新型コロナウイルスの重症化リスクの低い患者も軽症の段階から服用できる塩野義製薬が開発した「ゾコーバ」が承認されました。国内の製薬会社が開発した初めての飲み薬の特徴や効果と副作用の情報、この薬についての専門家の見方などをまとめました。
新型コロナウイルスは感染すると細胞内に侵入し、ウイルスそのもののRNAをコピーして増えていきます
塩野義製薬が開発した新型コロナウイルスの治療薬「ゾコーバ」はコピーの準備段階で働く酵素を機能しなくすることでウイルスの増殖を抑えます。
薬が働く仕組みは、アメリカの製薬大手、ファイザーが開発した飲み薬「パキロビッドパック」と同様となっています。
「ゾコーバ」は、軽症の段階から服用できる新型コロナウイルスの飲み薬で、重症化するリスクが高い患者を対象にしていたこれまでの薬と違い、重症化リスクの低い患者でも服用できるのが特長です。
11月22日に開かれた厚生労働省の専門家会議では、発熱などの症状を改善する効果が認められたことなどから、「有効性が推定される」と評価して使用を認めることを了承し、厚生労働省が承認しました。国内の製薬会社が開発した初めての飲み薬となります。
ことし2月に使用の承認が申請されたあと、緊急時に、開発された薬などを迅速に承認するための「緊急承認」の制度で6月と7月に審議されましたが、有効性についての判断が見送られて継続審議となりました。
塩野義製薬はその後、最終段階の治験の結果を新たに、厚生労働省などに提出していました。
〇最終治験の対象
塩野義製薬はことし9月下旬に最終段階の治験について発表しました。それによりますと、日本など3か国でことし2月から7月にかけて重症化リスクがない人やワクチンを接種した人を含めた、12歳から60代までの軽症から中等症のコロナ患者1821人を対象に治験を行いました。
〇効果や副作用
発症から3日以内に服用を開始すると、オミクロン株に特徴的なせきや喉の痛み、鼻水・鼻づまり、けん怠感、発熱・熱っぽさの5つの症状すべてが7日前後でなくなり、症状が出ていた期間がおよそ24時間短縮されたとしています。
投与は1日1回、5日間行われましたが4日目の段階でウイルスの量が偽の薬を投与された人に比べて30分の1程度に減り、重篤な副作用はなかったとしています。
〇BA.5など変異ウイルスには
実験では現在、主流となっているオミクロン株の「BA.5」を含む変異ウイルスに対しても高い効果を示したとしています。
〇服用できないケース
一動物実験では胎児に影響があったことから、妊娠中や妊娠の可能性のある女性は服用できないほか、慢性の病気の治療で薬を服用している場合には服用できないケースもあるとみられます。
使用が承認された「ゾコーバ」について、厚生労働省は薬事承認が行われることを前提に塩野義製薬と100万人分を購入する契約を締結しています。
薬を使用できるのは、12歳以上の人となっていますが、妊娠中の女性などは使用が禁止されていることや複数の医薬品が併用禁止になっていることから、薬が働く仕組みが同様のアメリカのファイザーの飲み薬、「パキロビッドパック」の処方実績があるおよそ2900の医療機関などへ11月28日から本格的に供給を始め、順次、拡大していく予定です。
その後は特段の要件は設けず、各都道府県が選定した医療機関での処方や薬局での調剤ができる体制を整えたうえで、処方可能な医療機関については、都道府県などのウエブサイトで公開するとしています。
国から医療機関に配分され患者の費用の負担は当面はないということです。
ゾコーバについては新たに設けられた「緊急承認」の制度で承認を行ったため、塩野義製薬は有効性や安全性についての追加のデータの提出などを行った上で、今後1年以内に通常の薬事承認の申請を行うことが義務づけられていて、会社では、今後、正式承認の取得を目指すということです。
塩野義製薬コメント(11月22日)
「この新しい治療選択肢をまず日本の皆様に、そしてこの薬を必要とする多くの国々に提供できるよう、引き続き、取り組んでまいります。11月23日より医薬品卸への出庫を開始し、ゾコーバの処方・調剤が可能な登録医療機関・薬局からの発注を順次、受け付ける予定です。緊急承認医薬品として安全性情報の迅速かつ確実な収集と、医療機関に対するタイムリーな提供に取り組みます」
「ゾコーバ」について、新型コロナの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は「新型コロナに感染して軽症で済むか症状が重くなるか分からないなかで、重症化リスクがない人にも投与できる薬は医療現場で望まれてきた」と話しています。この薬の効果や今後の課題などについて聞きました。
〇薬の効果は
治験ではせきや発熱などの症状の改善を1日早める効果があるという結果だったが、インフルエンザの治療薬も同じ程度で十分な効果があると考えられ、ウイルス量も減ることで重症化を防ぐことも期待できる。重症者リスクが高い人が多い介護施設や病院などで感染者が出たときに使えば、症状の悪化や感染拡大を抑えられ、職場の機能不全も防げるのではないか。
〇今後の課題
この薬は発症から3日以内に服用すると効果が大きくなるとされているので、より早く診断し、より早く薬を届ける体制を国や自治体が早急に整えることが重要だ。この薬が広く使われるようになったときに予期しないような重い副作用が出ないかや耐性を持つウイルスが出ないか監視を続けることが必要だ。また、今後は重症化や死亡のリスクが結局どの程度抑えられるのか、データが提供されることがはっきりとデータで示されることも必要だ。
〇感染状況の見通しと対策
オミクロン株が主流となり致死率が下がっているのは確かだが、持病が悪化して亡くなる人はインフルエンザより割合がかなり高く、感染した子どもが重症化して死亡するケースも出てきている。日本は欧米などと比べて感染したことのある人が少なくコロナに免疫がある人はまだ少ないため、感染拡大の波は今後も続く可能性が高いので、治療薬やワクチンを準備していくことは引き続き、重要になっている。
新型コロナの感染拡大が始まって3年近くになりますが、鍵を握る対策として早い段階から挙げられていたのが「ワクチン」、そして「治療薬」でした。ワクチンは広く使用されるようになりましたが、大事なのは感染しても重症化しないことです。
感染後、早い段階で使える薬があると重症化する人を減らすことができます。治療薬として比較的使用使いやすいとされる「飲み薬」が加わることは、コロナが排除できない中で暮らしていくためには重要なことです。
一方で、「ワクチン」と「使いやすい治療薬」の両方が使えるようになっても、感染して重症化するケースはあり得るので、引き続き場面に応じて適切にマスクを使うことや、密を避けることといった感染対策、それにワクチンの接種が重要だと専門家は指摘しています。