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新型コロナで仕事をなくしたベトナム人が語った壮絶な体験

  • 2021年07月06日

新型コロナで仕事をなくしたベトナム人男性。苦しい生活を脱するため、新たな仕事を探す中でトラブルに巻き込まれ命の危険にさらされます。壮絶な体験を語ってくれました。

技能実習生として来日もコロナ禍で

ベトナム人のカオ・スアン・クエットさん(25)は、3年前、幼い息子や母親たちを残し、技能実習生として来日しました。

 

日本へ向かう頃のカオさん(ベトナムにて)

名古屋や栃木の職場で働きましたが、ことしに入り、新型コロナの影響で仕事がなくなりました。家族に仕送りを続けるために、SNSで仕事を探したところ、大阪の食品加工会社の求人を見つけました。ことし2月のことです。

希望が絶望に

大阪駅で合流したベトナム人男性に連れて行かれたのは大阪・東住吉の公園でした。カオさんは仕事に必要だと言われ、パスポートと在留カード、そして紹介料として全財産の6万円を男性に渡したといいます。
公園で待つように言われましたが、男性は戻ってきませんでした。

カオさん
「電話をしたら連絡が取れなかった。Facebookがブロックされた。日本には知り合いも友達もいない。怖くて何をすればいいのか分からなかった」

入国管理局や総領事館に助けを求めようと、カオさんは、手元に唯一残ったタブレットを頼りに20キロ以上歩きました。しかし、パスポートなどがないことを理由に、救いの手は差し伸べられませんでした。

命の危険も

行く当てがなくなり、2月の寒空の下、昼は総領事館の玄関で物乞いをし、夜は近くの公園で寝泊まりする日々を過ごしました。

「そのときは絶望して、生きるのを辞めようとした。息子の笑顔と母の顔を思い出して頑張った」

路上生活は20日間ほど続きましたが、幸運にもたまたま総領事館を訪れたベトナム人男性に助けられました。
今は一刻も早く母国に帰りたいと思っているといいます。

「日本に来て他人にだまされるとは思わなかった。もう少しで死ぬところだった。こういう経験をして、家族と離れて暮らしたくないと思った」

カオさんのような被害はほかにも

「カオさんのようなベトナム人は、少なくない」
こう指摘するのは、埼玉県のNPO法人「アジアの若者を守る会」の代表・沼田惠嗣さんです。沼田さんは、行政書士の資格をいかしてベトナム人を支援する活動を続けています。

 

相談にのる沼田さん

外国人の支援をする中、新型コロナの影響で生活に困窮するベトナム人が多くいることを知り、活動を始めた沼田さんのもとには、賃金の未払いやビザの更新など、さまざまな相談が寄せられますが、最近では仕事のあっせんを装い、紹介料をだまし取る悪質な手口が目立つといいます。

「実際はお金だけ取って、そのまま紹介先に連れて行かない。そういった詐欺まがいの相談は、現在非常に多いです」

悪質な被害から若者を守る

カオさんのような若者を増やさないために、沼田さんは新たな取り組みを始めようとしています。

仕事をなくすなど、行き場を失った若者が身を寄せるベトナム寺院に通い、若者たちが当面の生活に困らないよう、短期滞在のビザを取得させ、アルバイトとして地元の企業を紹介しようとしています。

大恩寺

「実際いい会社や社長さんは、ベトナム人をアルバイトで紹介すれば、きちんと受け入れてくるので、そういったことを期待して一生懸命やっていきます」

  • 上野大和

    さいたま放送局 記者

    上野大和

    長野局、大阪局を経て、現職に。警察・司法を担当。

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