政府が分配している新型コロナウイルスの飲み薬「ラゲブリオ」について、製造会社の日本法人は薬の生産体制が整ったとして、一般の医薬品と同様に卸会社を通じた流通を始めると発表しました。必要な患者に速やかに処方されることが期待されるとしています。
アメリカの製薬大手メルクが開発した新型コロナの治療薬「ラゲブリオ」(一般名「モルヌピラビル」)。国内で初めて2021年12月24日に特例承認されました。
ウイルスが細胞に侵入した後、ウイルスの設計図となる「RNA」をコピーする際に必要な酵素の働きを抑え、増殖を防ぎます。
薬の添付文書などによりますと、投与の対象となるのは、18歳以上の軽症から中等症1の患者のうち、高齢者や肥満、糖尿病などの重症化リスクがある人で、発症から5日以内に1日2回、5日間服用するとしています。
また、胎児に影響が出るおそれがあるとして、妊婦や妊娠している可能性がある女性は服用しないこととしています。
重症化リスクがある患者の入院や死亡のリスクをおよそ30%低下させる効果があるとされ、薬の服用後に有害事象が出た割合は、薬を服用したグループと、偽の薬を服用したグループで変わらなかったとしています。
「ラゲブリオ」は、国内では重症化するリスクのある患者を対象に、政府が分配してこれまでに38万人以上に投与されています。
会社の日本法人の「MSD」は18日、薬の生産体制が整い、安定供給できる見通しがたったとして、近く、一般の医薬品と同様の形での流通を始めると発表しました。
これまでは流通量が限られていたため、政府が買い上げて薬局や医療機関は「登録センター」に登録して受け取る方式でしたが、今後は卸会社を通じて医療現場などに流通するようになるということです。
これに伴って用法用量として定められた1日2回、5日間服用する際の薬価がおよそ9万4000円に定められましたが、新型コロナに関する医療は全額、公費負担で引き続き、患者の負担はないということです。
MSD
「薬局や医療機関が必要な量の薬を確保しやすくなり、患者さんにできるだけ早いタイミングで処方することができる。準備ができ次第、できるだけ速やかに一般流通を開始する」
新型コロナ用で、現在承認されている軽症の段階から使える飲み薬は、「ラゲブリオ」のほか、アメリカの製薬大手「ファイザー」が開発した「パキロビッドパック」があります。
「パキロビッドパック」は、ラゲブリオに続いて、2022年2月10日に特例承認されました。
新型コロナ向けに開発した抗ウイルス薬の「ニルマトレルビル」と、エイズの治療に使う既存の薬で抗ウイルス薬の効果を増強させる役割を担う「リトナビル」を組み合わせた薬です。
「ラゲブリオ」と同様、細胞内に侵入したウイルスの増殖を抑えるタイプの薬ですが、作用のメカニズムが異なり、ウイルスが自身のRNAをコピーして増える準備段階で働く酵素を機能しなくすることで増殖を抑えます。
会社が2021年12月に公表した臨床研究の最終的な分析結果によりますと、重症化リスクのある患者に対して、発症から3日以内に投与を始めた場合には入院や死亡のリスクが89%低下し、発症から5日以内に投与を始めた場合でも、88%低下したとしています。
また、薬の服用後に有害事象が出た割合は、薬を投与した人たちと偽の薬を投与した人たちで頻度は変わらず、ほとんどが軽かったとしています。
薬の添付文書などによりますと、投与の対象は、12歳以上の重症化のリスクが高い軽症から中等症1の患者で、1日2回、5日間服用するとしています。
パキロビッドパックは、一緒に飲むことが禁じられている薬がおよそ40種類あることや、腎臓の機能が低下している患者に対しても用量の調整が必要であることなどから、使用するケースが比較的少ない状態が続いています。
厚生労働省によりますと、200万人分が確保されていますが、投与されたのは2022年7月26日の時点でおよそ1万7600人で「ラゲブリオ」の15分の1以下にとどまっています。
「ラゲブリオ」と「パキロビッドパック」いずれも、ウイルスが細胞に感染する際の足がかりとなる「スパイクたんぱく質」が変異しても影響は少なく、効果は保たれると考えられています。