埼玉県ときがわ町の広報誌で22年間連載してきた町内の草花の魅力を伝える名物コラムが、作者の88歳の男性の体力的な理由から3月号で幕を閉じることになりました。長期の連載の根底にあったのは、身近な自然に関心を持ってほしいという作者の思いでした。
ときがわ町の広報誌に掲載されてきたこのコラム。名前は「季節のたより」です。町内で見かける草花の特徴や名前の由来などが写真とともに紹介されています。
作者は、町内に住む元中学校教諭の小林一公さん(88)。
合併前の旧都幾川村の時の平成12年の1月号から今月号までほぼ毎月、22年間にわたって、あわせて264回に上る連載を続けてきました。
小林さんは70年前の昭和27年、中学校の教員として合併前の旧都幾川村に移り住みました。周囲に知り合いがいない中、仕事以外で何か熱中できるものはないかと始めたのが、学校周辺で見かける植物を調べることだったと言います。
当時について小林さんは次のように振り返っています。
小林一公さん
「地域のことを何も知らなかったが、草花なら子どもの頃によく調べていたので、図鑑を買うなどして取り組んでいました」
小林さんは休日や勤務前の時間などを活用して、草花を標本にしたり写真に収めたりして研究に没頭してきました。
そして、60歳の定年を迎えたあと、当時の村から依頼を受け、研究してきた草花の写真を添えたコラムの連載を始めることになったのです。
小林さんは、コラムを書く際、季節ごとにうつり変わる植物の様子を「雑草」という言葉は使わず、草花の名前には人びとの生活などに結びついた由来があることを伝えるようにしてきたといいます。
例えば、早春から初夏にかけて黄色い花を咲かせる「クサノオウ」については、「春から夏の山野をにぎやかに飾りながら、いつも見捨てられている植物」と記しています。その上で、昔から皮膚病の治療に使われてきたことなどが名前の由来だと紹介しています。
小林さん
「例えばタンポポという名前は誰がどこでつけたんだろうか、そのいきさつのようなものに気がついてほしいと思っていました」
そんな小林さんも88歳になったいま、体力的な面で草花の調査が思うようにできなくなり、22年間続いた連載も3月号で幕を閉じることになりました。
最終回となる3月号の表紙には、小林さんが大好きな桜の花とともにうつっている姿が掲載され、「ありがとう22年」というメッセージも記されています。
「1ページ目を開くと小林さんのコラムで毎回とても楽しみにしていました。終了するのは、それこそ花がしぼんだようにさびしいです」
ときがわ町役場総務課 宮寺史人課長
「当時から町の中で植物の研究家として有名でした。ときがわ町は標高の低いところから800メートルくらいの高いところがあり、自生する植物の数も多いので、そうした事が22年間続いたコラムが町民のかたがたに親しまれてきたのではと思います」
小林さん
「ときがわ町には私が確認しただけでも800種類の植物があると思うが、書けなかったものも多く、心残りもある。これまでのコラムを見て、身近な自然に関心を持ち、自分の楽しみの1つにしてもらえたら大変うれしい」