ことし3月、埼玉県戸田市の中学校に17歳の少年が侵入し、教員をナイフで切りつけ大けがをさせた事件から3か月あまり。事件のあと、初めて学校にカメラが入りました。あのとき何が起きていたのか、学校は生徒たちの安全をどう守ろうとしているのか、取材しました。
(さいたま局 記者/藤井美沙紀)
戸田市立美笹中学校が、NHKの取材に応じました。事件のあと、学校の敷地に入ったのは初めてです。校長室に向かうと渡部淳子校長が迎えてくれました。渡部校長は、事件当時、教頭として対応にあたりました。あの日のことを次のように振り返ります。
「大変なことが起きたなというのが実感。でも目の前でやるべきことがたくさんあったので、職員と一緒になんとかこれを乗り切らねばと」
事件は、ことし3月1日に起きました。
警察や学校によると、逮捕された17歳の少年は、正門から敷地に侵入し、その先にある1階の職員玄関から中に入りました。
その後、3階にある1年生の教室に姿を現します。
教室では、28人の生徒が試験を受けていました。試験に立ち会っていた60代の男性教員は、すぐに生徒たちに避難するよう指示します。そして、少年を制止しようとした際、ナイフで切りつけられ大けがをしました。
校長は、当時、教室の真下にある職員室にいました。生徒たちが避難する物音で異変に気づいたといいます。
渡部淳子 校長
「上の階で物音がすごくしたので、通常と違うということで、私を含めここにいた職員は上のほうに駆け上がっていった」
校長たちは、警察に通報するかたわら現場の教室に向かいました。このとき、少年は、試験に立ち会っていた男性教員に取り押さえられていて、駆けつけた他の教員たちの姿をみて、抵抗する気を失ったようだったといいます。こうして、生徒への被害を防ぐことができました。一方で、校舎への侵入を許してしまったことから、対応の見直しを迫られました。
生徒たちの安全をどう守るのか。
まずは、校舎に入れないための対策です。3つのポイントに分けて、セキュリティを強化しました。
校門には、警備員を配置しました。敷地内への侵入を防ぐのが狙いです。
校舎の出入り口にも対策を講じます。3か所ある生徒玄関は、登下校の時間以外は鍵をかけ、出入り口を職員玄関に一本化することにしました。
一本化した職員玄関には、オートロックを設置し、簡単に侵入できないようにしました。インターホンに内蔵されたカメラを使って、来校者の様子を職員室などから確認することができます。
次に侵入を許してしまった時にも備えています。被害を防ぐため盾など防犯用品を増強しました。
こちらは、凶器から身を守る盾です。
せっかく用意しても使いこなせなくては意味がありません。教員たちは、防犯用品の販売会社を講師に招き、使い方を訓練しています。
「盾があれば、自分の身に直接危害が加えられるわけではないので、安心感があります。中腰で重たいものを持たなければいけないのできついですが、使い慣れればいいと思います」
さらに、行事などが狙われないよう、ホームページで公開していた年間予定の削除にも踏み切りました。地域とのつながりを大切にしてきた学校にとって悩んだ末の決断でした。
次々と対策を進める中で思うようにいかないことも出ています。オートロックは、リモコンでも施錠できるため、職員室から操作を試みました。しかし、うまく閉まりません。
トラブルの原因の解明も含め、全員が使いこなせるようになるまでには、まだ時間がかかりそうです。
出入り口を一本化した取り組みにも課題が浮かび上がりました。
「外で活動している生徒が体調不良になったら対応が遅れるのではないか」という懸念の声があがったのです。校庭で体調を崩した場合、職員玄関にまわり込まなくてはならず、大きな負担となります。このため、登下校以外にも、生徒玄関を開けておく時間を設ける方針に転換しました。事件の再発防止に向けて取り組みを進める一方で、地域とのつながりや教育とどう両立させていくのか今後も模索していく必要があると感じています。
渡部淳子 校長
「生徒たちがすごく頑張っているのを見ていただくことで地域でも見守られている、その辺の難しさというか、ジレンマというか、防犯対策ばかりメインになって教育活動がおろそかになるのは違うと思う。いろんな対策を練りながら、1つずつクリアしていくしかない」
戸田市教育委員会は、事件を受けて中学校を学校安全対策のモデル校にしています。今回取材した以外にも、学校の敷地の周りに高さ2メートルほどのフェンスを設置するなど、さまざまな対策を行い、効果を検証することにしています。その上で、市内の学校をはじめ、全国のほかの地域の学校でも、参考にしてもらいたいとしています。
安全を重視しすぎると理想の教育が犠牲になる。学校は、そのバランスに悩みながら模索を続けています。そのようすが取材をしていて強く印象に残りました。試行錯誤の先に、どのような教育現場の姿が見えてくるのか、取材を続けていきます。