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埼玉県議選挑んだトランスジェンダー議員 少数派の声届けたい

  • 2023年04月21日

統一地方選挙前半戦の埼玉県議会議員選挙に、トランスジェンダーの無所属の候補者が挑みました。少数派の人たちの声を政治に届けたいと臨んだ選挙戦を取材しました。

さいたま放送局所沢支局/記者 高本純一

トランスジェンダーの男性 公表して市議会議員に

県議会議員選挙に挑んだのは、埼玉県入間市の市議会議員として活動してきた細田智也さん(31)です。
6年前の2017年、25歳の時にトランスジェンダーの男性であることを公表したうえで市議会議員選挙に立候補。初当選して注目を集めました。

七五三の時の写真

細田さんは幼い頃から、女の子らしい服装などに違和感があったといいます。成長するにつれ、心と体の性が一致しないことに苦痛と嫌悪感が増してきました。

20代前半の時に手術を受けて、戸籍の性別を男性に変更し、名前も男性の名前に変えました。

細田智也さん
「自分のようなトランスジェンダーであったりLGBTといわれる人が、隣にいるかもしれない、身近に感じてほしいという思いで入間市議会議員選挙に立候補する決意をしました。1回目の選挙も2回目の選挙も『あなたは何かの少数派ではありませんか』という問いかけをしています。自分は性的マイノリティーですが、瞳の色や利き手、資産の量など、それぞれ何かの少数派と感じる要素はないかと。それは決してマイナスの要素ではなくて、お互いの価値観を認め合うことが大切なんじゃないかというところを、ずっと訴えてきました」

少数派の「声なき声」をすくい上げ政治に

「性的マイノリティーのことを知ってほしい」と議員活動を続けてきた細田さんの元には、さまざまな少数派とされる人たちからも声が寄せられるようになりました。
例えば、AYA世代(10代後半から30代の若いがん患者)の在宅医療、死産や流産を経験した人の相談先、不育症の悩みなどで、「どこに相談したらいいかわからない」とか「秘密を守りたいので地元以外の相談先を知りたい」といった内容だったということです。

入間市のホームページ

細田さんの働きかけもあって、入間市のホームページには流産や死産を経験した人のための相談先が掲載されるようになったといいます。

「LGBT、トランスジェンダーの当事者だからこそ、『もしかしたら、自分の悩みを言ったら、届けてくれるかもしれない』ということで、市民の声、悩みを聞くことができたと思っています」

こうした活動を続けてきた細田さんは、2回目に立候補した市議会議員選挙では全体で2位となる得票で再選されました。

細田さんが、大切にしているのは「小さな声」にも耳を傾けることです。市民が集まる公園などにみずから足を運びます。
桜が満開となったこの日、入間川の河原に親子が集まっていました。細田さんは、子どもとふれあいながら、親には困っていることや悩んでいることはないか、声をかけていきます。

母親
「子どもたちが食べ盛りなので、お米のクーポンを支給してもらえると助かります」

母親
「言おうかどうしようか悩んでいましたが、線路沿いの公園にある遊具が古い。シーソーがバタンバタンという感じで、指が挟まったら指が取れるのではないかと思います」

「暮らしていくなかでの子育てに対しての課題などを直接、聞くことができるので、いい機会だと思っています。こうした個々の意見を少しでもすくい上げて行政に届けていくことで、政治に関心を持ってもらえることにもつながるので大切なことだと思っています」

聞き取った「小さな声」をより広く政策に反映させたいと、細田さんは県議会議員選挙への立候補を決意しました。

新人5人が2議席を争う激しい選挙戦

候補者5人が参加した公開討論会

細田さんが立候補した西2区は入間市が選挙区で、前回4年前は無投票でした。
今回は2人の定員に対し新人5人が立候補して、8年ぶりの選挙戦となりました。
このうち3人が政党の公認候補でした。

細田さんは組織に縛られたくないと無所属で立候補しました。
少数派の人たちの声を届け、すべての人の人権を守っていきたいと、これまでの選挙で続けてきた問いかけを今回も訴えました。

「あなたは何かの少数派と感じる要素を持っていませんか。お互いの価値観や生き方の違いを認め合い、フラットな関係を築くことが必要。これからは人権問題、人づくり、しっかりと考えていかないと持続可能なまちづくりはできないと思っています」

声をあげられない人の「声なき声」を政治に届けるためには絶対に負けられないと、細田さんは市内をくまなく回り声を張り上げました。地元の公民館では個人演説会を開きました。

支援者
「同じ地域の消防団のメンバーとして一緒に活動してくれているので、道路標識のことなどで相談したことがあります。地域でよく頑張っているので、地域をよりよくするためにも県議会で頑張ってもらいたい」

選挙期間中、街頭演説を行う細田さんの隣には、いつも手話通訳をする人の姿がありました。ボランティアの女性が、耳の不自由な人がいるかいないかに関わらず、すべての人に訴えを届けたいという細田さんの思いに共感し、協力しています。

ボランティア
「細田さんが心から住みやすい世の中を作ろうと活動していることにすごく共感して、微力ながら手伝っています。通りかかった時に少しでも手話通訳があることで、細田さんが誰に対しても情報保証をする人だということをわかってもらえたらうれしいです」

埼玉県議会では初めてとみられる“トランスジェンダー議員”を目指して、9日間の選挙戦を戦い抜きました。

“今後も小さな声に耳を傾けて”

迎えた4月9日の投票日の夜、細田さんは6539票を獲得したものの得票順は4番目でした。政党公認の候補者には及ばず、議席を獲得できませんでした。

落選はしましたが、細田さんが今後も「声なき声」に耳を傾ける姿勢に変わりはありません。

細田智也さん
「率直な気持ちとしては悔しいですが、今回は自分の信念を曲げずに無所属で選挙戦を戦ったので後悔はありません。6539人の票は私に期待してくれた人たちの思いであり、重いものと受け止めています。自分自身、トランスジェンダーという立場で市議会議員として2期6年間、少数派の人たちに寄り添い、声のあげられない人たちの声を届けてきたし、形にしてきたことは自負しています。今後のことは時間をおいて考えたいですが、人権を守ることは大切なことなので今後も少数派の人たちに寄り添い、小さな声に耳を傾ける活動はできる限り続けていきたい」

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