今年度の最低賃金について、過去最大となる全国平均31円の引き上げという目安を厚生労働省の審議会が示し、東京労働局の審議会は、国の審議会が示した目安通り31円引き上げて、時給1072円とする答申を行いました。これまでの最低賃金の推移や1都6県の状況、引き上げの影響や課題をまとめました。
最低賃金の全国平均は、時給で示されるようになった2002年度は663円でしたが、昨年度は930円になり、19年間で267円引き上げられました。
景気の低迷の影響で、引き上げ額が比較的低い水準にとどまった時期も長かった一方で、政府が「全国平均で時給1000円を目指す」という目標を掲げた2016年度以降は大幅な引き上げが続き、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けたおととし、2020年度は1円の引き上げにとどまったものの、昨年度は全国平均で28円という過去最大の引き上げになっていました。
現在、全国平均で時給930円となっている最低賃金について、労使の代表などが参加する厚生労働省の審議会は、今年度は全国平均で31円引き上げるとする目安を2日、厚生労働省に答申しました。
引き上げ額は昨年度の28円を上回り、最低賃金が時給で示されるようになった2002年度以降で最大です。目安通りになれば全国平均で時給961円となります。
地域別の引き上げ額の目安は、東京などのAランクとBランクが31円、CランクとDランクが、30円となっています。
〇1都6県の地域別ランク(厚労省HPより)
Aランク 埼玉・千葉・東京・神奈川
Bランク 茨城・栃木
Cランク 群馬
実際の引き上げ額は都道府県ごとに設置されている審議会での議論を経て決まることになります。
このうち東京労働局の審議会は5日、目安通り31円引き上げ、時給1072円とする案をまとめました。そして、採決の結果、賛成多数となったことを受けて労働局に答申しました。
31円の引き上げは東京都でも過去最大で、物価、特に、食料品や光熱費などの上昇が大きいことや、企業の経営状況が昨年度よりは回復傾向にあることなどが重視されたということです。
一方、企業側の委員からは「コロナ禍からの回復の兆しも見えていたが足下では急激に感染が拡大し、エネルギー価格の高騰などもあって見通しが立ちづらい」という意見が出され、採決では3人が反対したということです。
東京労働局では8月22日まで異議申し出を受け付け、新しい最低賃金1072円はことし10月から適用される見通しです。
一方、最低賃金の引き上げについて、飲食店からは経営への影響を懸念する声が上がっています。
東京・渋谷区で40年以上続く焼き肉店では、4人のアルバイトに対し、時給1050円を基本として経験などに応じた金額を支払っています。現在の東京都の最低賃金は1041円のため、目安通りに引き上げられれば従業員への支払いも増やす必要が出てきます。
ただ、長引くコロナの影響で集客は感染拡大前の6割程度にとどまっているうえ、肉の仕入れ値が去年に比べて1割から2割高くなっているということで、経営への影響は避けられないといいます。
焼き肉店「清香園」 那須辰也店長
「商品価格に転嫁できればよいですがすぐにはできないので我慢している状況です。一生懸命働いている従業員に報いたいと思いますが仕入れ値が上がり売り上げが増えないなかでとても手が回りません。賃金が上がって消費に回ればよいですが、短期・中期的には厳しい状況を強いられると思います」
今回を含めると5年間で最低賃金は100円以上の上昇し、政府が目指す時給1000円に近づいています。
ただ、今回の議論では、引き上げ自体に争いはなかったものの引き上げ額をめぐって労使の意見が大きく隔たり、とりまとめの議論が、1週間にわたって延期される異例の展開となりました。
こうした中、過去最大の引き上げ額となったのは、物価の上昇、なかでも生活必需品の値上がり幅が大きいことを踏まえ、働く人の生計の維持を重視したためです。
一方、長引くコロナ禍や原材料高に苦しむ企業も少なくないとして、答申では、生産性の向上や適正な価格転嫁など引き上げ環境の整備に向けた政府の支援を求めました。
実際の引き上げ額は今後、都道府県ごとに設置されている審議会での議論を経て決まり、新しい最低賃金はことし10月から順次、適用される見通しです。