千葉県館山市で売りに出されていた空き家に、元陸軍大尉の貴重な戦争資料が残されていました。見つけたのは、空き家を使った街づくりを進める男性。貴重な資料を後世に残す費用を得るためのアイデアは「図書館化」や「資料の貸し出し」、さらには「シェアハウスによる家賃収入」と広がります。戦争を知らない世代のユニークな取り組みを取材しました。
千葉県館山市に、ことし3月にオープンした施設。
置いてあるのは、歴史書や伝記など3000点以上の戦争に関する資料。
「戦時中はけっこう食糧難が多かったけど、何もなくなったら現地調達、みたいな」
「それで生活できるってすごくない?」
個人が残した体験記なども、実際に手に取って見ることができる図書館です。
利用者
「最初はちょっと驚きましたね。とても膨大な数の資料があったので」
図書館を開いた漆原秀さんは、館山で空き家を使った街づくりに取り組んでいます。
去年の春、売りに出されていたこの建物に出会ったことが、戦争資料に目を向けたきっかけでした。
漆原さん
「レトロな雰囲気がすてきだなと思って。入ってみたら本とか手記のたぐいが足の踏み場もないくらいありました」
3年前に亡くなった持ち主(飯塚浩さん)が元陸軍の大尉で、人知れず戦前からの資料を残していたのです。廃棄も検討しましたが、戦時中の作戦や戦友たちの最期を記した手記を見て考えを変えました。
漆原さん
「相当な思いで残したいから書いた。大切に保管してきたことがひしひしと伝わってきたので、とにかく捨ててしまったらおしまいだなと」
そこで建物を購入して改装。
家族の了解を得て資料の公開を始めました。
最近、戦争体験者の遺族から問い合わせが増えています。
「祖父の戦時中の写真とかあるんですけれども」
形見の戦争資料の扱いに悩み寄贈したいという申し出。今までに300点近く預かりました。
しかし、どの資料にどんな価値があるのか判断がつきません。
漆原さんは、保管や展示方法の参考にするため専門家に見てもらいました。
都内の戦争資料博物館の館長、吉田裕さんです。
「軍の学校誌、非売品が多いんですよね」
まずは、軍の関係者だけに配られた冊子について。入手困難で資料的価値が高いといいます。
さらに、膨大な手記も…。
「これ特攻隊の替え歌『特攻隊節』。兵隊が日常的に歌っていた歌は残らないでしょ。そういう点で非常に重要ですよ」
戦時中の兵士たちの心情が読み取れる貴重な資料だとの評価でした。
「資料が劣化する可能性が非常に強いので、デジタル化するのは ひとつあるかもしれませんね」
保管方法のアドバイスも受けましたが、資金面が課題です。
いまは利用料を取って図書館を運営していますが、コロナ禍で客足が伸びず、赤字続きです。
そのため、一部の蔵書はオンラインで検索できるようにして、郵送で貸し出す準備を進めています。
さらに、安定した収益をあげるための計画もあります。
「ここはシェアハウス、全部で部屋が5つある」
同じ建物の空き部屋を改装し、貸し出すといいます。入居者の家賃を運営に充てて、長期的に維持していく考えです。
漆原さん
「当時の真実とか、事実とか、生きた人の思いがどんどん無くなろうとしている。直接の語り部にはなれないですが、私が引き継いで残していく、伝えていくという役割を担っていかなければと思っています」
この図書館では、来月(1月)から会員制で、郵送による貸し出しを始める予定です。
空き部屋の入居者の募集もあわせて始めたいということです。