ロシアの軍事侵攻により、ウクライナの人たちが日本へも避難してきています。日本での生活が長期化する可能性もある中、ことばの壁や就労などへの不安にどう対応し支援するかが課題です。避難した人はどのような支援を必要としているのか。東京都に寄せられた相談の内容のほか、住まいやことばなど官民に広がる生活支援の情報をまとめました。
支援情報(クリックすると情報にアクセスします)
【住まいの支援】 【ことばの支援】 【相談窓口・政府や自治体の支援】
東京都は、ウクライナから避難してきた人や、支援する人などからの相談を受け付ける窓口を3月に設け、4日までに371件の相談が寄せられたということです。
371件のうち、最も多いのが、住まいに関するもので166件、次いで生活に関するものが36件、在留資格が35件、教育が18件、医療が15件、就労が12件などとなっています。
具体的には、都営住宅への入居の希望や生活費の支援、それに仕事探しの手助けを得たいとか、日本語を習いたい、子どもを学校に通わせたいといった相談が目立つということです。
都は、内容に応じて手続きや支援を受けられる方法を伝えるなどして対応しているということです。
避難してきた人のなかには、日本での受け入れ先が決まっていない人もいて、住まいについての支援が必要となります。受け入れに向けては、自治体だけでなく民間企業の間でも支援の動きが広がっています。
このうち、賃貸住宅などを手がける不動産会社の「APAMANグループ」は、避難してきた人たちに全国でワンルームや3LDKなどの賃貸住宅、およそ100部屋を用意して無償で貸し出しています。
3月以降、電話やホームページで受け付けを開始し、これまでに38人が都内や千葉県内などの賃貸住宅に入居したり、入居することが決まったりしたということです。
部屋には、ベッドやテレビ、冷蔵庫などの家具や家電が提供されるほか、水道や光熱費も会社側が負担するということです。
人材派遣会社の「アウトソーシング」は3月、避難してきた人たち100世帯の受け入れを表明し、プロジェクトチームを立ち上げました。この会社では、日本で働く外国人の支援業務を行ってきたノウハウを生かし、日本語の教育や社員寮などの住宅の提供を行うことにしています。
住居が決まったあとは、近くの商店などに社員が出向いて、地域の人たちにも協力を求めるということです。
また、ウクライナ語と併記した日本語の簡単な会話集の作成も進めているほか、ウクライナ語の通訳1人と新たに契約し、避難してきた人の身の回りの世話や困りごとの相談にも応じることにしました。
日本での生活が長期化する可能性もある中、ことばの不安に対応した支援も必要になります。
子どもの教育支援を行う公益財団法人「海外子女教育振興財団」は、日本語の簡単な会話や単語をウクライナ語に訳した辞書を作成し、財団のホームページで公開しています。
ウクライナ語の会話文や単語の横に、同じ意味の日本語や、その発音のしかたのほか、英語の訳が掲載されていて、「教室」や「体育館」など学校に通うことを想定した単語も盛り込まれています。
辞書の作成は3月下旬から進められ、日本で暮らすウクライナ人のフェスコバ・スヴィトラナさんが単語のチェックなどの監修を務めました。
フェスコバ・スヴィトラナさん
「避難者にはウクライナを離れる予定が全くなかったのに、心の準備や知識もないまま日本に来る人もいると思う。日本語がわからないと学校や病院など多くの情報にたどりつけないので、辞書を役立ててほしい」
また、警察庁は、事件や事故に巻き込まれないよう注意点などをまとめたウクライナ語のパンフレットを作成し、全国の警察や空港などで配布を始めました。
この中では、110番通報や119番通報の方法や基本的な交通ルール、災害時の対応などがイラスト付きで掲載されています。
さらに、全国の警察に対してウクライナ語の通訳の確保を指示し、警察としても避難してきた人の支援を進めることにしています。
ウクライナから避難してくる人への対応について、国際NGO「難民を助ける会」の会長で、ウクライナからの国外に避難した人たちの状況に詳しい立教大学大学院の長有紀枝教授は、行政だけでなく、地域ぐるみで受け入れ体制を作って行くことが重要だと指摘しています。
立教大学大学院 長有紀枝教授
「幼い子どもを連れて十分な身支度もできないまま、国外にやっと避難したという人も多く、精神的にも疲弊している。住居や教育、医療などさまざまな対応が必要になるが、言葉の問題、特に年配の世代など新しい言語を学ぶのが難しい人たちにどう対処していくかが課題となる。日本での生活が長期化する場合は行政だけでなく企業や学校、市民団体などの協力も不可欠で、地域ごとにしっかりとした受け入れのプログラムを作っていく必要がある」
ウクライナからの避難民を積極的に受け入れる方針で、日本に親族や知人がいない人たちに対する支援の内容を決定しました(4月11日)。
〇国が確保した一時滞在先ホテルにいる間、食事提供と別に生活費
1日あたりの支給額
・12歳以上は1000円
・11歳までは500円10歳未満 19人
〇自治体や企業など提供の住居に移るため一時滞在先を出たあと
1日あたりの支給額
・12歳以上は2400円で、2人目以降は1600円
・11歳までは1200円を支給
〇一時滞在先を出る人たちが生活に必要なものの購入などに充てるための一時金
・16歳以上は16万円
・15歳までは8万円を支給
さらに、医療や日本語教育、就労支援などの費用も国が実費を負担するなどとしており、政府は、避難生活の長期化が予想されることから、今後も、必要に応じて、生活費などの支援を検討することにしています。
自治体に広がる支援の動きや相談先の情報をまとめました。
東京都は、ウクライナから避難してきた人の受け入れのために都営住宅を100戸、用意するとともに、生活物資や教育などの支援を行うことにしています。
また、東京都は相談窓口を設け、住まいや在留資格などに関する問い合わせに応じています。都は、手続きや支援を受けられる方法を伝えるなどして対応しているということです。
〇東京都の相談窓口
受付 平日 10時~16時
言語 ウクライナ語(要予約)
日本語 英語 ロシア語
電話 03-6258-1227
「東京都つながり創生財団」
HPの専用フォームでも相談受付
神奈川県では、すでに県営住宅などの120部屋あまりを確保したほか、衣料品メーカーや量販店などの協力を得て、日用品や家電などを提供する体制も整えたとしています。また、今後、要望があれば、住まいの提供や仕事探しなど、支援するということです。
さらに、県は、横浜市神奈川区に相談窓口を設け、県内に住むウクライナ人などから、現地に住む親族や知人の受け入れ、さらに日本での住まいや就業などについて相談にのったり、関係機関につないだりする支援を始めています。
〇神奈川県の相談窓口
場所 かながわ県民センター
受付 平日 9時~17時15分
※12時から13時を除く
電話 045-316-2771
千葉県の熊谷知事は、県では一時滞在先として2つのホテルで合わせておよそ100室、県営住宅75戸をそれぞれ確保したと述べました。
さらに、「就労や子どもたちの教育、保育を支援するため避難が長期化した場合をあらかじめ考えておかなければいけない」として政府の方針を踏まえ県としての支援策を検討する考えを示しました。
(4月7日の記者会見)
〇千葉県国際交流センター
受付 平日 9時~16時
※12時から13時を除く
言語 ウクライナ語(予約制)ロシア語
電話 043-297-2966
埼玉県の大野知事は、ウクライナから避難してきた人を受け入れるための具体的な支援策を明らかにしました。
それによりますと、市町村や関係団体と連携してあわせて79戸の公営住宅を準備したほか、避難してきた人たちの相談窓口を設置し、ウクライナ語とロシア語の通訳のボランティア、あわせて44人を確保したということです。
また、県庁内に部局横断の連絡会議を設置して支援する分野ごとの連携や情報収集などに取り組むことにしています。(4月12日の記者会見)
〇外国人総合相談センター埼玉
受付 平日9時~16時
言語 ウクライナ語(予約制)
英語 ロシア語
電話 048-833-3296
このほか、ウクライナから避難してきた人の支援をめぐって、独自の支援や受け入れ準備を進めている自治体もあります。
〇狛江市
狛江市では、十分な荷物も持たずに避難してきた人が生活の準備を整える資金として「人道支援一時金」10万円を支給するということです。
また、翻訳機の貸し出しや通訳ボランティアの派遣、市役所や市内の企業での仕事のあっせんなど、幅広い生活支援を行うとしています。
〇杉並区
避難してくる人を支援するため東京・杉並区はウクライナ語などにも対応した相談窓口を設置しました。英語のほか、ウクライナ語、それにウクライナ人の中でも使う人がいるロシア語にも対応するということです。
杉並区の相談窓口
場所 区役所文化・交流課
受付 平日 9時~17時
電話 03-3312-9415
窓口では住居の確保や子育て・教育、医療や健康維持、就労など生活全般の相談を受け付け、避難してきた人がスムーズに支援を受けられるよう対応するということです。
〇日野市
東京オリンピックでウクライナの空手の選手団を受け入れた日野市では避難してきた人の受け入れを、29日表明しました。
今後、避難する人がいれば市や空手道連盟などがサポートしていく予定だということです。市役所は相談窓口を設置し、支援したいという市民とのマッチングも行うことにしています。
〇三鷹市
三鷹市は市内に避難してきた人に対して当面の生活費として1人あたり3万円を給付する方針を固めました。
また、日本語の学習支援や生活の困りごと相談のほか、ウクライナへの理解を深めるための市民向けの文化講座なども検討しているということです。
〇港区
港区では、親せきを頼って来日したウクライナ人が安心して暮らせるよう、音声翻訳機を用意し、4月1日からウクライナ大使館に貸し出す予定だということです。
〇板橋区
板橋区では、区営住宅の入居要件の緩和を検討しています。また、ウクライナ語の通訳ボランティアを募集して、今後、さまざまな手続きを行ううえで必要な書類の翻訳などを進めたいとしています。
〇相模原市
相模原市は地元企業などと連携して電化製品を無償提供するなどの支援策をまとめました。
それによりますと、企業から生活に必要な電化製品や家具などを譲り受けて無償提供するほか、子どもたちが楽しく過ごすことができるようサッカーJ3のSC相模原がサッカー教室を開くことなどを検討しているということです。
相模原市は今後、こうした支援策を踏まえて受け入れが可能だと国に伝えことにしています。
〇埼玉県戸田市
戸田市は区画整理のために建設された市営の仮設住宅6棟を確保して避難してきた人を受け入れることにしています。仮設住宅は1棟につき3人から4人での利用を想定していますが、家族構成や個別の事情を考慮して柔軟に対応していくということです。
今後、国からの要請があれば避難してきた人を受け入れ、就労支援や生活相談などへの対応も検討することにしています。
〇千葉市
千葉市は、避難してきた人たちが生活する場所として、災害用に確保している市営住宅を16戸提供することを決めたということです。
また、外国人の生活相談を受ける千葉市中央区の「千葉市国際交流協会」の窓口ではウクライナ語やロシア語でも対応できるようにするため通訳ボランティアの募集を始めました。
〇千葉県柏市
柏市では、避難してきた人に衣類など生活用品を整えるための当面の生活費として1世帯あたり10万円を支給することにしています。さらに4月からは、生活保護と同じ程度の支援金を毎月、支給するということです。
住宅では、市営住宅の広さおよそ70平方メートルの3DKの部屋などを4部屋確保し、家族など複数人で住むことができるということです。部屋の数は、今後も増やす予定です。
また、市役所に相談窓口を設置して支援にあたり、音声や写真で読み取った言語を翻訳できる機器を20台購入して、避難してきた人たちに貸し出します。