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障害者も高齢者も安心して避難できる環境を 埼玉県新座市

  • 2023年05月24日

災害が発生したときに、障害者や高齢者など配慮が必要な人たちが安心して避難生活を送るにはどうすればいいのか。福祉避難所と呼ばれる専用の避難所ではなく、地域の人たちが集まる学校の体育館などで地域の人たちと一緒に過ごす方法を模索する取り組みが埼玉県新座市で続けられています。

(さいたま局 記者/二宮舞子)

障害者や高齢者が避難訓練

今月、埼玉県新座市で地域住民が主体となって災害を想定した1泊2日の避難訓練が行われました。参加したおよそ150人の中には、障害者や高齢者といった災害時に配慮が必要な人たちの姿も。 

午前10時半、訓練が始まりました。障害者や体の不自由な高齢者のもとに、地元の中学生が迎えにきました。中学生は、ふだん地域で学校生活を送っていることから、災害時に高齢者や障害者を支援する役割が期待されていて、今回参加しました。

向かった先は・・・

子どもたちに車いすを押してもらい、障害者や高齢者が向かった先は、多くの市民が避難する小学校です。

災害が起きると、障害者や高齢者など配慮が必要な人たちのために、福祉避難所という専用の避難所が開設されます。

福祉避難所
高齢者や障害者、乳幼児など特に配慮が必要な人たちが円滑に利用でき、相談や支援を受ける体制が整備されている施設。老人福祉施設、障害者支援施設、児童福祉施設などのほか、整備することで福祉避難所として利用できる小中学校や公民館も含む。

なぜ、地域の人たちと一緒なのか。

訓練を主催した団体の副会長を務める木村俊彦さんは、次のように話しました。

「一番大きいのは、福祉避難所では自分たちの施設の利用者のサポートだけで精一杯という話もあるし、家族ともバラバラになってしまう可能性もあることです。小中学校の体育館はバリアフリーで、スロープもあるし車椅子トイレもあるので、そこに家族やヘルパーなど対応に慣れた人がいるっていうのが、一番安全と言えば安全ですよね」

木村さんの団体は、ふだんから障害者や高齢者の居場所づくりなどに取り組んでいますが、10年あまり前から防災にも力を入れるようになりました。その中で木村さんが気づいたのは、福祉避難所は数やマンパワーが限られていることや、いつ開設されるか分からないこと、さらに利用できるのが本人と付き添いに限られることでした。家族がバラバラになる分、負担が大きいのです。このため、地域の避難所に、配慮が必要な人たちも一緒に過ごせる道を模索してきました。

初めて泊まりがけで参加

参加者の中に、不安と期待を抱えながら参加した親子がいました。田端久美子(56)さんと、次男の勇馬さん(28)です。勇馬さんは、自閉症で知的障害があり、他人とのコミュニケーションや人混み、それに環境の変化が苦手です。おととしは母親の久美子さんだけ、去年は親子で日帰りでの参加でしたが、今回は初めて親子で泊まりがけで訓練に挑戦しました。

母・久美子さん
「うちの息子が環境の変化にとても弱いんですね。いざというときに本人も私も混乱してしまうのはとても不安なので、やっぱり地域の方々と一緒に参加しながら徐々に慣れていって、いざというときのために備えたいと思っています」

久美子さんは、慣れない環境の中で地域の人たちと一緒に避難所で過ごし、1泊2日の日程をこなすことを目標に据えました。

ライフライン途絶えた想定

全体の訓練では、災害で水道やガスが使えなくなったという実践的な想定で、みんなで手分けをして避難所づくりを行いました。

仮設トイレの組み立ては、初めてという人もいました。慣れれば15分ほどでできるそうですが、市役所の職員に教えてもらいながら、30分ほどかかりました。

トイレが完成しても流す水がありません。このため、参加者たちはバケツリレーで水を調達しました。

こちらは、炭でドラム缶のお湯を沸かしているようすです。今回は、足湯用にお湯を温めるのに使いました。

母親の久美子さんと勇馬さんは、段ボールベッドの組み立てを担当しました。しかし、勇馬さんは、組み立てを嫌がり、久美子さんが段ボールを手渡しても投げてしまいます。

体育館の隅に座り込み、みんなの輪に入ろうとはしませんでした。到着して1時間も経たないうちにパニックを起こすなど、落ち着かない様子。

久美子さんが手を焼いていたとき、地域の人たちがすぐに駆けつけて声をかけ、なだめてくれました。
訓練が始まる前、久美子さんは次のように話していました。

「こういう機会に参加することで、皆様がうちの息子とどう関わったらいいかとか、どういう支援がいいかというのを知っていただける」

それだけに、地域の人たちの助けが心強かったといいます。

「混乱した時に地域のみなさんが、わっと来て助けてくたので心強くて安心です」

落ち着いて過ごせる工夫

地域の人たちの協力に加えて、勇馬さんが落ち着いて過ごせるよう、久美子さんは、さまざまな工夫をしました。

1つ目が、テントです。混乱したとき、プライバシーを確保するために逃げ込むことができ、シェルターとして使えます。

2つ目は、勇馬さんの大好きな足湯です。パニックを起こした後、地域の人たちが予定よりも早く足湯の準備をしてくれて、足湯に入ることができ、リラックスすることにつながりました。

3つ目は、食事です。勇馬さんが大好きだという飲み物や、メロンパンを用意することで、慣れない環境のなかでも、少しでも気分よく過ごしてもらえるようにしました。その甲斐あって、夕食の時間以降は勇馬さんも落ち着きを取り戻し、周りに人がいてもリラックスして食事ができました。

普段はできていることも

翌朝。
久美子さんにぐっすり寝られたか尋ねると、思いもよらぬ答えが返ってきました。

久美子さん
「なかなか息子が寝られなくて。なんでこんなに寝られないんだろうと思ったら、息子は寝る前にいつも睡眠導入剤を飲んでるんですけど、飲ませるのを忘れちゃって。おうちではルーティーンとして決まってるので飲み忘れはないんですけど。自分も慣れなきゃいけないなと」

忘れているのに気づいたのは、深夜0時半ごろでした。慌てて飲ませると、勇馬さんは20分ほどでぐっすり寝てくれたといいます。久美子さんは、普段はできていることも、慣れない環境ではミスにつながってしまうことから、サポートする側も普段と違う環境に慣れることが必要だと強く感じたといいます。

自ら人の輪に

訓練の最終盤には、思いがけない出来事がありました。

テントを片付ける地域の人たちの輪に、勇馬さんが自ら加わっていったのです。久美子さんは、地域の人たちの支えもあり、多くの人と一緒に避難生活を送れる可能性を見いだすことができました。

「いろいろパニックになったりやらかしたりしたんですが、機嫌がいい雰囲気があったり笑顔があったりする様子がところどころ見られたので、チャレンジして良かったです。地域の助けがなかったら途中で帰ってたかもしれないと思うんですが、そういう支援が支えになって目標達成できました」

主催した木村さんたちの思いは、災害時に配慮が必要な人たちが安心して避難できる地域にすることです。そのためにも、避難訓練だけでなく、日頃から障害者や高齢者と、地域住民が顔を合わせる機会を増やしたいとしています。

木村俊彦さん
「1泊2日にすることで、いいところを見せるだけでなく、自閉症の人がパニックを起こすなど、ハプニングも含めて地域の人に知ってもらうことが大事。単発のイベントだけでどうこうなるという話じゃないので、これをきっかけにして日常生活での交流にどう広げていくかが大切」

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