スクラムの最前列で身体をはり、埼玉パナソニックワイルドナイツのリーグワン初優勝に大きく貢献したプロップの平野翔平選手。知られざるスクラムの極意について、泉浩司アナウンサーが伺いました。
平野選手のポジションはプロップですが、どんな役割なんですか。
ラグビーは反則が起きるとスクラムからプレーを再開することが多いんですが、そのスクラムの最前列で頑張っているのがプロップです。
平野選手と言えば“スクラム屋”と呼ばれるほどスクラムの強さに定評があります。良いスクラムと悪いスクラムの違いとはなんですか。
スクラムは組んだ後より組む前に勝負がついていると言われるほど準備が大切なんです。スクラムは8人対8人で組むんですが、自分が相手に強く当たれる姿勢をつくれているか、8人の選手がしっかり1つになっているか、あるいは、選手のスパイクのポイントのかけ方がうまくいっているかなど細かい点まで準備できているかどうかで、良いスクラムか悪いスクラムかが分かれます。
スパイクのポイントのかけ方とはどういうことですか。
スクラムは最前列の3人、その後ろの3人、その横の3人、一番後ろの1人で組むんですが、後ろの5人は膝立ちの姿勢から始めるんです。このとき力が最も入る位置にスパイクのポイントを置いていないと良いスクラムを組めないことが多いんです。
スクラムは8人の選手の総体重も注目されますよね。
スクラムは相手に当たったあとに低い姿勢を保つことが大事です。高い姿勢になると相手に下から入られて不利になってしまうからです。体重が重い選手は一般的に低い姿勢を保つのが苦手なイメージがあるので、単に体重が重いからスクラムが有利になるということでもないんです。
プロップは最前列で相手の選手とぶつかりますし、後ろの選手からはものすごい圧力がかかるわけですよね。本当にプロフェッショナルでなければケガをしてしまうのではないかと思うんですが。
おそらく1トンとか2トンの負荷がかかっていると思います。試しにバックスの選手にスクラムに入ってもらったことがあるんですが、ラグビーを知っているバックスの選手でも「死ぬ」って言いますね。
平野選手は東福岡高校から東海大学に進学してワイルドナイツに入団しました。高校時代は花園での優勝も経験しています。ラグビーを始めたきっかけはなんだったんですか。
中学2年生まで野球をやっていたんですが、同級生から「ラグビーをやったほうが絶対いいよ」と入学したときから言われていて、あまりに熱心に誘ってくれるので試しにやってみたらすごく楽しかったんです。
野球のポジションはどこだったんですか。
体型的にはキャッチャーなんですが、左利きだったのでファーストをやっていました。
ラグビーのどこが魅力でしたか。
ラグビーを始めたときはウイングだったんです。足が速くて身体も大きかったので、デビュー戦で3トライすることができて、それでラグビーにはまりました。
ラグビー選手にならなかったら、お笑い芸人になりたかったそうですね。本当ですか。
本当です。高校では、大学には行かずに吉本興業のNSCに行きますと監督やコーチに話していました。中学からお笑いが好きで、高校を卒業したら一緒にお笑いをやろうと言っていた福岡の友達もいたんです。全国優勝もしたんですが、意地でもお笑いの道に行こうと思っていました。監督も最初は「わかった」と言ってくれたんですが、結局、説得されて大学に行って、今でもラグビーを続けています。
お笑いの道を諦めて後悔はないですか。
ワイルドナイツに入って1年目で吉本新喜劇にも出させてもらったんです。まさかこういう形で舞台に立てるとは思わなかったので、ラグビーを続けていてよかったと思っています。やはりお笑いは好きなんで、これからも声をかけてもらったら参加したいと思っています。
チームの本拠地が熊谷市に移りました。
本拠地が群馬県大田市にあったときからよく通っていたんですが、とにかく暑いという印象ですね。高校生のときに選抜ラグビーの試合で始めて熊谷に来たんですが、そのときはまさか自分がここに住むことになるとは思わなかったので、すごく不思議な気持ちです。
これからの目標はなんですか。
まずワイルドナイツで活躍し続けるということはありますが、日本代表にも選ばれたいと思っています。しっかりと次のシーズンでもパフォーマンスを発揮して、間に合うかどうかわかりませんがワールドカップに出場したいですね。
お笑い芸人を目指していただけあって、ユーモアたっぷりの笑いの絶えないインタビューになりました。平野選手は食べるのも大好きで、しゃぶしゃぶの食べ放題の店に行くと1回に50皿分の肉を食べることもあるそうです。ワイルドナイツのスクラムを支え続けた平野選手のパワーの源を感じることができるエピソードですよね。