第170回芥川賞と直木賞の選考会が17日東京で開かれ、芥川賞に埼玉県出身の九段理江さんの「東京都同情塔」が選ばれました。
九段さんの経歴や作品、選考委員の話などをまとめました。
芥川賞の受賞が決まった九段理江さんは埼玉県出身の33歳。
大学卒業後、研究室の助手などを務め、2021年、「悪い音楽」で文芸誌の新人賞を受賞し、小説家としてデビューしました。
芥川賞はおととし、166回の「Schoolgirl」に続き2回目の候補での受賞となりました。
受賞作の「東京都同情塔」は、「犯罪者は同情されるべき人々」という考え方から、犯罪者が快適に暮らすための収容施設となる高層タワーが、新宿の公園に建てられるという未来の日本が舞台です。
タワーをデザインした建築家の女性が、過度に寛容を求める社会や生成AIが浸透した社会の言葉のあり方に違和感を覚え、悩みながらも力強く生きていく姿が描かれています。
九段理江さんは記者会見で「とてもうれしく思っています。好きで書き始めた小説ですが、書き続ける力をくれる、出版社の方や家族や友人、楽しみに読んでくれる読者に感謝を伝えたいです」と受賞の喜びと感謝のことばを述べました。
そして、作品に込めた思いについて、「近年、ことばを無限に拡大したり、無限に解釈することが許されている、許容されているような状況がある。ことばというのは大切に使っていきたいと思うが、ことばのポジティブ、ネガティブどちらも考えていく必要がある」と話しました。
そのうえで、「この作品は、ことばで何かを解決しようとか、解決を諦めたくないと思っている人のために書いた。ことばで解決できないこと、というのは、何によっても絶対に解決できない。ことばによって考え続けることをやめたくない。そういった気持ちが、この小説を書かせてくれたし、そう感じている方にも届いたらいいと思っている」と話しました。
そして、AI時代の小説のあり方についての質問に対しては、今回の作品が生成AIを駆使して書いたものだということを明らかにしたうえで、「ふだんから、誰にも言えない悩みなどをAIに相談することがある。AIが期待したことを言ってくれなかったときに、自分が感じた思いを、主人公の建築家のセリフに反映することもあった。これからも生成AIをうまく利用しながらも、自分の創造性を発揮できるような小説を書いていきたい」と話しました。
また、自身も住んでいたり、作品の舞台にしたりしたこともある石川県で地震による大きな被害があったことについて、「一日も早く石川県の皆さんに穏やかな日常が戻るようにと毎日思っているので、今回の受賞でお世話になった人や、つらい状況にある人に明るい気持ちになっていただけたらうれしい」と話していました。
芥川賞の選考委員で作家の吉田修一さんはリモートで会見に応じ、九段理江さんの「東京都同情塔」を芥川賞に選んだことについて、次のように話しています。
作家 吉田修一さん
「1回目の投票で過半数のかなり高い評価を得てほぼ決まりました。最終的に小砂川チトさんの『猿の戴冠式』も含めてもう一度投票しましたが、九段さんの受賞となりました。
(評価のポイントについて)
選考委員の皆さんが口をそろえて話していたのはとても完成度が高く欠点を探すのが難しい作品ということでした。
架空の東京を舞台にした小説ですが、登場人物の思想の一貫性など、いろんなものがリアリティーを与えてうまく機能しているのではないかと評価されていました。
芥川賞ではありますが、エンターテインメント性の高い作品ではないかという意見があって、舞台設定や登場人物の動かし方など、多くの読者に届くというか、読者がおもしろがって読めるような作品になっていて、これまでの、最近の芥川賞の中でもけうな作品だという話も出ていました」