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外国人技能実習生を狙うブローカー 不法就労のわな 埼玉県

  • 2023年03月13日

日本で働きながら仕事の技術や知識を学ぶ外国人技能実習制度。そんな実習生を甘いことばで誘い、不法就労させるケースがあとをたちません。背景や手口に迫りました。

(さいたま局 記者/西山周)

収入減り やむなく職場をあとに

埼玉県で暮らすベトナム人のトゥ・ティー・フエさん(30歳)です。

4年前、2人の子どもを残して夫とともに技能実習生として日本に来ました。当初、岐阜県のプラスチック工場で働いていました。月給は9万円ほどでした。
しかし、新型コロナの影響で仕事が減ってしまい、収入も1割から2割ほど下がったといいます。トゥさんは、収入の一部をベトナムに仕送りしていましたが、生活に余裕がなくなり滞るようになりました。
技能実習生は、原則、転職が認められていません。このため、収入が増える見通しが立たなかったトゥさんは、来日から1年あまりで職場から逃げ出したということです。

トゥさん
「ベトナムで暮らす6歳と7歳の子どもを病院に通わせるため、お金がかかってしまい、子どもたちを支えるには逃げるしかなかった」

その後、トゥさんは入国管理局に出頭し、新型コロナの影響で帰国が難しい外国人のための特例を利用して短期間のビザを取り直しました。仕事は知人の紹介で、今の県内の農場で働くことができ、夫もあとから合流しました。

在留期限は3月に切れるため、ベトナムに帰国することにしています。

制度開始から30年 課題も

「外国人技能実習制度」は、外国人が日本で働きながら仕事の技術や知識を学ぶ制度で、平成5年に始まりました。法務省によりますと、技能実習生は2022年6月末時点で、32万7689人にのぼり、国別では、ベトナムが55.5%と最も多く、次いでインドネシアが12%、中国が11%などとなっています。日本での滞在は最長で5年まで認められますが、職場や仕事の内容はあらかじめ決められています。
こうした中トラブルもあとをたたず、実習生の支援などを行う国の認可法人「外国人技能実習機構」によりますと、2021年度に寄せられた相談は2万3701件でした。相談は、暴力やいじめのほか、賃金や残業に関する内容が多いということです。中には、生活や環境に耐えかねて職場から逃げ出す実習生もいて、法務省によりますと、おととしは7167人にのぼりました。

甘いことばで勧誘 そして

理想と現実のギャップに悩む実習生を狙った犯罪があとをたちません。埼玉県警の元警察官でNPO法人「アジアの若者を守る会」の代表の沼田惠嗣さんは、劣悪な環境の職場から逃げ出すなどした多くの実習生を支援してきました。
一方で、実習生に甘いことばをちらつかせて、正当な手続きを経ずに別の仕事を斡旋するブローカーもいるといいます。

沼田さんによりますと、ブローカーはSNSで実習生に高収入が望めると勧誘します。

誘いに応じると、偽造された在留カードや運転免許証を渡したうえで働き口を紹介。実習生は新たな職を手にする代わりに、ブローカーには手数料を支払います。

こうした違法な仲介はあとを絶たないといいます。

「アジアの若者を守る会」 沼田惠嗣 代表
「思い描いていた日本での生活とのギャップを感じる実習生につけこむかたちでブローカーが台頭し、不法残留につながっているのが現状だ」

こうした中、2月下旬、在留期限が切れた元技能実習生などを埼玉県内の会社に違法に派遣していたとして本庄市にある会社の社長が逮捕される事件がありました。すでに逮捕・起訴されているベトナム人従業員が、元技能実習生などに新しい仕事を紹介するなどと持ちかけたうえ、手数料を受け取っていた疑いがあるということです。

「二重三重の支援のしくみを」

技能実習制度をめぐっては、安い労働力として実習生が使われているケースなど、目的と実態がかけ離れているという指摘もあり、政府は、有識者会議を設置して制度の見直しを進めています。

国立社会保障・人口問題研究所国際関係部 是川夕 部長
「98%の実習生は失踪をせずに、きちんと働いていて、その事実をおさえる必要がある。ただ一方で7000人を超える人が失踪している。制度を改善してもゼロにするのは難しいが、なくす努力をしつつ、失踪してしまったときに備え、やり直しや助けを求めることができるしくみを二重三重に作っていく必要がある」

日本がかかげる国際貢献を、実習生ひとりひとりが実感できるよう対策が急がれます。

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