埼玉県内の特別養護老人ホームでは、11月、入所者と職員あわせて50人以上の感染が確認され、10人を超える入所者が亡くなりました。この施設では当初、入所者の発熱を基礎疾患によるものか、かぜではないかと考えてしまったといいます。
なぜ、すぐに新型コロナウイルスの感染を疑うことができなかったのか、そこには高齢者施設ならではの事情がありました。感染者の集団=クラスターが発生した現場から教訓を学びます。
最初に入所者に38度の発熱が確認されたのは10月28日。
この入所者は基礎疾患があり、ふだんから発熱することがある入所者だったことから、医師と相談して薬を服薬して様子をみることになりました。
しかし、その3日後には同じフロアでさらに37度台の発熱の入所者が3人、せきだけの軽いかぜ症状の入所者が3人出たということです。
施設側は入所者の検温を1日何度も行って状態を確認すると、いったん熱が出ても数時間後には下がったり症状が落ち着いたりしたため、当初は基礎疾患によるものか、かぜではないかと考えたといいます。
施設を運営する法人の池田徳幸理事長
「微熱が出ても翌日には下がってしまうと、『ああ、熱がさがったね』と安心感も出てしまい、油断したところがあったと思う。今ならすぐにコロナを疑うと思うが、当時は疑うことができず、医師と相談してまずは様子を見るというふだん通りの対応をしてしまった」
その翌日の11月1日、施設は、新型コロナウイルスの感染の疑いもあるとして、念のため、発熱やせきの症状がある入所者7人を2つの部屋に分けて隔離しましたが、発熱者が一気に増え続け、入所者と職員あわせて50人以上の感染が確認されました。
発熱の状況をまとめた経過表です。
最初に発熱した入所者が一番早い感染だったかはわかっていませんが、発熱者がおよそ30人にまで一気に増えその多くが検査で陽性になりました。感染したり、濃厚接触者になるなどして出勤できない職員は40人以上にのぼりました。
施設側によりますと、7人を隔離した段階で、入所者の間ですでに感染が広がっていたのではないかと考えられるということです。
最終的に、10人を超える入所者が命を落とすことになりました。
なぜ、新型コロナウイルスを疑うことができなかったのか、そこには高齢者施設ならではの背景がありました。
施設を運営する法人の池田徳幸理事長によると、入所者には基礎疾患があって健康状態が悪い人や、みとりの人もいて、ふだんから微熱がでるということは珍しくないといいます。医師にそのつど相談していましたが、発熱やせきなどの症状が出たからといって、すぐにコロナだと見極めることは難しかったといいます。
池田徳幸理事長
「みとりの方や状態があまりよくない方もいて、そういう人と日々接していたため、どうしてもコロナだと疑うことが遅くなってしまった。初期対応の遅れが反省点だと感じている」
この施設では、今回の経験から入所者に発熱などの症状があった場合は、感染を疑ってすぐに隔離して対応したり、その際の職員の動きを繰り返しシミュレーションしたりしています。
池田徳幸理事長
「ウイルスを持ち込まないことが一番だが、もし持ち込んでしまった場合に広げないために、早い段階から準備をすることが重要だと思う。発熱などいろんな症状を見逃さず、どんなに大変でも早期に隔離して対応するということをやり続けなければならない」