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群集事故のリスクは? 韓国・ソウル転倒事故「立ったまま圧死か」

  • 2022年10月31日

韓国・ソウルの繁華街で大勢の人が折り重なるようにして倒れて日本人2人を含む154人が死亡した事故。専門家は立ったまま意識を失って亡くなったのではないかという見方を示しました。
大勢が折り重なるようにして倒れた事故は、東京都内でも12年前に起きていました。
専門家は日本の都市部を中心に人が集まりやすい狭い路地や坂道では常に群集事故のリスクがあると指摘します。

韓国ソウルの事故を受け 渋谷は…

韓国ソウルの繁華街で大勢の人が折り重なるようにして倒れて死亡した事故を受け、31日ハロウィーン当日を迎える東京・渋谷区の長谷部区長は「お悔やみ申し上げます」としたうえで、次のように呼びかけました。

渋谷区 長谷部区長
「渋谷区でも、警察と調整していますが、同様の事故が起きることを危惧しています。本日仮装での練り歩きなどを目的に来る方は騒がない、立ち止まらないなどルールを守っていただくことは当然として、街に来ることを控えることも検討していただきたい」

渋谷 同様の事故を危惧

ハロウィーン当日、警視庁は、激しい混雑が予想される東京・渋谷駅周辺で機動隊を配置するなどして警備を強化しています。
韓国ソウルの繁華街の事故を受け、1か所に人が集中しないよう場合によっては、車道を規制して歩行者に開放するなど、転倒防止の対策を徹底する方針です。

ハロウィーンの時期に大混雑する「渋谷センター街」の振興組合の小野寿幸理事長は、渋谷でも同様の事故が起きるおそれがあると警鐘を鳴らします。

「渋谷センター街」の振興組合 小野寿幸 理事長
「30日までの人出を見ていると予想以上に多く、危機感を感じている。渋谷にも事故の起きた韓国のイテウォンのような幅の狭い道がいくつもある。コロナ前は渋谷駅周辺は大変混雑していたことを踏まえると事故は渋谷でおきてもおかしくないと思った。
渋谷区も警察も対策をとっているが、ハロウィーンはどこかの団体が主催したイベントではなく自然発生で群集となるので、商店街としても切実に困っている。国や東京都も対策に乗り出してもいいのではないか」

ソウルの事故現場とは…

これまでに日本人2人を含む154人が死亡する事故が起きたイテウォンは、韓国有数の繁華街です。最近では、韓国ドラマの舞台としても知られていて、日本人観光客も多く訪れるエリアです。

路地には各国の料理を提供する飲食店やナイトクラブが立ち並び、週末には多くの若者や観光客でにぎわう人気スポットです。事故現場は、地下鉄イテウォン駅を出てすぐの、飲食店とホテルに挟まれた狭い通りで幅3.2メートル、長さは45メートル程度の細い坂道です。

ことしは新型コロナウイルスの規制が緩和されたことを受けて3年ぶりに大勢の若者が繰り出し、地元メディアによりますと当時は10万人以上が訪れたとみられるということです。

専門家の見方 “立ったままで圧死”

韓国ソウルの繁華街イテウォンでの事故について、日本救急医学会の理事で日本医科大学付属病院の横堀將司高度救命救急センター長は、多くの人は胸や腹を強く圧迫されて呼吸や血液の循環が難しくなり、立ったまま意識を失って亡くなったのではないかという見方を示しました。

日本救急医学会の理事 日本医科大学付属病院 横堀將司 高度救命救急センター長
「胸やおなかが強く圧迫されると呼吸しにくくなるほか、胸の中の圧力が高くなって心臓から送り出された血液が戻りにくくなり、全身の血液の循環が悪くなる。『外傷性窒息』と呼ばれているが、呼吸と血液の循環の不全によって低酸素や低血圧になって命を失うケースが多かったのではないか。立ったままでも胸と背中の両方の側から力が加われば意識をなくしたり血圧が下がったりすることは十分考えられる。
倒れる場所もないくらい狭い空間だったと思うので、立ったままで意識を失い、命を失ってしまった状況が考えられる」

また、横堀センター長は「現場にいた人たちは長い時間、圧迫を受けていた可能性がある。体重60キロくらいの人だと、体重の3分の2くらいの力が30分とか1時間かかれば呼吸や血液の循環不全が出てくる可能性があるとする研究もある。あの密集した現場では、救助も入りにくい状況だっただろうし、すぐに救命処置を行うのは難しかったと思う」と指摘しました。

そのうえで、横堀センター長は、2001年に兵庫県明石市の歩道橋で花火大会の見物客が折り重なって倒れ、11人が死亡した事故でも「外傷性窒息」で亡くなった人がいたとして、次のように話しました。

日本救急医学会の理事 日本医科大学付属病院 横堀將司 高度救命救急センター長
「いま感染症の予防のためにあまり密にならないよう呼びかけているが、密集を避けることで今回のような事故の予防にもつながるのではないか。狭い空間に大勢の人が集まる場所は、避けること、警備員がいても坂道や階段などでは人と人との距離をなるべく詰めないように意識することなど、日常生活で注意することが大事だ」

“群集雪崩”の危険とは

人が多く集まっている場所で多くの人が倒れて亡くなったりけがをしたりする「群集事故」。

韓国での事故の詳しい原因はまだわかっていませんが、その中でも最も危険なのが「群集雪崩」です。
全く身動きがとれないほど人が密集した時、何かのきっかけで一気に多くの人が崩れるように倒れて折り重なります。密集した状況で過度に体が圧迫され、呼吸すらしづらい状況になります。

群集雪崩に巻き込まれた場合は抵抗することがほぼできない状況です。
こうした事故から身を守るためには、人が密集している狭い路地や駅の前、人の流れが食い違うような場所などをあらかじめ予想して近づかないようにすることが大切です。

専門家に聞く 群集事故のリスク

専門家は日本の都市部を中心に人が集まりやすい狭い路地や坂道では常に群集事故のリスクがあると指摘します。

具体的にはどんなところか、どうすれば危険を回避できるのか、災害時の心理と行動に詳しい東京大学大学院の関谷直也准教授と街を歩きました。

関谷准教授と歩いたのは、東京・原宿の竹下通りです。
若者に人気の商店街で、特に春休みや夏休みなどには多くの若者や観光客で混雑します。

2010年3月には「人気タレントが来ている」といううわさが広まって商店街の入り口付近に大勢の若者が殺到し、10代の女性3人が病院で手当てを受ける事故が起きました。

坂道にも注意が必要

関谷准教授が、まず指摘したのは、もともと人通りが多いことに加えて、複数の方向から人が流れ込む構造であることや左右に建物が並ぶ狭い道という点です。
何かのきっかけで人が集まりだすと密集した時に逃げ場がなくなって動けなくなり、群集事故のリスクが生まれるということです。

また、坂道にも注意が必要だといいます。
韓国・ソウルの事故は左右を建物に囲まれた狭い道幅の坂道で発生していましたが、竹下通りもJR原宿駅から東に向かって緩やかな坂になっています。坂道の下では人の動きが緩やかになって歩く速度が遅くなって滞留しやくなるといいます。

両側に建物があるような“閉ざされた空間”と人が滞留しやすい場所は過密状態を作り出しやすく、事故のリスクがさらに高まると指摘します。

関谷准教授
「都市部などではこうした場所がいたるところにあるので気づきにくいが、リスクがあると知ってほしい」

危険回避 どうすれば?

では、事故の危険を回避するにはどうすればよいのか。
関谷准教授に聞くと何よりもまず「人が密集している狭く危険な場所には近づかないことだ」といいます。ただ、気づかないうちに危険な場所や状況に巻き込まれるおそれもあると指摘します。

例えば広い道路と交わる小道などでは自分の行く先が混んでいるか把握しづらく、巻き込まれれば戻ることも難しいため注意が必要だということです。

関谷准教授
「群集事故に巻き込まれる人はその直前まで『ただ人が多い』『混んでるな』と感じるだけでリスクに気づいていないと思う。身動きが取れなくなってからでは遅く、『混み方がふだんと違う』『人の流れが止まった』感じたら早くその場から離れることが大切だ」

群集事故のリスク 大規模災害でも

群集事故の危険性はイベントなどに限らず、首都直下地震など都市部での大規模な災害の際にもさらに高まると関谷さんは指摘します。

関谷准教授
「大地震が起きて電車が止まった場合、駅から外に出ようとする人と駅に向かう人で密集が発生しやすい状況になる。多くの人が帰ろうとするため▽駅前や▽地下の通路▽橋など複数の方向から人が流れ込む構造の場所ではすぐに密集は発生し、群集事故のリスクが高まる」

このため、大地震の際には群集事故のリスクがあることを踏まえて出来るだけその場を動かないことが大切だとしています。

関谷准教授
「大規模地震の際には群集事故だけでなく火災や余震による建物の倒壊などの危険性があり、動かない、帰らないことが有効だ。もし外を移動する場合には出来るだけ密集リスクの少ない広い道路を歩く必要がある」

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