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“悪い円安” 家計への影響は?1ドル=140円台の水準いつまで

  • 2022年9月6日

円相場は、24年ぶりの円安水準となる1ドル=140円台前半まで下落しました。この円安、経済にさまざまな影響を与えていますが、デメリットの方が大きい「悪い円安」だという指摘が出ています。今後の円相場の見通しや家計への影響などをまとめました。

1ドル=140円 24年ぶりの円安水準

東京外国為替市場は9月2日、アメリカが大幅な利上げを続けるという見方から円安が加速し、円相場は、1ドル=140円台前半まで下落しました。これは24年ぶりの円安水準です。

24年前の1998年、日本経済は「金融危機」のさなかでした。前の年から山一証券などの経営破たんが相次ぎ、市場では金融システムに対する不安から「日本売り」が強まり円安ドル高が進行しました。前年1月に1ドル=115円から120円程度だった円相場は、この年の1月には130円台に値下がりしました。

当時、政府・日銀は、円安に歯止めをかけるため、4月と6月に「円買い・ドル売り」の市場介入に踏み切りましたが円安の流れは止まらず、8月には1ドル=147円台をつけました。円安を阻止するための「円買い・ドル売り」の市場介入は、このときを最後に実施されていません。

記録的な円安水準 背景に日米の金利差

今回の円相場は1年前には1ドル=110円前後でしたが、急速に値下がりが進み、記録的な円安水準となりました。
円相場は、さまざまな経済情勢を反映して変動しますが、今回の円安の背景には日本とアメリカの金融政策の動向が大きく影響しています。

アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は歴史的なインフレを抑え込むため、金利の引き上げを急ぐ一方で、日銀は大規模な金融緩和策を続ける姿勢を示しています。

FRBのパウエル議長は8月26日、アメリカ西部ワイオミング州で開かれたシンポジウム「ジャクソンホール会議」で講演を行い記録的なインフレを抑え込むための金融引き締めについて「やり遂げるまでやり続けなければならない」と述べて、利上げを継続する姿勢を鮮明にしました。

こうしたなか、日米の金利差の拡大が意識され、円を売って、より利回りの見込めるドルを買う動きが加速しているのです。

円安のメリット・デメリット

〇円安のメリット
円安は、海外に製品を輸出する企業や、海外で事業を展開する企業にとっては、利益を押し上げるメリットがあります。海外で稼いだドルなどの外貨をより多くの円に換えることができるためです。
ただ、日本企業は、生産拠点の海外移転を進めてきたことから、かつてほど輸出によるメリットは大きくないという指摘があります。

円安のメリット 薄らぐ?
輸出企業などの利益押し上げ
→“生産拠点の海外移転でかつてほどではない”
外国人観光客の呼び込み
→新型コロナの影響

また、円安には、外国人観光客を呼び込むプラスの面もありますが、新型コロナウイルスの感染拡大でそのメリットも薄らいでいます。

〇円安のデメリット
一方、デメリットとしては、ロシアのウクライナ侵攻以降、原油などのエネルギーや穀物などの価格が高止まりする中、原材料を輸入する際のコストが一段とかさむことが挙げられます。

民間の信用調査会社、帝国データバンクが7月に全国の企業、2万5000社余りを対象に実施した調査では、業績への影響について「マイナス」と答えた企業が全体の61%に上りました。
原材料価格の上昇によるコスト負担の増加に加えて、コストの上昇を販売価格に転嫁できず収益が悪化したことなども理由として挙げられています。

このため、いまの円安は、デメリットの方が大きい「悪い円安」だという指摘も出ています。

1ドル=140円 家計への影響の試算

1ドル=140円の円安水準がこれから来年3月まで続いた場合、今年度の2人以上の世帯の支出は前の年度より平均で7万8400円増えるという試算があります。それによりますと年収が低い世帯ほど負担が重くなると分析しています。

食料品や電気代などエネルギー関連の支出が増えることが主な理由で、円安が生活必需品の輸入物価を押し上げます。また企業が仕入れ価格の上昇分を販売価格に転嫁する動きも重なるとしています。

試算したみずほリサーチ&テクノロジーズ 酒井才介主席エコノミスト
「円安が長期化すれば、その分負担が増すという構図に変わりはなく、消費者自身が節約などの工夫を求められる苦しい状況が続いている」

専門家“1ドル=140円 通過点に過ぎない”

急速な円安が進む中、今後の見通しについてBNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストに聞きました。

〇円相場の見通しは
ほかの国が金利を引き上げる中で、日本が金利を抑え込んでいることが円安の要因になっている。アメリカがまだまだ利上げを続け、日銀は異次元緩和を続けるとなると1ドル=140円も1つの通過点にすぎない。次は150円を目指す展開になるだろう。
アメリカの景気が大きく悪化すると、利上げを行っても必ずしもドル高にはつながらない。場合によってはドル安・円高につながる可能性もあるので、1ドル=150円を意識しているが、永久にこれが続くわけではない。

〇日本経済への影響
為替が大きく変動しているので、輸出企業にとってもこの円安が続くのか不安になってしまう。このため、一時的に利益が出てもベースアップによる賃上げにはつながらず円安が今のように過度に進むと輸出企業もメリットを日本経済全体に広げられず、消費者の負担ばかりが膨らんでいく。

〇日銀の対応は
2%の物価目標を安定的に達成できるまで今の金融緩和を続けるという考え方が果たして妥当なのか再検討する必要があるのではないか。あくまで中長期の目標だということを明確にした上で、2%に達していなくても経済の状況に応じて政策金利などを引き上げるというようなフレームワークを変更するということはあり得るだろう。

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