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福祉避難所が浸水する!? 高齢者や障害者の命を守るために

  • 2020年12月15日

「福祉避難所」を知っているでしょうか?
災害時、お年寄りや乳幼児、障害者など、特に支援が必要な人のために開設される避難所で、長期の避難生活を送る上で欠かせません。しかし、NHKの分析では、東京・千葉・埼玉・神奈川の大河川沿いでは、少なくとも660の施設に浸水のリスクがあることがわかりました。“いざ”というときの避難先のリスク、災害の危険が迫る前にあらかじめ考えておいてください。(社会部/災害担当記者 内山裕幾)

「福祉避難所」になるはずの施設が…

障害者施設 けやきの郷(写真中央)

2019年の台風19号では、東日本や東北の各地で氾濫が発生し、浸水被害も多数に上りました。
埼玉県川越市では越辺川が決壊し、そばに建っていた障害者施設「けやきの郷」が浸水。

浸水してきた時の様子

浸水は高いところで3メートル近くに達し、1階部分の天井近くまで水につかったところもありました。

入所者は事前に避難していたものの、職員は施設の2階で一夜を過ごし、その翌日に消防に救助されたのです。 

施設そのものの被害に加え、問題となったことがありました。
実はこの障害者施設は、市が事前に指定した「福祉避難所」だったのです。

“命のとりで”福祉避難所って?

「福祉避難所」は災害時、お年寄りや乳幼児、妊産婦、それに障害者など、特に支援が必要な人のために一般の避難所とは別に設けられるもので、風呂やトイレがバリアフリーになっているほか、介護用品などを備えている必要があり、多くは福祉施設が指定されています。東日本大震災では、生活環境の整わない避難所で長く生活することで健康を損ねる人が相次ぎ、国はガイドラインを整備して、自治体に設置・指定を呼びかけてきました。災害弱者が避難生活を送る上で、“命のとりで”となる場所が福祉避難所なのです。

ふだんのけやきの郷

しかし2019年の台風19号で、川越市では福祉避難所が1か所も開設されませんでした。市は、「けやきの郷」のように浸水した施設もあっただけでなく、半数近くが浸水のおそれがある場所にあり、受け入れのスペースも大幅に足りなかったためだとしています。

浸水した「けやきの郷」に入所していたおよそ40人も、福祉避難所に避難できず、設備の整わない一般の避難所を転々とすることになり、体調を崩す人も相次いだということです。

「けやきの郷」 内山智裕 総務部長
「一般の避難所で障害者が長く避難生活を送るのは非常に困難なことが分かりました。特に重度の障害がある入所者の場合、命の危険に関わる事態になるおそれもあります。水害時に安全に避難できる場所を事前に確保しておくことが非常に重要だと痛感しました」

福祉避難所が使えない?浸水リスクの実態は

浸水するおそれのある福祉避難所はどのくらいあるのか。NHKは、防災科学技術研究所の協力を得て、東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県の実態を分析しました。対象としたのは、国が管理する大河川沿いで氾濫による浸水が想定されている自治体です。

実は、福祉避難所の住所をウェブサイトやハザードマップで広く公開していない自治体も多く、位置データの収集におよそ3か月かかりましたが、最終的に92自治体の1567施設のデータが集まりました。国が公表している南関東の大河川の浸水想定区域図と重ね合わせ、最悪の場合、福祉避難所で浸水するおそれがあるのはどのくらいか、調べました。

分析対象の4割、660施設に浸水リスク

その結果は、予想を上回るものでした。分析対象の4割にあたる660の施設に浸水リスクがあったのです。さらにこのうち、浸水の深さが3メートル以上と、2階以上まで浸水するおそれがあるのが260施設にのぼりました。

中でも荒川や利根川沿いで浸水リスクのある福祉避難所のある区や市町村が多く、その数は少なくとも47にのぼり、半分以上の福祉避難所が浸水するおそれのある自治体も32に上ります。

荒川沿いでは…

利根川沿いでは…

そして特に厳しい状況となっていたのが、江戸川区や足立区など標高が低い「江東5区」と呼ばれる地域です。浸水深が3メートル以上のリスクがある施設の割合が6割近くに上っていました。 

今回の分析には都や県が管理するような中小の河川による浸水リスクは含まれておらず、あくまでも「少なくとも」の数字です。こうしたリスクを踏まえて、埼玉県加須市は、あらかじめ浸水のおそれがない2階以上などを開放すると事前に決めているほか、東京・荒川区は「水害時には区内に福祉避難所を開設しない」として、水害のハザードマップにも福祉避難所は載せていません。市や区の外への避難“広域避難”の方針を決めているところもありますが、離れた市や区の福祉避難所との調整は、となるとこれからです。

『全域が浸水域』江戸川区の模索

こうした中、より具体的な対策に乗り出したのが江東5区のうちの一つ、江戸川区です。
区内には1人で避難が難しい高齢者などは5000人余りいると試算されています。一方で、水害時に利用可能な福祉避難所を調べると、およそ1400人分しかないことがわかったのです。

江戸川区作成の資料より

このため、区はまず利用可能な1400人分の福祉避難所について、「だれが」「どうやって」避難するのか、明確にすることから始めています。
まず、介護度が高く、低い階で暮らす高齢者など1400人を抽出。安全な福祉避難所を事前に割り振りました。いわば“オーダーメード”の避難システムです。
ただ、現実に実行に移そうとすると課題は山積みです。
福祉避難所の多くは、特別養護老人ホームや障害者施設などの福祉施設が指定されています。新たに避難してくる人のために、介護用ベッドや食料を新たに準備する必要があります。さらに、医療的なケアが必要な避難者に誰が、どのように支援をするのか?事前に家族と方針を決め、合意しておく必要もあるのです。

江戸川区 白木雅博 福祉推進課長
「正直、まだ第一歩を踏み出したばかりの状態で課題が山積みなのは認識しています。最終的にすべて区民の方が安全に避難出来るよう目の前の課題を一つ一つ解決していくしかありません」

専門家『今のうちに避難先のリスク把握を』

家族の中に一般の避難所での生活が難しい人がいる場合、この問題が解決しないうちに大規模な浸水のおそれが出てきたら、どうしたらよいのか。
専門家は、近くに安全な避難場所がない場合には市区町村を越えた“広域避難”の必要性があるとしていますが、個人や福祉施設が自力で避難先を確保したり計画を立てたりするのは難しいため、自治体の役割が重要だと指摘しています。

高齢者などの避難に詳しい跡見学園女子大学 鍵屋一 教授
「自治体は“浸水域外”や“高い場所”にある安全な避難先を他の自治体に依頼してでも確保する必要があります。都や県をまたぐ避難もあり得るため、都や県も広域避難をわがこととして考え、一緒に整備を進めてほしい。危険が迫る中、直前に避難先を確保するのは難しく、移動手段も含めて今のうちから検討し、計画を立てておくのが大切です」

福祉避難所の情報 自治体は積極開示を

最後に、対策を進めるためにも、情報公開の重要性にもぜひ触れたいと思います。福祉避難所の住所データを広く公開していない自治体が多数あったため、今回、検討対象を南関東に絞らざるを得ませんでした。さらに、その限られた範囲でも福祉避難所のデータを収集するため、自治体の防災計画に住所が掲載されているか調べたり、情報公開請求をしたりしたため、3か月余りかかりました。
「災害時に混乱が生じるおそれがある」という理由で住所を「非公表」としたため、反映できていない自治体も複数あります。過去の災害では、設備が充実しているなどの理由で福祉避難所に多くの人が詰めかけ、本当に必要な人が使えなくなったこともありました。そのため国が福祉避難所の場所を広く住民に周知するよう求めているにも関わらず、住所を公開していない自治体も多いのです。
しかし、専門家は、事前に収容力の限界を住民が把握しておかなければ、具体的な対策も進められないと指摘しています。運用上の課題を明確にし、対策を前に進めるためにも、まずは情報公開を進めることが必要なのではないかと感じました。

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