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地域の連携で廃棄野菜を救う 埼玉県東松山市

  • 2021年12月16日

埼玉県東松山市では、地元の農産物直売所で売れ残った野菜を、その日のうちに電車で東京の池袋駅まで運び、販売する取り組みを進めています。農家にとっては廃棄処分される野菜が売れて収入につながり、消費者にとっては通勤や通学の途中に新鮮な野菜を割安で買うことができる一挙両得な仕組みです。
(さいたま放送局キャスター 猪崎那紗)

産官学連携で実現

「新鮮でおいしいし、近所で売っていないような野菜もあるので利用していますー」

先月19日の午後6時半、東武東上線の池袋駅の改札口近くに長い行列ができていました。行列の先にあったのは、新鮮な野菜を割安で販売する「TABETEレスキュー直売所」です。この日は、白菜やダイコン、ネギにカブなどが店頭に並んでいました。

実はこの野菜、約3時間前まで東松山市周辺の農産物直売所で販売されていたものです。直売所では、地元の農家から持ち込まれた新鮮な野菜を販売しています。しかし、午後4時までの営業時間に売れずに残ってしまう野菜は、その多くを廃棄処分にせざるを得ませんでした。

こうした悩みを解決しようと、ことし8月から始まったのが「TABETEレスキュー直売所」です。東松山市の直売所で売れ残った野菜を森林公園駅から池袋駅まで電車で運び、祝日を除く毎週、月、水、金の午後6時半から午後8時半まで、通勤や通学帰りの人たちに買ってもらうことにしたのです。東松山市、JA埼玉中央、東武鉄道、食品ロスの削減に取り組むベンチャー企業のコークッキング、それに、地元にキャンパスがある大東文化大学がタッグを組んで運営しています。

月に3~4トンの食品ロス削減

東松山市で農業を営む渡邊晴夫さんは、ことし10月からこの取り組みに参加しています。12年前に会社を定年退職したのをきっかけに農業を始めた渡邊さんは、主にダイコンとキャベツを育てて、地元の直売所に卸していました。売れ残った野菜の一部は、自宅に持ち帰って漬物などに加工していましたが、残りはすべて廃棄していたといいます。

たとえ野菜が余ってもレスキュー直売所に持っていってもらえると思うと、安心して出すことができます。毎年、今以上のものをと思って野菜をつくっているので、これからも頑張っていきたい。
(渡邊さん)

現在、東松山市、滑川町、嵐山町、小川町、鳩山町の1市4町の農家が参加しています。この取り組みによって、毎月、3~4トンの野菜が廃棄を免れて、消費者の手元に届くようになったということです。JA埼玉中央の上野直行さんは「参加したいと言ってくれる農家はどんどん増えています」と話してくれました。

生産者と農家をつなげたい

野菜の輸送や販売は、大東文化大学の学生が担当しています。直売所の店長を務める大学2年生の茂木彩花さんは、この取り組みに共感し、みずから手を挙げて参加しました。直売所の店長として週に1回程度、店頭に立っています。

農家の人たちが愛情をもって育てた野菜が捨てられるのは悲しいし、どうにかして救いたいなと思いました。野菜を電車で運ぶことでCO2の削減につながるし、画期的な取り組みだと思います。
(茂木さん)

しかし、課題もあります。売れ残った野菜を販売するので、必ずしも思ったような量や種類の野菜を販売することができないのです。それでも茂木さんは、野菜を手に取るお客さんの喜ぶ姿を見ると、やりがいを感じると言います。

最近は常連さんも増えてきて、“また来ます”とか、“この前、買った野菜おいしかったよ”とか言ってもらえるようになりました。私たちは、単に売り子として新鮮な野菜を売っているだけではなく、野菜を丹精込めて育てている農家の皆さんの思いを伝えて、逆にお客さまの声を農家に伝える責任もあると感じています。
(茂木さん)

渡邊さんと茂木さん

先月22日、茂木さんは、お客さんの声を伝えるために、渡邊さんの畑を訪れました。野菜を提供してくれる農家の人たちに会うのは初めてだということでした。思ったより柔らかかったという畑の土から収穫したダイコンを手に取った茂木さん。ずっしりとした重みに、改めて農家の人たちが野菜に込めた思いを実感したようでした。

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