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朗読劇で伝える“命”の授業 埼玉県東松山市

  • 2021年11月25日

寂しそうな表情で私たちを見つめる子犬の写真―。実はこの犬、捨てられたり迷子になったりして保健所や動物愛護センターに持ち込まれた保護犬です。
埼玉県東松山市では、中学生に保護犬をテーマにした朗読劇を観てもらうことで、“命の尊さ”について学んでもらう授業が行われています。
(さいたま放送局 キャスター 岸田祥子)

保護犬を通して“命”を考える

犬を預けに来た女性: たまたまそうなっただけで…。
獣医: たまたま? たまたまでこの犬は殺されるんですか?
犬を預けに来た女性: 殺されるとか言わないでください。私は預けに…。
獣医: この施設に預けるってことは殺すっていうことですよ。

先月、東松山市民文化センターで上演された朗読劇「ファミリアー」の一節です。動物愛護センターを舞台に、保護された犬たちの生きる姿やセンターで奮闘する職員の姿を、3人の俳優が声色豊かに読み聞かせます。かつて、保護された犬たちは9割が殺処分されるという悲しい運命をたどっていました。朗読劇では、保護されてから5日間で殺処分される犬たちの姿が描かれています。

朗読劇「ファミリアー」

市民文化センターの館長の比島順さんは、おととしから市内の中学校の道徳の授業に、この朗読劇を導入しました。比島さんは3年前まで中学校の校長を務めていました。いじめによる自殺や子どもが関わる傷害事件を見聞きし、“命の授業”の大切さを痛感していたのです。

他人を傷つけるということは、やはり想像力の欠如だと思うんです。こうされるときっと嫌だろうなという想像力が子どもたちに育ってくれば、いじめや暴力がなくなっていくのではないかと思ったんです。命と言いますか、生きとし生けるものはお互い支え合って生きているものだということが、わかってもらえればと思いました。

東松山市民文化センター 比島順 館長

比島さんの思いに賛同したのが、朗読劇の演出家の瀬戸山美咲さんです。劇を鑑賞するだけでなく、実際に動物愛護センターに勤務する獣医の話を聞く機会を設けたり、劇の登場人物になりきって話し合うワークショップを開いたりするなどして、“命の授業”をつくり上げました。

演劇は、簡単に答えが出せないことを提示して、みんなで考えてもらうという役割もあると思うので、犬の気持ちになってみる、当事者の気持ちになってみて、自分とリンクする部分を子どもたちに考えてほしいなと思いました。“自分とは違う考え方の人もたくさんいるけれども、それはその人なりに考えていることがあるんだよ”といった、他者を想像することができればと思っています。

演出家 瀬戸山美咲さん

コロナ禍での“命の授業”

先月、市内の中学校で行われた“命の授業”。新型コロナウイルスの感染防止のため、ことしは、生徒たちはテレビで朗読劇を鑑賞しました。また、ワークショップも、瀬戸山さんが事前に制作したビデオを通して行われました。それでも、生徒たちには、2人の思いが伝わったようです。

命って、身近にあるものなので、そういうのをちゃんと尊重して生きていきたいなと思います。

動物も人間も同じように接するべきだし、みずから命を絶ったり、人が人を殺したり、そういうことがなくなるといいなと思います。

比島さんは、来年こそは、生徒たちに生の朗読劇を観てもらいたいと考えています。

おととしまでは、子どもたちは役者の演技を見ながら感じていましたので、伝わり方が弱いんじゃないかと心配でした。ところが、きょう見たところ、子どもたちはとても真剣に見ていて、引き込まれていたということを感じてほっとしました。今後も命に関わる教育ということで、朗読劇を続けていきたいと思います。

キャスターからひと言

私も“命の授業”を見学させてもらったのですが、子どもたちが朗読劇を真剣に観ている様子がとても印象的でした。

この朗読劇は10年以上前の状況を描いたもので、その後、法律が改正され、現在はイヌやネコ殺処分は大きく減っています。埼玉県でも、安易な引き取りを減らしたり、新しい飼い主を探す譲渡会を開いたりして、殺処分のゼロを目指しているということです。

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