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危険な通学路の安全対策 予算確保ハードルに 千葉県内4000か所超

  • 2021年11月30日

子どもたちが歩く場所と車道を分けるおよそ150メートルの白線に“13万円”。
信号機に被さってしまった5本の木の伐採に“46万円”。
安全な通学路を確保するためには、1つ1つの対策に費用がかかります。

千葉県八街市で、下校中の児童5人がトラックにはねられて死傷した事故を受けて行われた点検で、県内の通学路では、4000余りの場所で対策が必要なことがわかりました。人々の関心が高まり、多くの危険箇所が洗い出された一方、対策を進める自治体では予算の確保がハードルの1つとなっています。

八街事故から5日後にも通学路で…

千葉県市原市の通学路にある横断歩道です。
八街市の事故からわずか5日後の土曜日、ここでも痛ましい事故が起きました。

事故が起きたのは午後2時半ごろ。
道路を横断していた小学1年生の男子児童が、乗用車にはねられて亡くなりました。

対策乗り出す自治会

同じような事故を繰り返さない…。
地元の自治会は、事故直後から対策に乗り出しました。

ちはら台地区自治会連合会 斉尾誠治会長
「八街の事故があって、そのすぐあとですから、まさかここでこんな事故が起こるとは思いもよらなかったです。地域でまずできることからやっていこうと色々と対策を皆さんに協力をお願いしながら進めています」

まず、事故現場を含む21か所に、道路を横断する際に掲げる旗を設置しました。
通学路であることを知らせるポスターやのぼりも、およそ100か所に設置しました。登下校の見守りを行うボランティアの募集も始めています。

一方、住民ができる対策には限界があるといいます。
この通学路は毎日300人ほどの児童が利用しますが、子どもたちのすぐ近くを車が通り抜けていきます。歩く場所と車道を区分する白線を引くには、市に対策をお願いするしかありません。

自治会では、こうした通学路の対策が必要な箇所を、地域住民と協力して洗い出し、信号機の設置や速度規制など、県や警察と調整が必要なものも含めて、のべ44か所について、市原市に対策を要望しています。

ちはら台地区自治会連合会 斉尾誠治会長
「自治会の皆さんは非常に協力的に危険箇所を出していただいて、かなりまとまりました。 市原市と力を合わせて交通事故がない街にしていきたいです」

危険箇所 10年前の調査の10倍に

八街市での事故を受けて、ことし9月末を期限に全国の小学校の通学路で一斉点検が行われました。
市原市では自治会の要望なども受けて、「対策が必要な場所」として、281か所が確認されました。

およそ10年前、平成24年度に全国一斉に行われた通学路の点検では、市原市で特に緊急性があるとされたのは29か所でした。それと比べると、およそ10倍の数です。

今回の点検では、国が以下の新たな観点を加えるよう通知しています。

(1)見通しのよい道路や幹線道路の抜け道になっている道路など、車の速度が上がりやすい箇所や大型車の進入が多い箇所
(2)過去に事故に至らなくても、ヒヤリハットの事例があった箇所
(3)保護者、見守り活動者、地域住民等から市町村への改善要請があった箇所

市の担当者は、保護者や地域住民の関心の高まりを現場で感じたといいます。

市原市教育委員会教育施設課 沼野克幸課長
「点検に保護者の方や地域の皆さんが多数参加していただきました。直接話をしても、その熱意が伝わってきました」

予算確保がハードルに

しかし、これまでに対策が行われたのは、すでに計画があるなどした14か所のみで、既存の予算で今年度中に対応できるのは、63か所となっています。

こちらの通学路には、新たに白線が引かれ、子どもたちの歩く場所をはっきり区分しました。150メートルほどの白線におよそ13万円の費用がかかっています。

通学路にある交差点では、信号機に重なっていた5本のイチョウの木の伐採を行いました。伐採や処分にかかる費用は合わせておよそ46万円となりました。

いずれも点検の前から対策が予定されていた場所で、多くの場所では新たに予算を確保する必要がでています。

市原市道路維持課 仲村晃一課長
「対策をする際に、交通整理員なども必要で上乗せで費用がかかります。 道路維持課とすると140か所の要望が来ていて、これを12月議会に提出する補正予算案に盛り込み、今、議会で審議をお願いしています。この予算が成立すれば、速やかに前倒しして対策をどんどんやっていきたいです」

既存の予算では対応できず、市は4300万円の追加予算の確保を進めていて、市が対応する残りの150以上の場所を実際に対応するのは、来年度以降になります。

市原市教育委員会教育施設課 沼野克幸課長
「子どもたちの安全を確保していくのが大切になりますので、適切な時期に予算を確保して進めていきます」

今回の通学路の点検では千葉県全体で、4044か所で対応が必要と確認されています。
県内の市町村で最も対策箇所が多い千葉市では、2億9000万円が補正予算案に計上されています。また千葉県と県警察本部では、すでに、あわせて6億5000万円もの補正予算が組まれています。

すべて対策するには大きな予算が必要になり、各自治体ではどうしても優先順位をつけて、順番に対応せざるを得ないのが現状です。
調査の結果、危険な通学路の場所は見えてきたものの、どう対策を講じていくのか、自治体に重い課題が突きつけられています。

取材後記

同じような事故を繰り返さないという保護者や住民の思いが、これだけの数の対策が必要な場所の洗い出しにつながっていると感じました。

千葉県警察本部によりますと、県内では、ことし1月から10月末までに登下校中に事故に巻き込まれて小学生あわせて99人がけがをしているということです。私たちは、子どもたちが日々、こうした状況の中で学校に通っているということを忘れてはいけないと思います。

また、今回の全国の通学路での点検結果について、国は各市町村のホームページなどで幅広く公表するよう呼びかけています。課題の1つとなっている予算については、これまでは交通安全対策の費用という大きな枠の中に組み込まれて、通学路に対してどれだけの予算が組まれているか見えにくい状況でした。

取材した市原市などでは、通学路の対策費を個別の予算として計上するようになっていて、「子どもたちの安全のためにどのくらい力をいれているのか」が見えやすくなってきています。
対策に熱心に取り組む自治体を評価すること、また、取り組みが届いていない場合には、自治会などを通じて声をあげることなど、私たち1人1人の関わり方も大切になっていると思いました。

 
  • 櫻井 慎太郎

    千葉放送局 記者

    櫻井 慎太郎

    2015年入局。長崎局、佐世保支局を経て千葉局。八街市での事故発生直後から現場で取材にあたる。過去に起きた通学路の事故の関係者や行政の対応を継続して取材している。

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