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高齢者施設がアーティストの拠点に 埼玉県東松山市

  • 2023年5月15日

埼玉県東松山市の高齢者向けのデイサービス施設では、施設にアーティストが滞在しながら利用者と一緒に創作活動を行う全国でも珍しい取り組みが始まっています。アーティストと高齢者が交流することで、どのような変化が生まれているのでしょうか。

(さいたま放送局 武田 涼花 キャスター)

クロスプレイ東松山

東松山市の「デイサービス楽らく」です。一日、およそ30人の高齢者が通い、体操や裁縫、合唱を楽しんだり、昼食や入浴のサービスを受けたりしています。

デイサービス施設の片隅に「アーティスト イン レジデンス」と呼ばれる宿泊施設があります。利用者が利用するわけではありません。全国各地からさまざまなジャンルのアーティストが住み込んで、利用者との交流を通じて創作活動を行っています。

「クロスプレイ東松山」と名付けられたこのプロジェクト。演劇やダンス、アートイベントのプロデュースを手掛けている藤原顕太さんが中心となって去年から始まりました。高齢者福祉施設の利用者がリクリエーションの時間に音楽やダンスを楽しむ光景はよく見かけますが、アーティストと一緒になって創作活動を行う取り組みは全国でも珍しいといいます。

「デイサービス施設は地域との交流の機会が少ないので、アートの力を借りて地域に開かれた場所にしたいと思って始めました。アーティストと高齢者が“クロス”することで、お互いに新しい考え方や価値観をもたらしてくれる出会いの場になるのではないかと考えています」(藤原顕太さん)

藤原顕太さん

ラジオ番組やダンス作品を“共同制作”

文筆家のアサダワタルさんは、施設だけで聞くことができる‘ラジオ番組’をつくりました。利用者からリクエストをかけながら、曲にまつわる思い出を話してもらいます。ふだんは口数の少ない利用者も音楽をきっかけに話が弾み、喜びの声が寄せられたといいます。

振付家でダンサーの白神ももこさんは施設の日常の風景をテーマにしたダンス作品を制作しました。利用者や施設の職員が白神さんと一緒になって振り付けや演出を考え、「どこ吹く風のあなた、ここに吹く風のまにまに」という作品をつくりあげました。作品はことし1月、利用者や施設の職員が実際に出演して、東松山市民文化センターで披露されました。

施設長の武田奈都子さんは、アーティストの滞在が、施設で働く人にも大きな影響を与えているといいます。

「高齢者施設では、どうしても介護する人とされる人という関係になってしまうんですが、アーティストが滞在することで生まれる新たな視点や発想力に職員が感化されて、お互いの関係の幅が広がったなと思っています」 (武田奈都子さん)

武田奈都子さん

“アート”דケア”で新しい介護の形を

“遊び”をテーマに誰もが触って遊べる「おもちゃ作品」を制作している安村卓士さんは、作品づくりのヒントを得たいとことし3月、秋田県からプロジェクトに参加しました。

「利用者の方たちが昔、慣れ親しんでいた遊びを聞いてみたいと思って参加しました。お話を聞いたうえで、施設で利用者が実際に遊んだり、使ったりできる作品をつくりたいと思っています」 (安村卓士さん)

これまでは自分で思いついたアイデアを作品に生かすことが多かったという安村さん。最初は高齢者とうまくコミュニケーションがとれるか不安でしたが、施設に泊まり込んで、長い時間を一緒に過ごすにうちに、徐々に打ち解けることができたと言います。

「昔はおもちゃ自体が売っていなかったので、落ちている木とか石を使って自分たちで工夫しながら遊んでいたという話を聞くことができました。これまでまったく聞いたことがない遊びがたくさんあるので、すごく面白いと感じました」 (安村卓士さん)

安村卓士さん

安村さんのノートには、インターネットでは検索することができない、さまざまな昔の遊びに関するメモが貯まっていきました。

安村さんが施設に滞在中に制作した作品です。高齢者が健康管理のために使っている紙製のダンベルを鉛筆やかっぱ巻きなどに見立てて、個性あふれるおもちゃに変身させました。

利用者からは好評の声が相次ぎました。

「すごく素敵」

「お兄さんが書いた絵とは思わなかった」

「やってて、とても楽しい」

施設長の武田さんは、これからもアーティストに滞在してもらって、新しい介護の形を見つけていきたいと考えています。

「アーティストと施設の利用者が同じ場所にいるのにそれぞれちょっと違う活動をすることで、これまであまり考えていなかった出会いや話がたくさん生まれていると感じています」

「介護の現場では、この人にはこういうふうに接したほうがいいかなとか、こういうケアをしたほうがいいかなとか、常に想像力を働かせて仕事をしているので、実はとてもクリエイティブな仕事なんです。予定調和にならないことも含めて、新しいケアの在り方みたいなものが探れたらいいなと思っています」 (武田奈都子さん)

キャスターからひと言

「毎日、同じことやってるよりも、知らない人が入ってくると面白い。なにをやってるのかなって見てるのも面白い」と話してくれた利用者の笑顔がとても印象的でした。

今月上旬からは、ケアとアートをテーマに作品をつくっている東京芸術大学の大学院生が滞在しているということです。どんな化学反応が生まれて、どんな作品ができあがるのか、とても楽しみです。

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