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月面着陸 民間による世界初へ 宇宙の商業利用 なぜ月目指す?

  • 2023年4月17日

月面着陸を目指して2022年12月に打ち上げられた月着陸船について、開発した東京のベンチャー企業「ispace」(アイ・スペース)が、早ければ4月26日にも着陸に挑戦するということです。

月面着陸は、これまで旧ソビエト(1966)、アメリカ(1966)、中国(2013)がそれぞれ成功していますが、民間企業による着陸が成功すれば世界で初めてとなります。

月探査をめぐる国家間の競争や民間企業による宇宙の商業利用拡大の動きが見られる中で、月を舞台にしたビジネスの布石となるか注目されます。

民間による月面着陸…成功すれば世界初

東京のベンチャー企業「ispace」が開発した月着陸船は、2022年12月11日にアメリカの民間企業「スペースX」のロケットに搭載され、フロリダ州の発射場から打ち上げられました。

着陸船は、燃料節約のため太陽の重力を利用するなどして飛行を続け、2023年3月、月を周回する「だ円軌道」に入りました。

「ispace」は4月12日に記者会見し、近く着陸船を月の高度100キロ前後を回る軌道に投入し、早ければ4月26日の未明に着陸を目指すと発表しました。

月面着陸は、これまで旧ソビエト(1966)、アメリカ(1966)、中国(2013)がそれぞれ成功していますが、民間企業による着陸が成功すれば世界で初めてとなります。

着陸船にはJAXA=宇宙航空研究開発機構などが開発した小型ロボットが搭載され、着陸後は、月面走行を伴う探査を行う予定です。
 

「ispace」 袴田武史 CEO(12日の会見)
「これまでベストを尽くしてきているので、問題なく着陸できると考えています。多くの方々が月面での事業展開にリアリティを感じてもらえるよう着陸を実現したいです」

月着陸船…どんな構造なのか?

世界初の快挙を目指す月着陸船はどのようなものなのか。

その形状は底面と上面が八角形の「八角柱」に近い形をしていて、着陸時に衝撃を緩和する機能が付いた細い支柱4脚で支えます。高さはおよそ2.3メートル、幅はおよそ2.6メートルで、重さは、燃料を入れない状態で340キロほどです。

推進装置が底面を中心に装着されていて、方向転換や姿勢制御のほか、着陸の時などにも使用されます。

側面には、太陽光パネルが貼り付けられているほか、放射線のダメージを防ぐとともに氷点下170度から110度まで耐えられる設計です。上面には、通信機器やカメラが設置されていますが、積み荷は最大30キロまで搭載可能です。

月着陸船には、JAXAなどが開発した月面で走行し画像データを取る変形可能な小型ロボットのほか、発火のリスクが低く、低温や高温の環境でも動く電池など7つの荷物が搭載されています。

地球から約38万キロ離れた月へ…その道のりは?

そんな月着陸船が目指している月は、地球からおよそ38万キロ離れています。
今回の計画では、直接月には向かわず、いったん地球からおよそ140万キロのエリアまで遠ざかりました。これは燃料を極力節約するためです。

そして、太陽の重力を利用しながら月に近づき、月を周回する軌道に入り、月面着陸を目指しています。

ここまでミッションが順調に進めば、いよいよ月に着陸します。

ガスを噴射して速度を落としながら徐々に月面に接近。月面に対して垂直になるよう姿勢を調整し、最終的には4つの脚で着地の衝撃を緩和させながら降り立つ計画です。

着陸を想定しているのは、月の北半球にある「氷の海」と呼ばれる場所の近くで、月面で通信と電力の供給を確かめた後、搭載した機器の技術実証などを行う予定です。

月探査巡り…国家間の競争激化

なぜ、東京のベンチャー企業が月面着陸に挑むのか。
その理由は、近年、月に水の存在を示す研究論文が相次いで発表されるなど、人類が宇宙での活動領域を広げる上で拠点となる場所に位置づけられたことです。

そのため、月探査をめぐる国や民間の競争が激しくなっています。
月探査に向けた動きの1つが、アメリカが日本やヨーロッパなどと進める国際プロジェクト「アルテミス計画」です。2022年11月16日に月を周回する無人の宇宙船を大型ロケットで打ち上げ、計画の第1段階に入りました。NASAは、2025年を目標に人類を再び月面上に送り込む計画を進めています。

また、中国は、2020年に月の岩石などを地球に持ち帰ることに成功しています。

ビジネスの舞台になるか…市場規模は?課題は?

国家間の競争激化に伴って、民間企業の間でも月をビジネスの舞台とする機運が高まり、2019年にはイスラエルの民間団体が月面着陸に挑みましたが、失敗に終わりました。

ほかにもアメリカの複数の企業が月着陸船の打ち上げを計画していて、民間の動きも活発化し、地球周辺にとどまっていた宇宙の商業利用を拡大しようとする動きが見られます。

月面や月周辺での経済活動について「PwCコンサルティング合同会社」は2030年ごろから建設やインフラ整備、農業、エネルギー分野などの事業が増えると予測しています。

その上で、月探査に関連する経済活動の市場規模は2040年までにあわせて1700億ドル、日本円でおよそ23兆円に成長する可能性があるとしています。

一方で、宇宙の商業利用を月にまで拡大するには、技術的にも経済的にもさまざまなハードルを乗り越える必要があります。

月の重力は、地球のおよそ6分の1ですが、小惑星に比べると大きく、これまで民間の力だけで探査機を月面着陸させた例はありません。

月探査は事業としての不確実性が大きく、月で新たなビジネスを展開するには、国も民間も商業利用についてのビジョンを明確化するとともに、開発コストをどう確保するかが課題となります。

月探査衛星かぐやが撮影した月面

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