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若年がん 最期まで子どもと自宅で過ごしたい

  • 2021年06月25日

「最期まで自宅で子どもたちと過ごしたい」。そう希望した末期がんの32歳の女性がいました。2人に1人がかかるとされるがん。しかし、39歳までの若い世代のがん患者が介護が必要となり、自宅で療養しようとした場合、介護保険の対象になりません。こうした中、今、自治体が独自に若い世代の患者を支えようという動きが出てきています。

突然のがん告知・・・自宅に帰りたい

双子の4歳の娘に読み聞かせをする碧(みどり)さん。当時32歳でスキルス胃がんと闘っていました。碧さんが、両親とともに医師からがんの告知を受けたのはおととし10月。急に吐血するなど突然、体調不良となり、病院で検査したところがんと分かりました。

埼玉県加須市に住む碧さんの両親。医師から両親に告げられたのは、すでに「ステージⅣB」で、余命は「1年もたない。3か月もつかもわからない」という思いもよらないものでした。

碧さんは、がんの告知を受け病院ではなく自宅で過ごすことを希望したといいます。

碧さんの母
「碧は、はじめから家に帰りたいと思っていたんですね。2人の子どもはまだ4歳ですから、今まで離れたことがなかったので、まず子どもが心配だったと思います。自分の命がこんなに短いとは思っていなかったと思いますが」

碧さんの父
「残り少ない生活を子どもたちと送りたかったんだなと思います。私の両親も同じようにがんで亡くなったんですけど、自宅で介護しているところを碧も見ていましたから、きっと本人も同じように帰りたかったんだと思います」

自宅療養開始 介護が必要に・・・

1か月の入院を経て病院から夫や娘2人が暮らす横浜市内の自宅に戻った碧さん。1か月ほどは状態も落ち着いていましたが、次第に食事がとれなくなりました。 

ベッドで過ごす時間が長くなり、1日に何度も襲われる吐き気。立っていることも難しくなっていきました。

“介護保険が使えない” 制度の谷間

碧さんのような若い世代のがん患者が、自宅で療養し介護サービスを利用する場合、大きな壁があります。39歳までは介護保険の対象にならないため、すべて自己負担で訪問介護などのサービスを受けなければならず、負担が重くのしかかります。

一方、小児がんなどの場合、一定の条件を満たせば19歳までは医療費を助成する制度や日常生活に必要な用具を給付する事業があります。

このため、20歳から39歳は、「制度の谷間の世代」とも言われています。

碧さんの支えになったのは、住んでいた横浜市の独自の支援制度でした。
介護保険の対象にならない若い世代の人も、訪問介護や、福祉用具の利用など介護に関わるさまざまな費用が助成されます。

碧さんが、およそ3か月間の在宅療養でかかった費用は、医療費も含め30万円余り。
訪問入浴や酸素吸入器のレンタル費など4万円近くが助成されました。

碧さんの母
「碧は、ありがとうございますありがとうございますってほんとよく言っていましたね。費用の助成は、がんばろうという気持ちの支えにもなりますし、お金の助成がないと、これはできないというのがあると、かわいそうだなと思います」

子どもたちと日々過ごしたい

碧さんと両親と子どもたち (夫が撮影)

夫と2人の娘と暮らす自宅での生活。碧さんが大切にしていたのは、読み聞かせや食事など何気ない家族の日常だったといいます。体が動けなくなるまでは、体調が悪くてもつらそうな姿は見せずに子どもたちに料理を作っていました。
状態が悪化し、食事ができなくなったあとも夫や子どもたちと食卓についていました。

最期を迎えたのも家族が朝食を囲んでいたすぐ近く。家族に見守られ、穏やかに亡くなりました。
自宅に戻ってから75日後のことでした。

碧さんの夫
「日常生活を過ごしたい。特別なことではなくそういうことを望んでいたので、自分のやりたいことをかなえているという部分は私としてもうれしかった部分です」

碧さんの母
「限られた時間、ほんとに貴重な時間なので、家でみんなで過ごせたことが本当に良かったかなと思います。無駄な日は1日もなかったと思います。この制度を普通にこういうのがあるんだよってみんなが知っているようになってほしい」

取材後記

横浜市のような支援制度は、甲府市ではことし2月から、さいたま市などでもことし4月から導入されました。一方で、国ではなく自治体ごとに制度を設けているため患者が住んでいる場所によっては支援が受けられないのが現状です。「最期は自宅で迎えたい」という患者の願いに応えられる制度が必要なのではないか、取材を通して強く感じました。

  • 永野麻衣

    さいたま局 記者

    永野麻衣

    富山局、名古屋局、社会部を経て、2020年から現所属

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