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弁護士目指す視覚障害がある大学生の挑戦 埼玉・飯能

  • 2022年10月24日

生まれつき、視覚に障害がありながら、弁護士を目指して、埼玉県内の大学に通う学生がいます。障害を理由に、アルバイトの採用を断られた経験があり、社会の偏見をなくそうと、挑戦を続ける大学生を取材しました。

さいたま放送局所沢支局/高本純一

弁護士を目指す大学生 平田紳次さん

飯能市にある大学の3年生、平田紳次さんは、生まれつきの病気で視覚に障害があります。特殊なめがねでも右目が0点1ほどで、左目はほとんど見えないことと、視野狭さくの症状があります。

そのため、平田さんはノートにメモをせず、講義を聞いて覚えています。教室では、いつも、講義をよく聞き取ることができる一番前の真ん中に座ります。

大学からの帰り、辺りが暗くなると、ほとんど見えなくなり、移動が難しくなります。バス停まで移動するのに、友人を頼りにせざるをえません。

平田紳次さん
「光っているのはわかりますが、電灯が光っているなというぐらいの見え方です。もちろん、誰かに頼ることなく、1人で歩いて帰ることができたらいいと思いますが、サポートがないと、間違った方向にいってしまいます」

盲学校の寄宿舎で知った教員の労働事情

弁護士を目指すきっかけは、高等部で入学した東京・文京区の盲学校での経験でした。

宿舎に入った平田さんは、教員が毎晩、遅くまで仕事をしていることを知り、労働問題に関心を持ったのです。

平田さん
「同じ建物だったからこそ、先生が長時間働いているのに気づけた。弁護士になって、労働問題を解決できたらいいなと思い、弁護士を目指すことにしました」

大学入学後に直面した社会の偏見

平田さんが入学した駿河台大学 飯能市

平田さんは、希望を持って、大学の法学部に入学しました。しかし、平田さんは視覚障害者に対する偏見を感じることがありました。

「障害者雇用促進法」で、障害者であることだけを理由に、採用などで障害者を排除することは禁止されていますが、平田さんはアルバイトに応募しても、障害を理由に、面接を受けさせてもらえないことがあったといいます。

平田さん
「一番印象に残っているのは、面接で呼ばれた時に、『視覚に障害があります』っていうのを履歴書に書いていたのですが、それを見た時に、『視覚に障害があると難しいかな』ということで、面接すらさせてもらえなかった。中身を見てもらえない、何も見てないのに、目が見えにくいとか、見えないというだけで、バッサリ切ってしまうのは、当時は悲しかった」

それでもめげずに、自信があったパソコンの知識を生かそうと、大学内のパソコン相談員のアルバイトに応募しました。
大学側は障害に関係なく、基準にしたがって、平田さんを採用しました。

駿河台大学 パソコン相談員採用担当 勝俣佑太郎さん
「見えている世界は違う部分はあると思いますが、やる気が感じられたところがありました。障害に関係なく、仕事をお願いしていますし、本人もやってくれると思ってます」

アルバイトをする中で、平田さんは障害があるからといって、閉じこもるのではなく、挑戦することの大切さをあらためて実感したといいます。

平田さん
「障害があっても、社会に参加することができる。社会の一員として活躍できるんだよっていうことを伝えたいです」

平田さんの特殊な勉強法

自宅で平田さんの勉強法を取材させてもらいました。平田さんは勉強する際に、テキストは使いません。
代わりに活用しているのが、スマートフォンの音声の読み上げ機能です。
平田さんは、読み上げるスピードを通常の2倍以上にして、法律の条文などを聞いています。

みなさんは聞き取れましたか?

驚くほどの速さですが、平田さんは、もう慣れていて、逆に通常の速度だと遅すぎるといいます。目が見えにくい分、聴力が発達したのだと話していました。

電車で移動している時や授業の合間に、愛用のイヤホンをつけて、法律の条文などを繰り返し聞いて覚えています。今は、夜寝るときもイヤホンをつけて、法律の条文などを聞き流しているということです。

ほかにも、パソコンからでも受講することができる、司法試験対策の講座も、2倍以上の速度にして聞いています。視覚に障害があることで培った聴力を生かし、努力を続けているのです。

難関の国家資格の試験に挑んだ平田さん

その成果が出始めています。実力を試そうと、去年、国家資格の行政書士の試験に挑み、合格したのです。

平田さんは、行政書士として仕事をすることで、「社会の偏見をなくしたい」と、ことし5月、東京・八王子市に事務所を開設しました。

仕事の相談や問い合わせはオンラインで受け付けています。補助金の申請代行や会社設立の際に必要な定款の作成といった、仕事を請け負っています。

平田さん
「意外と仕事を依頼してくれる人がいまして、ありがたいかぎりです。視覚に障害があることを伝えると、最初は驚かれますが、だんだん気にしなくなって、最後は感謝されます」

夢に向かって…

平田さんは、仕事をすることで、社会の一員として活躍できることにやりがいを感じています。障害がある人の社会参加がもっと広まればと願っています。

平田さん
「もともと思っていた、労働専門の弁護士になりたいと思っています。同時に、視覚に障害がある弁護士として活躍することで、障害があっても、いろいろなところで働ける、ちょっとの手助けで、みなさんと同じように働けるということを発信していける、そんな弁護士になれたらと思っています」

家族と語る平田さん

来年、司法試験の予備試験を受けることにしている平田さん。夢に向かって、挑戦は続きます。

取材後記

平田さんがスマートフォンの音声の読み上げ機能を活用している様子を見た時は、自分ではまったく聞き取ることができず、ただただ驚きました。こうして集中して聞いて、勉強している姿が印象的でした。平田さんは、障害者には積極的に挑戦することを、社会には障害者が挑戦する道を開いてほしい、と話していました。

どんな困難も乗り越えようと励む、平田さんの姿から、少しでも、障害者に対する社会の偏見がなくなればいいなと感じました。平田さんの努力が実り、弁護士となって、社会で輝く姿を見るのを、楽しみにしたいと思います。

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