9月25日、熊谷市のレジャープールが50年あまりの歴史に幕を下ろしました。ことし2月には「海のない埼玉県に海を」のコンセプトで知られた「さいたま水上公園」が閉鎖されていて、埼玉県内では、ここ数年、自治体が設置する屋外プールの廃止や休業が相次いでいます。その背景を取材しました。
さいたま局 熊谷支局/澤田浩二
所沢支局/高本純一
9月25日、市民に親しまれてきた熊谷市のレジャープール、「熊谷運動公園屋外プール」。
この日、お別れのイベントが開かれ、50年以上の歴史に幕を下ろしました。
このプールは、51年前の昭和46年にオープンし、半世紀以上、多くの市民に親しまれてきましたが、施設の老朽化や利用者の減少でことし7月に廃止されました。
多いときには年間でおよそ12万人が訪れるなどしましたが近年ではおよそ2万人まで減少し、おととしと去年は新型コロナウイルスの影響で営業ができませんでした。
「お別れイベント」が行われたこの日はプールが開放され、秋晴れのもと、多くの家族連れなどが訪れ、子どもたちが水遊びを楽しんでいました。
一角には、寄せ書きコーナーが設けられ、「ウォータースライダーがたのしかったよ」とか、「ありがとう、なつかしい、なきそう!」などと、プールへの思いが書き込まれていました。
「小さい頃から毎年のように来て夏休みの思い出といえば、ここというくらい楽しく過ごした場所です。無くなるのは、とてもさびしいです」
「子どもが小さいときによくここに来ました。残念ですけど、3世代みんなで来ることができよかったです」
今後の跡地の活用については熊谷市は次のように話しています。
熊谷市公園緑地課 石原博樹課長
「8月から9月にかけて、アンケート調査を行ったので、その結果も参考にしながら、市民の思いを大切にして今後、検討を進めていきたい」
こうした屋外プールの廃止や休業は埼玉県内の各地に広がっています。
ことし2月には「海のない埼玉県に海を」というコンセプトで、50年間県民に親しまれてきた上尾市の「さいたま水上公園」が閉鎖されました。
埼玉県によりますと、3年前には県内の自治体が設置する屋外プールは31ありました。
NHKのまとめでは、一昨年度、令和2年度から来年度、令和5年度までにあわせて10のプールが廃止や閉鎖されることになっているほか、4つのプールが老朽化を理由として休業していることが分かりました。
この3年間で、県内で自治体が設置した屋外プールが半数ほどにまで減少することになります。
廃止されるプールは、昭和40年代から昭和60年代にかけて建設されたもので、中にはオープンから50年以上、経過しているものもありました。
それぞれの自治体は、廃止や休業の理由として、施設の老朽化や利用客の減少などを挙げています。プールを廃止する自治体の中には、「新型コロナウイルスの感染対策で施設の休止が続き、老朽化がさらに進んだ面がある」と、新型コロナの感染拡大の影響を理由の1つにあげる所もありました。
こうした中、屋外プールを存続させた自治体があります。
日高市では、建設から40年以上が経過し、老朽化が進んでいた、「日高市立市民プール」をことし、リニューアルオープンさせました。
なぜ、廃止しなかったのか。日高市教育委員会の担当者に聞くと、近隣に50メートルプールがないことを挙げていました。
日高市教育委員会生涯学習課 山口英幸主幹
「市町村レベルで、50メートルプールを運営している所はなかなかないので、子どもたちに体験させてあげたいと考え、存続してリニューアルする方針になりました」
市民プールのリニューアルに伴い、近くにある高麗川小学校と高麗川中学校の2つの学校の水泳の授業を、市民プールで行うことになりました。
授業で使うため、リニューアルでは、50メートルプールの一部に幅5メートルの通路を新たに作りました。これによって、長さが20メートル、25メートル、50メートルの3つのエリアを設けました。水深もそれぞれ80センチ、100センチ、110センチから130センチと変えたことで、学年や泳力によって、使い分けることができるようにしました。
さらに、夏の暑さ対策で、プールサイドに日よけになる屋根やテントを設置したほか、遮熱シートを設置しています。
ことしは、7月下旬から8月末までの33日間、営業し、5236人が利用しました。
また、近隣の小中学校の水泳の授業を市民プールに集約したことで、2校のプールの維持管理費、およそ117万円が削減され、財政的なメリットもあったということです。
日高市教育委員会生涯学習課 山口英幸主幹
「水泳の授業では『泳力に合わせた利用ができ、よかった』という話があった。また、一般の人からも『きれいになった』とか『近隣の公営のプールがなくなるなかで、残してくれてよかった』といった声があがっていて、存続させてよかったと思っている」
屋外プールの廃止や休業が相次ぐ一方で、自治体が新たに建設しているのは屋内プールです。
和光市では、去年12月、新たな屋内プール、「和光市民プール」がオープンしました。以前あった屋内プールを建てかえたのです。ここでも、近隣の小中学校の水泳授業が行われています。
このプールは床が可動式で、深さを変えることができます。
この特徴をいかして、この夏、小さな子どもたちが、水遊びをできるように開放しました。
床を動かして水深30センチにし、大きいプールや海に行けない小さな子どもたちにも安心して、水に親しんでもらおうとしたのです。このプールは、民間のスポーツクラブに運営が委託され、子ども向けの水泳教室が行われるなど、民間のスポーツクラブで行われているサービスが提供されています。
和光市は屋内プールのメリットとして、主に夏しか営業できない屋外プールと違い、通年で営業できることをあげています。通年で営業できるため、民間のサービスやさまざまなプログラムを提供することができ、毎月の会費を収益として、維持管理に充てることができるとしています。
和光市教育委員会スポーツ青少年課 松本輝主任
「今後も民間のノウハウを取り入れ、市民の健康増進や子どものレジャーなど、さまざまなニーズに応えていきたい」
相次ぐ屋外プールの廃止・休業について公共施設のマネジメントに詳しい東洋大学の南学客員教授は、屋外プールは行政側からすると、コスト的に採算がとれない施設になってきていると指摘しています。
東洋大学 南学客員教授
「屋外プールは年間を通じた運営がやりにくく、そのほかの期間を利用しないのはコストに見合わない。また、今はあちこちに魅力の高いプールができ、車で海にも行ける。屋外プールは役割を終えた。コスト的に改修や維持ができない面があり、レクリエーションに使える財源は減らされる方向なので、この流れは加速していくだろう」
熊谷市の屋外プールは、猛暑の熊谷を伝える取材でたびたび訪れましたので、廃止されたのはとても寂しく思います。周辺の加須市でも廃止されるなど、多くの人でにぎわった昭和の時代からの大きな変化を感じました。福祉や子育て支援といった行政の予算が膨らむなかで、今後、行政の事業にどういった変化が生まれるのか、引き続き取材を深めていきたいと思います。