緊迫するウクライナ情勢に関する情報が、連日テレビやSNSなどで発信されています。この事態を大人は子どもたちにどう伝えて向き合うか。東京都中野区の保育園では、この問題を踏まえ、子どもたちに仲たがいをしても歩み寄る大切さを伝えていました。子どもとの接し方や注意すべきポイントを専門家などに聞きました。
東京都中野区の「アルテ子どもと木幼保園」では保育士と年長の子どもたちが対話する時間を設けています。4日は、ウクライナ情勢を踏まえながら、子どもたちが仲たがいした場合、どうすればいいと思うか、話し合いました。
すると、子どもからは「ピースルームではパンチしないでちゃんと話し合いをする」といった意見が出ていました。
この「ピースルーム」とは、仲たがいした子どもどうしでお互いに話し合う部屋で、ここでは、相手をたたいたり責めたりすることは、いけない決まりになっているということです。
保育園では、こうした取り組みを通じて、仲たがいしたとしても、暴力はいけないことで、歩み寄ることの大切さを伝えています。
戸塚陽子 統括園長
「子どもたちなりに戦争っていけないことだよねと思っています。子どもは大人が思っているよりも自分たちの考えを話してくれますし、真実をパシッと話してくれることもあります。停戦をめぐる交渉が始まったとき、子どもたちは『お話し合いするんだって。僕たちのピースルームと一緒だね』と言っていました。相手の意見にも耳を傾けられる子どもに育ってほしい」
宮崎県の県立の中高一貫校、「五ヶ瀬中等教育学校」では、4日、地理と世界史の2人の教諭がウクライナについて共同で授業を行いました。
生徒たちは、旧ソビエト連邦との関係や、東部と西部に民族的な違いがあることなどを学び、いま起きている事態とどうつながっているのか話し合っていました。
生徒
「いまなぜこんなこと起こったのだろうと疑問がありました。どうこの問題について考えていくか、ヒントになる授業でした」
災害や戦争が人の心に与える影響について詳しい目白大学保健医療学部の重村淳教授は「これはウクライナだけの問題ではなく世界全体の問題で目を背けるわけにはいかない。大人はウクライナの話題を避けずに、まずは子どもたちとしっかり対話してほしい」と対話することの重要性を指摘しています。
その上で、戦争について子どもと話す時には、状況を子どもがどこまで知っているか確認すること、そして、子どもが怒りや悲しみ、不安に思っている点など何を感じているのか聞き取ることが重要だとしています。
〇子どもの意見を聞いて
子どもが抱えている感情は大人と同じとは限らない。穏やかになるようつとめ、冷静に子どもの意見を聞いてほしい。子どもに聞かれたことが分からなかったとしても、決してごまかしたりせず、この問題は大人でも分からないことがあるような複雑な問題だ、ということをしっかり伝えてほしい。
〇子どもの思いを大切に
(子どもが何かをしたいと言った場合は)子どもの思いを大切にしてあげて欲しい。募金活動に参加するほか、この問題について調べて考える、そして、まわりに広めるというのも立派な行為で、子どもであってもできることはある。
テレビやSNSではつらくなるような映像も流れることから、重村教授は特に小さな子どもや、トラウマがある人などは注意すべき点もあるとしています。 注意点として挙げたのは、ひとつは「ながら見」、もうひとつは「長時間」、3つめは「繰り返し」です。「ながら見」は意識しないうちに、繰り返し戦争の映像を目にすることにつながるため、注意が必要だとしています。
〇メディアに接する時間を決める
幼い子どもはウクライナだけでなく、海外すべての地域で危険が迫っていると感じ、過剰な恐怖や不安を抱いてしまうおそれもある。メディアに接する時間を決めるなどの対応が必要だ。
「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」ホームページより
ウクライナ情勢に関する情報に触れる機会が増え、子どもが過度に不安や恐怖を抱く可能性があるとして、子どもの支援に取り組む国際的NGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」は、心理の専門家とともに戦争について話すときの5つのポイントをまとめ、ホームページで公開しました。
子どもと戦争について話す際のポイント |
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話に耳を傾ける 質問の時間が大事 |
年齢に応じた説明 |
動揺を含め 気持ちを受け止める |
「大人が解決」子どもは今まで通り |
「助けたい」その気持ちを応援 |
〇ポイント1
子どもは大人と全く異なるイメージを抱いていることがあるので、子どもが話したいと思うときに耳を傾け、質問できる時間を持つことが大事だとしています。
〇ポイント2
幼い子どもと年長の子どもでは理解も異なるため、年齢に応じた説明をすること。
〇ポイント3
動揺も含めて子どもの気持ちを否定せずに受け止めること。
〇ポイント4
「これは大人が解決すべき問題」だと伝え、今まで通り、遊んだり友達に会ったりしていいと伝えることが重要だとしています。
〇ポイント5
「助けたい」と思っていたらその気持ちを応援し、平和を呼びかける絵を描いたり募金活動をしたりすることで、子ども自身も解決の一端を担っていると感じることができると呼びかけています。
「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の赤坂美幸マネージャー
多くの子どもたちの不安や恐怖などは、周りにいる大人が落ちつかせるように手助けをするなど、できることがあるということを知っていただきたいと思います。まずは、大人の方々が落ちつくこと、子どもたちが安心して落ち着きを取り戻せるような環境をつくること、そして、子どもたちの日常生活を崩さないことが大切です。
5つのポイントの1つでも子どもの周りにいる大人が意識して実行することによって、長い目で見た時に、子どもの心の健康にも寄与すると思います。
ただ、過度に不安や恐怖を抱いている子どもがいたら専門家に早めに相談することが大切です。