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コロナで“歌のない卒業式” 音大生が子どもたちに届けたエール

  • 2021年4月3日

この春は、新型コロナの感染防止のため、卒業式での合唱を取りやめた学校が少なくありません。でも、大切な友人と過ごした学び舎を巣立つ時に、思いを一つにする歌がないのはあまりにさみしいものです。その思いは、大学で日々音楽を学ぶ学生たちも同じ。そこで、音楽のエールを届けるプロジェクトが実現しました。

全国の教室に流れた「仰げば尊し」「旅立ちの日に」

3月11日、東京・板橋区立高島第五小学校の教室に設置されたスクリーンには、オーケストラと合唱団が生で演奏する様子が映し出されました。流れてきたのは、卒業式の定番とも言える「仰げば尊し」「さくら」「旅立ちの日に」など、毎年歌い継がれてきた曲です。

スクリーンに見入っていたのは、まもなく小学校を卒業する6年生たちでした。この1年、コロナの感染防止が優先され、一生に一度の卒業式でも合唱を取りやめることが決まっていました。それでもやはりこの時期に、人生の節目にふさわしいメロディーに触れてもらいたいと、音楽の先生が機会を設けたのです。

演奏が始まる前、先生は子どもたちにこう語りかけました。

小林彩音先生
「卒業式で歌を歌えない状況になっていて残念に思っている子とか何人もいると思うんだけど、今回はみんなの気持ちを少しでも明るく前向きにしたいという思いの人が集まって、生配信で卒業式の音楽をプレゼントしてくれます。卒業式のような気分で聞いて欲しいなって思います」

この日は、1時間あまりにわたって11曲が演奏されました。そして、この様子は全国各地の小学校や中学校で鑑賞されました。

音大生たちによるプロジェクト

密を防ぐため全体の練習は前日に1回だけ

スクリーンの向こうで演奏をしたのは、東京音楽大学の学生たちおよそ50人。歌のない卒業式を迎える児童や生徒を励ましたいと集まりました。

企画の中心メンバーの1人は、この大学の4年生で指揮者の小林雄太さん。小林さんたちにとってもこの1年は、新型コロナの影響で演奏会などがほとんどなくなるなど、生活に音楽がないさみしさを味わってきました。

小林雄太さん
「大学に在籍した3年間で積み上げてきたものを、4年目のこの1年間で自分なりに形にしようと思ってきたのですが、ふたを開けてみたら演奏活動が全然できず、授業もレッスンも対面では9月までずっとできなかったので、すごく葛藤があった1年でした」

「自分たちと同じ思いを抱いて1年を過ごした子どもたちを励ましたい」

そう考えたこの大学の特任講師・坂本勇仁さんが、小林さんたちに声をかけて仲間を集め、子どもたちの門出に、同じ音楽を志す仲間とともに音楽のエールを贈ることにしたのです。

小林さんも去年、教育実習で出会った高校生たちの姿を思い浮かべプロジェクトの参加を決めました。彼らは、部活動や修学旅行も中止。みんなで歌さえ歌えない毎日を送っていたからです。

小林雄太さん
「野球部だったら甲子園がなくなったり、水泳、陸上といろんな部活動、吹奏楽コンクールがなくなったり、目標にしてやっていたものが無くなってしまった。そういう子たちは、本当に元気がなかったです」

プロジェクトが動き出したことし2月以降、収録や会場にかかる費用をクラウドファンディングで集めるなどして、準備を進めてきました。

1週間前に全員PCR検査で臨んだ本番

3月11日の本番当日。午後2時から始まる演奏会の直前、東京都目黒区の大ホールで、かけ声が響きました。

「頑張っていくぞ」
「おーっ!」

今回のプロジェクトに参加した学生約50人が、演奏を前に気合いを入れ、ライブ配信の本番に臨みました。

メンバーは全員、1週間前に新型コロナのPCR検査を受け、陰性を確認していました。また、舞台には飛沫が飛散するのを防ぐ透明のアクリル板も設置されていました。
この日のために用意した曲は11曲。卒業式に歌ってほしい曲を募集した上でクラシックの名曲から卒業式の定番までを選び、一曲一曲に子どもたちへのエールを込めて演奏しました。
ホールと小学校の教室。そこでどんな時が流れたか、その一部をぜひ、映像でご覧ください。

「大切なもの」 作詞・作曲:山崎朋子/管弦楽編曲:上田素生

演奏が終わって

子どもたちの感想です。

女子生徒
「いまはコロナで自分たちがしたいことも制限されてしまっているけど、先生や大人の人たちが協力して、私たちのために頑張ってくれていることを知って、とっても感動しました」

 

男子生徒
「やっぱり最後くらいは歌いたいと思いましたけど、歌を聞けたし、いろんなことを(僕たちのために)してくれた人がいるから、いろいろな企画をしてくれて、ありがとうございました」

 

小林彩音先生
「もともと⼦どもたちは⾳楽が⼤好きで、卒業式でも⾳楽を取り⼊れられたらと思っていたのですが、例年通りには叶わないことですごく胸を痛めていました。でも、⼦どもたちが、思いを受け取ろうという静かにじっくり聞いていたり、思いを書き留めていたりしていて、私も想像していなかったので、とても感動しました」

ホールで演奏していた大学生たちも、この1年に思いをはせて音を紡いでいたようです。

コーラス担当の担当男子学生
「僕が音楽を始めたきっかけというのが中学校で合唱部に出会った事だったので、すごく原点に立ち直った気がして、とても良い本番になりました」

 

ピアノ担当の学生
「妹が中学3年生でいろんな行事ができなくなって、合唱も歌えないことをさみしそうにしていたので、この企画を楽しみにしていて喜んでくれたらよいなと思います」

 

指揮 小林雄太さん
「僕も久しぶりにこのホールで仲間たちと音楽ができて、肌で音楽を感じてすごく幸せな思いでいっぱいでした。(演奏を聴いてくれた子どもたちには)このコロナを経たからたくましいよねって人材に、やっぱり大変だと思いますけど、それでもやっぱり前を向いてたくましく生きていけるようになってくれたら僕自身もうれしいなって思います」

実は小林さん、小学校1年生の時に中越地震を長岡市で経験しているそうです。そのとき、全国の人たちからいろんな物資を支援してもらったことをいまでも鮮明に覚えていると話していました。

残念ながら、コロナ禍はまだ続きそうな気配です。でも、学生たちの思いが集まって音となり、それが各地の子どもたちの心に伝わったことは、確かなようです。

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