待機児童の解消にむけて、各地で整備が進められてきた保育園。
しかし少子化などを背景に、国では数年後には、需要がピークを迎え、地域によっては保育園が余る状況が見込まれています。
そうしたなか、進むとみられるのが「保育園の民営化」です。
静岡県の認定こども園でバスに園児が取り残され死亡する事件も起きるなか、安心して預けられる保育園を選ぶにはどうしたらいいのか、保護者の模索が始まっています。
さいたま局/藤井美沙紀・西山周
さいたま市南区に住む、松尾桃子さん。2歳と0歳の子どもの母親です。
来年、上の子が通う公立の保育園に、下の子も通わせようと考えていました。
しかし8月下旬、突然、保育園から、5年後に廃止することが決まり、来年度から1歳児の受け入れはしないとスマートフォンにメッセージが届いたのです。
松尾桃子さん
「全く予測できないことだったので、びっくりして、携帯を落としてしまうくらいショックでした。本格的な保育園探しまで1か月しかないタイミングで、受け入れしませんと言われてすごく困惑というか」
公立保育園廃止の背景の1つが、少子化です。さいたま市はおととし、待機児童数が全国最多でしたが、ことし4月にはゼロになりました。
さいたま市は、8年後には、保育園を利用する児童の数がピークに達し、その後、減少に転じると見込んでいます。
このため将来をみすえ、老朽化した保育園を廃止したり、民営化を進めたりして、公立の定員を半数程度に減らし、多くを民間に委ねていく方針を検討しています。
さいたま市保育課 松尾真介課長
「保育需要や保育所を取り巻く今後の状況を考えると、現在の公立保育所のすべてを継続していくのは困難と考えています。地域の保育の受け皿を確保しながら進めていきたい」
さいたま市の私立保育園連絡協議会の会長は、首都圏では現在、保育の民営化への転換期だと指摘します。
さいたま市私立保育園連絡協議会 海田英彦会長
「私の知る範囲であれば公立保育園は増えるよりは、減ってくる方向にあるのだろうと思います。民間でできるものというのが徐々に民間に移管されているととらえています」
その上で、私立の保育園として、さらなる質の確保に努めたいとしています。
さいたま市私立保育園連絡協議会 海田英彦会長
「各法人ごとの特色をしっかり出しながら、安心安全、そして子供たちが楽しく登園できるというベースを担保しながら、保護者に選んでいただくと」
松尾さんは、私立を中心に下の子の保育園を探し始めました。私立の保育園は、園によって教育方針がさまざまで、内容や評判を確認するのに時間がかかるといいます。
松尾桃子さん
「プールなのか、リトミックなのか、体操なのか…全体を見て、食事の面とか先生の人数や年齢だったりを見たらいいのかなと思ったりします」
さらに、静岡県の認定こども園で、女の子がバスに置き去りにされ亡くなる事件が起き、安心して預けられる施設なのかどうか見定めなければと感じています。
松尾桃子さん
「安心安全が一番というところですよね。見学1回だけでは伝わってこないと思います。どうやったら保育園のなかが見えるようになるかというのは、保護者の疑問というか、希望はありますよね」
専門家は、保育の質を担保するため、行政が調査などを行って、情報公開を進めることが重要だと指摘します。
慶應義塾大学 中室牧子 教授
「私立の保育所は、おのおのの経営方針に任されている部分があり、保育の質が担保できているかという問題が出てくる。もっとしっかり情報公開を進めて保護者が選択するためのコストを下げることを積極的にやっていいのではと思います」
待機児童の受け皿の確保のため、各地で増設されてきた民間の保育園。少子化を見据え公立保育園の統廃合が進むなか、その質をどう確保すればいいのか。また、どうやったら必要な情報を得られるのか。大切な子どもたちを預ける親にとって悩みはつきません。
「保育園落ちた日本死ね」などと匿名で書き込まれたブログが話題になったのは6年前。
当時からは予想もしにくかった「保育需要のピーク」を迎えるなか、保育の現場では何が起きているのか。そして、これから私たちを待ち受けるものとは。引き続き取材を進めていきます。