」と叫ぶ授業なんて、見たことがありません。その防災教育の秘けつを探っていきます。

ふだんの授業の中に…

亰先生は、社会科の教諭です。見せてもらったのは「防災」ではなくて、中学1年生の地理の授業でした。まずは教科書を開いて、普通の授業が進められます。

東京の人口密度にさしかかったところで、亰先生がこんな風に語りかけます。

「東京は、日本の10%の人口が集中していますが、その面積は0.6%しかありません。このままだと首都直下地震が発生したときにどんな問題が起こりそうでしょうか?」

防災を防災として教えるのではなく、普段の授業の中で暮らしに結びつけて考えてもらいます。

これが、亰先生の防災教育の第1の秘けつです。

亰百合子先生
「地理の授業のなかでも、防災を学ぶチャンスはいっぱいあります。今回は、自分たちの住んでいる身近な地域が意識できるように理解できるように、関東の地理的な特徴も確認しながら授業を進めました」

”あと5秒後に地震が来ます!”

さらにここからが、亰先生の本領発揮です。授業中に突然、こう切り出します。

「みなさん大変です。あと5秒後に地震が来ます。5、4、3、2…」

生徒たちは戸惑いながらも、とっさに机の下に身を伏せました。

取材するわたしも事前に何も聞いていなかった、抜き打ちの避難訓練でした。過去にやってみたところ、生徒から「防災意識が変わった」と好評で、時折、授業に取り入れているそうです。

生徒たちに亰先生の授業について聞いてみると、「楽しい」と口をそろえました。

生徒
「毎回めっちゃおもしろいです。主要5教科のなかで一番楽しい。防災について、もっと深く知りたくなります」

これが亰先生の2番目の秘訣。

亰先生の授業を体験した卒業生の中には、大学で防災を学ぶ人もいるそうです。

亰先生の原点 故郷が被災地に

防災教育に取り組む亰先生の原点は、10年前の東日本大震災です。亰先生は、仙台市で生まれ育ちました。

大学生のころ(右)

家族は無事でしたが、実家が半壊し、生まれ育った街も一変しました。すでに東京で教諭をしていた亰先生は、自分の無力さを感じました。何かできないかと考えたときに、今いる東京で防災教育に取り組もうと考えたのです。

亰先生
「あのときわたしはもう教員として東京にいたので、『地元のために何も役に立てなかった』 という気持ちがありました。ただ、いま自分にできることとして、未来にむけて今いる東京で防災教育をやろうと決意しました」

防災を語ることば

震災のあと、亰先生は学校に働きかけ、東北の被災地への研修や簡易トイレの組み立て体験など、さまざまな防災教育の取り組みを始めました。

こうして防災教育を進める中で亰先生は、一番大事だと思うことに気づいたといいます。これが第3の秘けつです。

 

亰先生
「はじめは『防災は大事です』『災害は必ずおこる』『東日本大震災もあったんだから』って必死に呼びかけても、関心をもってもらえなかったんです。『こわい』とか『めんどうくさそう』とか、“防災”と“災害”を同一視してしまうと心を閉ざしてしまって、すごくネガティブなものに思われてしまうんですね」

そこで亰先生が前向きに語るようになると、生徒たちも変わっていきました。

「実は防災は、過去の災害から学んで未来につなげていく『未来志向』のものだと思っています。『未来にむけてがんばろう』と前向きに伝えると、生徒も変わってきました。私が思いつかなかったような素敵なアイデアを出してくれたり、地域で取り組んでくれたりして、生徒をすごく成長させる魅力的な教育につながったんです」

学校全体に広げるために

多くの学校で、防災教育を積極的に進めるのが難しい理由のひとつ。それは、防災教育が単独の教科ではないことです。でも亰先生は、防災教育を学校全体に広げてきました。そのために大事なのが、次のことだといいます。第4の秘けつです。

亰先生は、生徒や先生どうしで頻繁に情報交換を行い、授業に防災を取り入れてきました。
例えば、家庭科。
生徒たちが自宅の備蓄品や冷蔵庫のなかの食材を調べて、災害時に自宅で避難する際に作るメニューを考えました。
例えば理科。
火山が噴火する仕組みを学ぶ実験を行うとともに、過去の噴火の事例を新聞記事で学びながら、登山の際の注意点をポスターにまとめました。

理科の教諭は「生徒に、『これ社会じゃん』と突っ込まれることがある」と苦笑いを浮かべます。家庭科の教諭は「わたしは亰先生の影響をかなり受けているので家庭科は全部、防災に結びつけられると思っています」と笑顔で話していました。

"さあ 防災をはじめよう"

この1年は、新型コロナウイルスの影響で、学校の外に出向く課外授業もほとんどできなくなりました。それでも亰先生は、防災教育の新たな授業を企画します。「防災CM」の発表会です。防災の呼びかけをCMの形式で伝えるもので、この1年の集大成に位置づけました。

この中では中学1年生の生徒たちが、絵とナレーションで手作りした6つの作品を発表しました。
作品の1つには、まずカップラーメンの絵が登場します。

そこにナレーションが重なります。

「カップラーメンはお湯や箸がなければ食べられない」
「それと同じで災害も、防災と心構えが必要」

カップラーメンを食べるのに必要なお湯やお箸の準備を、日ごろからの防災の準備と重ね合わせて訴える内容です。

CMの最後は、「さあ、防災始めよう」という呼びかけ。
亰先生の授業を受けてきた生徒らしいCMでした。

外部の声を取り入れる

この発表会には、亰先生の防災教育の5番目の秘けつがありました。

今回の発表会では、オンラインで多くのゲストにその様子を見てもらったのです。

世田谷区役所の防災担当者や大学で防災を研究する学生、それに研修で交流のある被災地・宮城県東松島市の担当者まで、参加者は今までの防災教育でつながってきた16人にのぼりました。
ゲストからは、こんなコメントが寄せられました。

都立公園の防災担当者
「絵がすごく上手でとてもよく伝わるCMになっていました」

世田谷区の防災担当者
「20年後、30年後はみなさんが社会を担う中心。ぜひ活躍してくれると期待しています」

課外授業ができない中、ふだんは接することのない学校の外の人からの激励のことばに、生徒たちからも笑顔がこぼれます。防災CMのあと、生徒の1人が話したことが、とても印象的でした。

「防災はマイナスのイメージだったんですが、災害から自分の身を守れる『ステキなこと』だと知りました」

亰先生の最終目標は

亰先生がすすめる「ポジティブ防災」。目指す最終目標は、生徒に自分の頭で考え、主体的に行動できるようになってもらうことです。

亰先生
「その場で自分で考えて行動できれば、周りの人を助けることもできます。そのためにはまず自分が助かることなので、自分で考えて行動できる生徒になってほしい。そのためにも、これからも前向きで楽しい防災教育を続けていきたいです」

「どこまでやれば正解」というマニュアルがあるわけではない防災教育。手探りでも、まずはやってみることが大事だと亰先生は言います。
先生も生徒も答えは分からないけど、一緒に考えていこう、アイデアを出していこうというチャレンジの繰り返しこそが、亰先生が実践する防災教育だと感じました。最後にもう一度、ポジティブ防災の教育の5つの秘けつをまとめておきます。あなたも、未来志向のポジティブ防災教育を始めてみませんか?

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