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茨城県 中小企業の災害対策はなぜ進まないのか

  • 2021年3月11日

東日本大震災から10年。企業の災害対策は進んでいるのか、NHKが民間企業と共同で茨城県内でアンケートを行ったところ、大規模な災害が起きた際などに事業を継続するための方策をあらかじめ定めておくBCP=事業継続計画を策定している企業は15%にとどまっていることが分かりました。なぜ対策は進まないのでしょうか。
(水戸放送局/記者 齋藤 怜)

東日本大震災 茨城県内の8割の中小企業に影響

アンケートはNHKが大手生命保険会社「第一生命」と共同で茨城県内の中小企業を対象に行い、去年12月中旬から2月末までの2か月間で537社から回答を得ることができました。

●震災の影響 77.9%が「影響あり」と回答

アンケートでは、80%近い企業が、東日本大震災で事業に影響を受けたと答えています。


●影響がいつまで続いたか 「1年以内」が半数

半数は「1年以内」ですが、現在も影響が続いていると答えた企業もあり、震災が企業に与えたダメージの大きさが分かります。

・「1年以内」…49.9%
・「3年以内」…19.0%
・「5年以内」…5.2%
・「8年以内」…1.3%
・「現在も続いている」…2.4%
・「影響はなかった」…18.1%

●具体的な影響(複数回答)

・「建物などに被害を受けた」・・・311件
・「物流の停滞による原材料や部品不足」・・・156件
・「取引先に被害」・・・154件
・「従業員や家族に被害」…92件
・「風評被害」…68件

BCP=事業継続計画 策定済みは14.5%

震災で大きな被害を受けたにも関わらず、企業の災害対策が進んでいない実態も見えてきました。

●BCP=事業継続計画 「策定していない」が61.5%

災害に備えてBCP=事業継続計画を策定しているかどうかを聞きました。
その結果、「策定していない」と答えた企業が61.5%でした。

・「策定済み」…14.5%(震災前と震災後合わせて)
・「策定していない」…61.5%
・「策定を検討している」…12.7%
・「策定中」…6.1%

●規模の小さな企業ほど対策進まず

さらに、「策定済み」と答えた企業の割合を規模別に見てみると、企業の規模が小さくなるほど策定済みの企業の割合も小さくなり、5人以下の企業では6.2%にとどまります。
規模の小さい企業ほど対策が進んでいない実態が明らかになりました。

企業の規模別に見ると…

・従業員が21人から50人の企業…28.6%
・11人から20人の企業で14.6%
・6人から10人の企業…11%
・5人以下の企業…6.2%

なぜ策定が進まない?「人手足りずノウハウもない」

アンケートに「策定していない」と回答した北茨城市の水産加工会社です。

従業員は5人。震災の当時は3週間にわたって電気や水道が止まり、冷凍庫などの設備も壊れて使えなくなりました。

さらに物流が止まって原材料の確保や商品の発送も滞り、営業の再開には1か月余りかかったということです。
震災を教訓にBCPの策定も検討しましたが、人手が足りないうえ、ノウハウもなく、策定には至っていないといいます。

大黒屋水産食品 大友良市社長
「震災からの復旧にもお金がかかっており、資金面から災害対策を進められていません。災害への不安はありますが人手不足の中でBCPの策定に人を配置して時間をかけることは小さな企業では難しい」

アンケートでもBCPを策定していない理由を複数回答で聞いたところ、「実効性が分からない」「何から手を着けてよいか分からない」などの声が多くなっています。

●BCP未策定の理由(複数回答)

・「実効性が分からない」…102件
・「何から手を着けてよいか分からない」…60件
・「業績拡大に直接結びつかない」…55件
・「見直す時間がない」…47件
・「取引先から要請がない」…39件
・「無回答」…29件
・「資金的余裕がない」…28件
・「対応できる社員がいない」…27件
・「その他」…25件
・「新型コロナで断念」…7件

日常業務の中で災害対策を進める中小企業も

中小企業にとってハードルが高いBCPの策定ですが、取材を進めると、策定には至っていないものの、日頃の業務の中で災害対策を進めているという中小企業もありました。

水戸市に本社がある飲食店やスーパーに食料品などを輸送する物流の会社です。
東日本大震災では水戸市も震度6弱の揺れを観測し、事務所の外壁が落ちたり倉庫の壁が崩れたりし、従業員にけががなかったのは奇跡的ともいえる状況でした。

これを受けて会社では、震災以降は毎年2回、避難や安否確認などの訓練を行っています。

また、この会社が震災当時に困ったのは、トラックの燃料の確保でした。このため震災後は燃料タンクを整備し、使用した分だけ補給する形で備蓄しています。
このほか、従業員に配る手帳に災害時にまずやるべきことや必要となる連絡先を記載するなど、経営に負担がかからずにできることから災害対策を進めているということです。

「茨城乳配」吉川国之社長
「災害時に生じるであろうトラブルを減らすというイメージで、日常業務の中に災害対策を落とし込むことでコストを抑えられるほか、いざという時にも従業員が自然に対応できると考えている」

専門家「災害リスクは高まっている」

茨城県は震災のあとも、2015年の関東・東北豪雨や2019年の台風19号などで大きな被害を受けています。
企業の防災対策を研究している茨城大学研究・産学官連携機構の赤岩正樹特命教授は、県内の中小企業でBCPの策定が進んでいないことについて、以下のように指摘しています。

茨城大学研究・産学官連携機構 赤岩正樹特命教授
「気候の変動などにより災害のリスクは高まっており、『今まで大丈夫だったから』ではなく対策を積み重ねていくことが重要だ。膨大なマニュアルを作るというイメージを持つ人が多いが、きちんと作ることにこだわらず、少しずつ深めていけばいい」

赤岩特命教授に、BCPを策定する際のポイントを聞きました。

●ポイント(1) 代替手段の活用
ふだん使っているものを災害時には代替手段として活用できるようにする。
取材した物流会社がタンクの燃料を通常の業務で使いながらいざというときのために備蓄していたように、災害に備えて設備投資するのではなく、ふだん使っているものを活用することで、防災対策にかかる費用を軽減できるとしています。

●ポイント(2) 共同で策定
赤岩特命教授は、同じ業界の複数の企業でBCPを策定することでこれまでの経験や課題、ノウハウなどを共有し、対策の幅が広がった事例があるとして、BCPの実効性を高めるため、業界団体や地域の商店会などと共同で計画づくりを進めることの大切さを指摘しています。

「何もできなかった」を減らすために

毎年のように各地を襲う、地震や水害などの災害。加えて首都直下地震など、大規模な災害が起こることも予想されています。少しでも「何もできなかった」を減らすために、あの日を思い出し、まずは小さなことからでも災害への取り組みを進めてほしいと思います。

  • 齋藤怜

    水戸放送局 記者

    齋藤怜

    2016年入局。県政や原発などを担当。福島県いわき市に生まれ、高校生の時に東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に被災し避難。その経験を踏まえ、被災者の取材を続ける。

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