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ごみから発火 リチウムイオン電池が原因の火事に注意 埼玉県

  • 2023年06月30日

スマートフォンやモバイルバッテリーなど、手軽に持ち運びできる電子機器や家電製品。それらを支えているのがリチウムイオン電池です。従来の電池よりも軽くて長持ちするうえ、何度も充電できるのが特徴です。一方、リチウムイオン電池が原因とみられる火事が、ごみ処理施設で相次いでいます。中には、億単位の損害につながるケースも。何が起きているのか、実態と背景に迫りました。

(さいたま局 記者/平岡仁)

ごみ処理施設で突然

「現場に駆けつけたときは、バチバチとゴムベルトの焼けたような音がしました」

こう話すのは、さいたま市にあるごみ処理施設、さいたま市桜環境センター リサイクルセンターの田村静哉所長です。

ことし4月、不燃ごみや粗大ごみを処理するエリアで、突然火の手が上がりました。

田村所長
「モニターでチカチカしているのを発見したんですね。カメラもすぐ真っ黒になり、何が起こったのかわかりませんでした。現場は、黒煙で1メートル先くらいしか見えず、中に入れる状態ではなかったです」

さいたま市によりますと、火事が起きた場所には、ごみの中から金属を選別する機械があり、水をかけると壊れてしまうことから、周辺にはもともとスプリンクラーが設置されていませんでした。このため、火は勢いを増し、運搬用のコンベヤーに燃え移る形で火が広がっていったということです。消火まで、5時間かかりました。被害額は数千万円にのぼっただけでなく、3週間あまり、不燃ごみの受け入れが止まりました。この間、市内の別の施設が負担することになりました。

スプレー缶の火事に特徴的な爆発は起こらず、焼け跡からリチウムイオン電池とみられる残骸が見つかりました。

環境センターは、ごみに混入したリチウムイオン電池が火元とみています。

外部の衝撃で発煙・発火

リチウムイオン電池は、従来の電池に比べて小型で軽く、容量が大きいことから、携帯電話や小型家電などに使われています。便利な一方で、NITE=製品評価技術基盤機構によりますと、外部から衝撃が加わり、へこむなどすると、内部がショートして発煙や発火につながるおそれがあるということです。こちらは、NITEが行った実験です。

リチウムイオン電池を内蔵したモバイルバッテリーが、ごみ収集車に押しつぶされると、白い煙が上がりました。

しばらくして火がつき、ほかのごみに燃え広がりました。

冒頭で紹介したさいたま市桜環境センターでは、出火の直前に、ごみを細かく砕く破砕機を通っていました。このとき強い圧力がかかり発火したとみられています。

同様の火事 全国で

同じような火事は全国で相次いでいます。環境省によりますと、令和2年度に、ごみ処理施設やごみ収集車でリチウムイオン電池が原因で火が出たと疑われるケースは、5600件あまりにのぼりました。
3年前に上尾市で起きた火事では、不燃ごみの処理施設が9か月あまり使えなくなり、他の自治体や民間にごみの処理を委託する必要が生じました。修理費用とあわせて損害は5億3000万円あまりにのぼりました。

この火事を受けて上尾市は、ごみを運搬するコンベヤーの素材を燃えにくい素材にしたほか、早期の発見と速やかな消火につなげるため、火災探知機とスプリンクラーを大幅に増やしたということです。

毎日のようにリチウムイオン電池が原因とみられる火事に悩まされている施設もあります。

坂戸市の東清掃センターです。こちらは、火事のようすを捉えた画像です。
画面の左に、煙が吹き出しているのが確認できます。

その後、何かが燃えながら押し出され、炎が上がりました。

作業員が急いで消火にあたっています。

この施設では、作業員が常にモニターで目を光らせていますが、火事の危険と隣り合わせで不安の連続だといいます。
市は、ずっと手をこまねいていたわけではありません。おととし12月には、リチウムイオン電池や内蔵された小型家電の分別回収を始めました。その結果、一時的に不燃ごみへの混入は減ったといいます。しかし、今年度に入ってから再び増加傾向にあるということです。

混入する2つの理由

そもそも、なぜ、ごみの中に、これほどリチウムイオン電池が混入するのでしょうか。その理由の1つが、急速な普及です。リチウムイオン電池は、商品開発が進む中で、さまざまな製品に浸透しています。この日、東清掃センターに持ち込まれたごみを見てみると、スマートフォンにワイヤレスイヤホン、ハンディーファンなど、次から次にリチウムイオン電池が使われている製品が見つかりました。

東清掃センターは、ごみを持ち込む住民向けに、リチウムイオン電池が使われている製品の中で過去に他のごみに混じっていたものを並べ、注意を呼びかけています。

掃除機、電動シェーバー、歯ブラシ、加熱式の電気たばこ など

チラシやホームページでも周知していますが、限界を感じているといいます。

坂戸市東清掃センター 井川紀彦 所長
「多種多様で、何から何までが充電式に変わりつつあるので、分別して出してくださいというふうに伝えていく方が追いつかない」

混入があとをたたないもう1つの理由が、リチウムイオン電池が使われていることのわかりにくさです。製品の本体にリチウムイオン電池が使用されていることが表示されていないものもあるからです。

「製品自体にはリチウムイオン電池が内蔵されていることがどこにも書いていないものが多いので、ちょっと分かりづらい状況になっていると思います」

火事を防ぐには

リチウムイオン電池の混入を防ぐにはどうすればいいのか。専門家は、表示を明確にするルール作りと、ごみを出す側の分別意識の徹底が必要だと指摘しています。

環境カウンセラー 鬼沢良子さん
「トラブルを予防するにはやはり作る段階から捨てられたときのこと、処理の仕方のことも考えて、情報提供をしていく必要があると思います。清掃工場が燃えてしまったら、ごみの搬入すらできなくなります。私たちひとりひとりの行動とこうした被害や影響がすごくつながっていると認識することが大切だと思います」

“充電”をヒントに

リチウムイオン電池の混入や火事は、不燃ごみの現場だけでなく、プラスチックをリサイクルする現場でも起きています。日本容器包装リサイクル協会によりますと、民間のプラスチックリサイクル工場も大きな被害を受けているということです。
リチウムイオン電池が使われているのかどうかは見分けるのは難しいですが、リチウムイオン電池の特徴がヒントになります。それが充電機能です。充電できる製品だったらリチウムイオン電池が使われている可能性があると考えるようにしてください。そして、ごみを出す前に住んでいる地域の回収のルールを確認し、1件でも混入による火事を防ぎましょう。

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