新型コロナウイルスの感染者の全数把握の見直し。保健所や医療機関などの負担軽減が課題となっていますが、デジタル化で対応している自治体も。
東京・墨田区の保健所は、新型コロナウイルスの患者の健康観察や入院先の調整を行う際に用いるデータのとりまとめをデジタル化して業務を効率化するとともに、新たに確保できた人的資源を振り分けて、区独自に医療機関の負担を軽減するコロナ対策を行っています。
新型コロナの感染者についてはすべての患者の情報を一元的に管理するため、医療機関が「HER-SYS」と呼ばれる国のシステムに患者の情報を入力し、報告を受けた保健所はそのデータを使って健康観察や入院先の調整などを行っています。
こうした作業は、医療機関や保健所の負担が大きく業務がひっ迫しているという声があがっていますが、一部の保健所では負担を軽減するため、患者のデータのとりまとめをデジタル化する動きも出ています。
このうち墨田区の保健所は、第6波では、保健所の医師や職員が「HER-SYS」に入力された患者の情報を1例ずつ紙に刷りだし、個別に必要な項目を精査し、症状を聞き取るなどした上で、重症化リスクの高さを判断し、健康観察や入院先の調整を行っていました。
しかし、こうした方法では、感染者が増えると職員の負担も大きくなり、対応が難しくなることから、8月から患者のデータのとりまとめにデジタル技術を本格的に導入しました。
新たなシステムでは、「HER-SYS」に入力された情報をもとに、患者の重症化リスクを自動的に点数化して一覧で表示します。
具体的には、患者ごとに糖尿病やぜんそくなど基礎疾患がある場合は1点、透析やインスリンの投与がある場合などは2点と、重症化リスクの項目を自動的に集計します。
そして、点数が高い人から一覧で表示することで、データ整理の業務を大幅に削減できたほか、優先的に入院先の調整などを行う必要がある人を見落とすリスクも低くなったということです。
このほかに患者への連絡の一部をメールで行う仕組みも取り入れています。
墨田区でも第7波で感染者は大幅に増えましたが、こうしたデジタル化や発熱相談の外部委託などで、データ整理や電話対応の業務が大幅に減り、第6波のときにほかの部署からきていた1日あたり70人ほどの応援職員の支援がなくても、対応できるようになったとしています。
さらに墨田区では、こうして生まれた人的資源を振り分け、8月22日から区独自に「陽性者登録センター」を開設したということです。
この登録センターは、都のセンターが対象としている20代から40代以外の年代の区民から、自主検査で陽性だった場合、オンラインで申請を受け付けていて、発熱外来を受診する患者が減り医療機関の負担の軽減につながることが期待されています。
墨田区保健所 西塚至所長
「デジタル化を進め業務を効率化できただけでなく、重症化リスクのある人をより見つけやすくなった。デジタル化で全数把握にも対応できている」
○全数把握見直しについて
「医療従事者の負担が極限に達しているので、見直しの方針は歓迎したい。
一方で、情報が少ない患者の症状が急変した場合に医療につなげられる体制や、食料やパルスオキシメーターを送る方法について検討が必要だ」
○自治体が判断することについて
「統計的な観点では、全国一律のデータがないと重症化などの割合が正確に出ない可能性があると思う。今後、東京都や医療機関と連絡をとり、区民の理解を得られるようにしたい」
厚生労働省の元技官で医療情報技術に詳しい専門家は、保健所の業務がひっ迫したことについては、国が開発した『HER-SYS』をはじめとするシステムが、現場にとって使い勝手のよいものになっておらず、自治体がそれぞれにシステムを開発したり、多くの人手をかけたりする事態になったと指摘しています。
北見工業大 奥村貴史教授
○見直しについて
「変異によって病原性や感染性が変わっていく可能性を考えると、理想的には、全数把握が望ましいが、保健所や医療機関が破綻する前に軌道修正できることは重要で、意思決定が機能していると評価すべきだ」
○デジタル化はボトムアップで
「体力がある自治体は独立して新たにシステム開発し、体力のない自治体は人手でしのぐという、極めて非効率な状況が全国で生じた。国は、はじめから行政の負担軽減を政策目標にしてデジタル化を進めるべきだった。
まずは、なぜ保健所に非効率が生じたのかしっかりと検証しないといけない。国のトップダウンでシステムを一方的に導入しても、現場では混乱が生じる。デジタル化は現場で実務にあたる職員の声を取り入れながら、平時よりボトムアップで時間かけて取り組むことが重要だ」