渋谷で半世紀以上にわたって営業を続け、1月31日に閉店する「東急百貨店本店」には、ほかの店舗に異動することなく、入社以来、“本店一筋40年”という店員がいます。
ワイン売り場の店頭に立つソムリエの平好美さんです。
高校を卒業してデパートの店員として働く楽しさや厳しさを教えてくれた本店は人生そのものと話す平さんに閉店への思いなどを聞いてきました。
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ワインと日本酒のソムリエ 平 好美さん
都内の高校を卒業した平好美さんが東急百貨店に入社したのは1982年でした。
ファッションに興味をもっていた平さんが、配属先として希望したのは紳士服や子ども服の売り場でした。しかし、初めて担当したのは、本店の「食料品売り場」だったのです。
配属先を聞いたときは「食べ物を売るのか」と思ったそうです。
希望こそ叶いませんでしたが、当時、一緒に入社した740人あまりの同期には負けまいと、接客法やギフト用品の包装の仕方など、デパートの店員としての基礎を必死の思いで学びました。
入社から5年後、本店のワインなどを販売する売り場へ異動。
そこで、生産者のワインを作る苦労や熱意などに触れ、魅了されました。
ワインについての知識を深め、入社10年目の1992年には、ワインソムリエの資格を取得。
来店客の求めに応じて、最も適したワインを提供してきました。
ほかの店舗に異動することもなく、40年間、本店に勤めているのです。
「東急百貨店本店」で働き続けてきた平さんは、本店は特別な場所だといいます。
40年間、平さんが勤務する「東急百貨店本店」
東急百貨店本店 平好美さん
「ギフト用品の包装をうまくできずお客様に迷惑をかけたり、『別の店員はいないの?』と言われたり、悔しい思い出もたくさんあります。一方で、自分が奨めた商品を購入したお客様に、後日『ありがとう』と言われてうれしい思い出もたくさん詰まっています。
「働く楽しさや厳しさを教えてくれた本店は、私の人生そのものです」
本店が人生にとって欠かせない場所となっている平さんは、閉店することについて実家がなくなるようなものだと話します。
長期熟成されたワインのボトル内の沈殿物を確認。飲み頃を探ります!
東急百貨店本店 平好美さん
「ワインについて学ばせてくれるお客様や、3世代にわたって来店してくれる家族など、私の成長につながるお客様と出会わせてくれたかけがえのない場所なんです。そして、社員旅行などで親睦を深めた同僚がいる場所でもあるんです」
「本店が閉店することは実家がなくなるようなものです。想像しただけで涙が出ます」
ワインボトルのラベルが見えるように商品整理
「東急百貨店本店」とともに歩んできた平さんに、閉店の当日をどのように迎えるのかを尋ねたところ、いつもと変わらず感謝の気持ちを込めて接客にあたりますと話していました。
東急百貨店本店 平好美さん
「閉店の日もいつもと変わらず、お客様が求めているワインをしっかりと提供していきたいです。本心は、閉店の瞬間を目に焼き付けたいので、シャッターが閉まる瞬間などを見たいんですけれども、多分叶わぬ願いですね(笑)」
平さんが担当するワイン売り場は、本店の閉店後、近くで路面店として再出発することになっています。
約2000種類の品ぞろえや店員による接客、有料の試飲会などは継続されることになっています。
今後の抱負について尋ねました。
東急百貨店本店 平好美さん
「本店のワイン売り場は、お客様の強い要望によって路面店として、この春にオープンすることになっています。だから、お客様の期待を裏切らぬように本店閉店後は、路面店がスムーズに出発できるように準備を進めるとともに、これまで本店で提供してきたサービスをより質の高いものにできるよう努めていきたいです」
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