各国で新型コロナウイルスのワクチンの接種が進む中、見方が分かれているのが「妊娠中の女性への接種」です。こうした中、アメリカで、妊娠中にワクチンの接種を受けた日本人の女性が取材に応じ、当時の心境や判断のポイントについて話しました。各国の見方や、すでに5万人以上の妊婦が接種を受けたアメリカの状況についてもまとめています。
アメリカ・ハーバード大学の病院で精神科医として働く内田舞さんは(38)妊娠中だったことし1月から2月にかけて新型コロナウイルスワクチンの接種を2回、受けました。
妊娠がわかったのはアメリカで新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になっていた去年5月でしたが、当時、勤務先の病院で診療の支援にあたっていた内田さんは「感染が広がる状況の中で病院に行かなければいけないことや、妊娠中に感染してしまったらどのような経験をするのかなど、いろいろな不安がよぎりました」と当時の心境を振り返りました。
その後、感染による妊娠や胎児への影響を避けたいと考えた内田さんは、新型コロナウイルスワクチンについての科学的な情報を集めたうえで、おなかの子どもへの影響は考えにくいと判断し、接種を決めたといいます。
内田舞さん
●接種を決めた理由
「ワクチンが怖いので接種を受けないという判断はウイルスへの感染という別のリスクを負うことにもなります。一般の人で十分安全が確認されていて、ワクチンの仕組み上も影響が考えにくいので、接種によって得られる利益がリスクを超えると判断しました」
●どう判断すべきか
「妊娠中の女性は新型コロナウイルスのことだけでなく、さまざまな負担や、不安でいっぱいだと思います。ワクチンの接種でさらに不安になってしまうという人は、ほかの感染対策を徹底したうえで産後に接種を受けるといった選択肢もあります。接種に関する判断はそれぞれですが、自分と子どもの安全のため信頼できる医療従事者や、公的機関の情報などからできるかぎり正しい情報を集め、納得のいく判断をしてほしいと思います」
アメリカでは感染すると重症化するリスクが高いとされる妊娠中の女性がすでに5万人以上接種を受けています。
安全性などについての情報はまだ限られていますが、妊娠中の女性を対象にした複数の研究が進められていて、今後、さらなる情報が得られることが期待されています。
妊娠中の女性への新型コロナウイルスのワクチン接種についてアメリカCDC=疾病対策センターは安全性と有効性の情報は限られているとしながらも「妊婦は感染した場合に重症化するリスクが高いうえ、いまアメリカで接種されているワクチンに特定のリスクがあるとは考えにくい」として、接種を認めています。
CDCによりますと、今月15日の時点ですでに5万1000人を超える妊娠中の女性が接種を受けていますが、ワクチンと関連した妊娠への影響は報告されていません。
また、CDCが公表した、妊娠中の女性およそ1800人を対象にした調査では、ワクチン接種を受けた人のうち妊娠合併症や早産といった母体や胎児への影響が出る割合は、接種していない人と比べて変わらないという結果が示されています。
妊娠中の女性への影響については、新型コロナウイルスワクチンを開発した製薬会社が安全性と有効性を確認する臨床試験を開始しているほか、複数の研究機関も研究を行っていて、今後、接種を受ける時期や、ワクチンによる抗体が胎児にどの程度移行するかなど、より詳しい情報が得られることが期待されています。
妊婦へのワクチンの接種について、WHO=世界保健機関は、現時点ではデータが限られているとして、医療従事者など、感染のリスクが高い人や、重症化のリスクを高める基礎疾患がある人以外は妊婦への接種を推奨していません。
一方、接種が進んでいるイスラエルでは「妊娠や胎児への影響があったという証拠はない」として接種を推奨しています。
イギリスは推奨はしないものの、医師に相談したうえで接種することを認めています。
アメリカCDC=疾病対策センターの分析では、妊娠した女性は、していない女性に比べて、感染した場合、集中治療室で治療を受けるリスクがおよそ3倍、死亡するリスクも1.7倍となるほか、ユタ大学病院などの研究では早産のリスクが上昇することも指摘されていて、妊娠中の女性の感染や発症を防ぐことの重要性が指摘されています。
アメリカ・ジョージタウン大学病院の産婦人科に勤務し、新型コロナウイルスに感染した妊娠中の女性を多く診療している安川茉弥医師は次のように指摘しています。
安川茉弥医師
●妊娠中にコロナに感染した場合のリスク
「妊娠中の女性は肺などの呼吸器にかかる負担が大きく、免疫の働きも弱まっていることが多い。アメリカでは高血圧や肥満といった重症化リスクのある妊婦も多く、出産後も含めて新型コロナウイルスに感染したときのリスクは大きい」
●ワクチン接種の判断について
「これまでのデータから一般の人には安全性の高いワクチンであるということがわかっているものの、妊婦や胎児への影響は現時点では情報が限られているのも事実だ。妊婦が接種するにあたっては自分の職業や、生活する環境、重症化のリスクなどを考慮して信頼できる医師などに相談して判断してほしい」
新型コロナウイルスに感染した妊婦から生まれた赤ちゃんで、母子感染の可能性がある事例が1件あったことが日本小児科学会などのグループの調査で分かりました。赤ちゃんの健康状態に問題はなかったということです。
この調査は、日本大学医学部小児科の森岡一朗主任教授らを中心とした日本小児科学会のグループが全国の小児科のある医療機関を対象にアンケートを行い、1124の施設から回答を得ました。
それによりますと、去年8月末までに全国31の施設で、新型コロナウイルスに感染した妊婦から合わせて52人の赤ちゃんが生まれていて、このうち1人の赤ちゃんが出産直後のPCR検査で陽性となったということです。このほかの51人の赤ちゃんは、いずれも陰性でした。
陽性となった赤ちゃんは、健康状態には問題が無かったということで、母子感染だったとみられるということです。
グループによりますと、海外の研究で、新型コロナウイルスで母子感染したとみられるケースは数%程度の頻度で報告されているということで、国内では初めてだということです。
調査を行った 森岡一朗主任教授
「母親から赤ちゃんに感染する可能性は低く、症状も軽いため、過度に心配する必要はないが、日本でもゼロではないことが分かった。妊娠している女性は日頃から十分な感染対策をとってほしい」