再開発でタワーマンションの建設が続くさいたま市。子育て世帯の人口流入が続く地域では、思わぬしわ寄せも出ています。
さいたま局記者/二宮舞子
首都圏局ディレクター/藤松 翔太郎
東京のベッドタウンとして人気のさいたま市。タワーマンションの建設が相次ぎ、子育て世帯の流入が続いています。人口は、この10年で10万人近く増加。
さらに、住民が支払う個人市民税の税収も、おととしには1347億円と、10年前と比べて500億円余り増加しました。
英語教育に力を入れていて、市内の小学校では1年生から英語の授業を実施しています。
こうした取り組みなども注目され、子育て世帯の流入が相次いでいます。
このうち、さいたま市南区のJR武蔵浦和駅の周辺は、1985年に駅が開業して以来、再開発が続いていて、今も、新しいマンションの建設が相次いでいます。
その武蔵浦和駅から500メートルほどの場所にあるさいたま市立浦和別所小学校。
駅が開業した1985年当時、クラスの数は18クラスでしたが、今は2倍以上の40クラス。全校児童は1200人余りにのぼります。
急増する児童数に対応するため、おととしには校庭の一部に、仮設校舎が建設されました。本校舎と40メートルほどの廊下で結び、5年生と6年生が学んでいます。学校は、この仮設校舎には臨時の本棚も設置して、子どもたちが本校舎にある図書室まで行かなくても本が借りられる環境を整えました。
しかし、さらなる整備が必要な問題もありました。
児童数に見合う校庭の広さではないのです。児童1人あたりの校庭の面積は、さいたま市の小学校の平均と比べて27%とおよそ4分の1。昼休みに校庭で全校児童が遊ぶと広さが十分とはいえません。
このため、学校では週に2回、校庭で遊べる学年を定め、子どもたちが思いっきり外で遊べるような環境づくりに取り組みました。校庭で遊べない学年は、教室や図書室などで過ごします。
取材した日は、2年生と5年生が外で遊べる日。
校庭で遊んだ5年生は…。
久しぶりに遊べたのでうれしいです。
今日はみんなでだるまさんが転んだをしていました。最近は暑すぎて外で遊ぶのがだめな日も多いんですけど、週に2回か3回ぐらい外で遊べます。
教室で遊んでいた4年生は…。
きょうは外で遊べないから教室で遊んでます。本当は外で遊びたい。走り回りたい。
本読んだり、連絡帳を書いたり、あとは外で遊べない日はタイピングしています。
持木 校長
すぐに校庭を広くしてほしいとか子どもたちの人数を減らしてほしいということはできないので今ある環境でなんとか工夫して、子どもたちの教育環境を整えられればということを我々は考えています。
この小学校のほかにも、武蔵浦和駅周辺の小中学校も子どもの数が増加して大規模化していて、今後も増加が見込まれるとして、新たに義務教育学校の建設が決まりました。
さいたま市は、ほかにまとまった土地がないなどとして、建設用地にウォータースライダーや流れるプールを備えた沼影公園を選定しました。
このため、地域住民に親しまれてきた沼影公園の屋外プールは8月31日を持って閉鎖されました。
沼影公園は、「海なき市にプールを」という思いで誕生しました。
地域住民からは、“沼プー”という愛称で呼ばれ、50年以上にわたってのべ600万人以上が訪れてきました。
最終日の8月31日にも、別れを惜しむたくさんの地域住民の姿がありました。
話を聞いてみると、学校の必要性を理解しながらも、プールがなくなることに複雑な思いを抱えていました。
小学校5、6年にもう浴びるように来ていたので、もうなくなっちゃうというので、自分の子どもも連れてきたいと思ってきました。
なくなっちゃうのはすごくさびしいなって、改めて実感します。涙が・・・。
今の学校も人数が多くて、新たに学校を建てるところがここしかないって聞いたんで、それは仕方がないかなと思います。
小学校の時は毎週友達や家族で来ました。水泳の練習をして、おかげさまで学校代表になったこともあり、本当に思い出のあるプール。
学校ができてよかったなというふうになってもらえたらいいなと私は願うばかりですね。批判ばっかりしてても前にはいかないんでね。
23年にわたってこのプールで働き、プールの安全を守ってきたのが、沼影公園の會田孝志所長です。
會田 所長
自分にとっては、もうほぼ人生の半分いたので、ほぼここに全てを捧げてきたと言っても過言じゃないと思っています。
小中学校の問題もかなり大きな問題だと思うので、しょうがないという思いと、何とか他にならないのかなっていう思いの交錯した部分ですね。
地域住民のなかには、このプールは地域の子どもたちが遊べる貴重な場所だとして、なんとか存続してほしいと、引き続き署名活動を行っている人たちもいます。
一方で、さいたま市都市公園課の担当者は、難しい決断だったと話しています。
川名 課長
沼影公園を引き続き使っていきたいところですけれども、人口増加に伴いまして学校等の規模が不均衡になってきている状況が発生しています。そういった課題を解決するために、廃止することになりました。
もともとさいたま市は、全国的に見ても1人あたりの公園面積が少ない地域です。このため、さいたま市としては、2ヘクタールの広さの沼影公園がなくなる分、住民が憩える新たな公園の用地の選定を進めました。沼影公園ほどの広さはありませんが、3か所を取得し、公園として整備することにしています。
また、屋内プールの解体をギリギリまで遅らせるなど、工事の期間を工夫することにしています。
さらなる課題も…
さいたま市中央区のタワーマンションに住む西村みほさん(33)です。
夫と2歳から小学生までの3人の子どもとの5人暮らし。
ゆとりのある環境で子育てがしたいと、2年余り前に都内から引っ越してきました。
西村さん
駅を降りてみて、すごく空が開けている。街がきれいだったり、歩道が広いとか並木道もあって、雰囲気が気に入ったっていうのが最初一番ありましたね。
3人兄弟が珍しくないっていうのも、すごく住みやすいなって思ってます。
しかし、思わぬ事態に直面しています。
子どもが体調を崩したとき、小児科で予約がとりにくいというのです。
複数の小児科の予約を試みるものの、そのすべてが予約で埋まっていることもあり、診察できないまま家で子どもの様子を見るという場合もあるといいます。
西村さん
予約全然とれないです。しょうがないから数日家で様子をみて治ってから保育園行こうか、みたいな感じ。
この地域で15年以上にわたって小児科のクリニックを営む西村敏院長です。
西村 院長
もともと小児科医がそんなにすごい勢いで増えてるわけじゃないですから、急に急角度で子どもが増えても小児科医は増えないですし。
急に子どもが増えたからそこに医師を増やそうとしても、10何年経つとみんな大人になって小児科にはかかりませんから、一時期だけそこで開業して、またほかに移るっていうのもなかなか現実的ではない。
みんな診たいんですけど診きれないのは、これはもうどうにもならない。
さらに、新型コロナウイルスやインフルエンザなど発熱外来の対応が求められ、患者1人あたりの診察に時間がかる状況が生じていると感じています。このため、子どもの数が急増すると、さらに予約が取りづらい状況になっているのです。
再開発に伴いタワーマンションが増加し、子育て世代に選ばれているさいたま市。
人口急増で、学校や医療など思わぬ対応に迫られています。