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19のいのち~あすへの一歩 「わたしが障害者じゃなくなる日」本に込められた思いは 9月26日

相模原障害者殺傷事件を乗り越えていこうという取り組みを見つめる「19のいのち~あすへの一歩」です。

 

ある障害のある方が、子ども向けに書いた本です。

タイトルは「わたしが障害者じゃなくなる日」。「障害」とは何か、イラストも交えて分かりやすいことばで語りかけていると、6月の出版以降、話題になっています。

本にこめられた思いを取材しました。

 

“いったい障害ってなんだろう?”

“わたしに障害があるのは、あなたのせいなのです。そう言ったら、驚きますか?”

ときに大人もドキッとさせられることばで問いかけます。

 

著者の海老原宏美さん(42)です。

筋力が低下していく進行性の難病のため、生活の介助や人工呼吸器が欠かせません。

「小さいころはもう少し自分で動けたんですけど、今はほとんど全介助で」と話す海老原さん。

 

子どもの頃から症状が出始め、障害を理由に、あきらめざるをえないことも少なくなかったと言います。

しかし、大学時代に留学したアメリカで、障害のある人も自分らしい生活を望んでいいのだと気付かされました。

「日本だと『障害者はこれはできませんよ』、『それでもいいですか?』っていう選択肢しか与えられなかったけど、アメリカに行ったら『あなたはどうしたいですか?』とまず聞くんですよね。アメリカにいるときに、自分が障害者ってことを忘れたんですよ。自分が『こうしたい』と発信し続ければ、誰かが必ず手を貸してくれて」。

 

帰国後、障害のある人を支援する団体で働き始めた海老原さん。

現在は都内で介助を受けながら、1人暮らしをしています。着たい服、料理の味付け、ひとつずつ自分の意思を伝えることを大切に、自分らしい生き方を実現してきました。

「自分は動くことはできないけども、生活の中心には必ず自分を置くってことは大事にして、それを介助者たちもみんな、尊重してやってくれています」。

 

そんな海老原さんに根強い差別の現実を突きつけたのが、3年前、相模原市で起きた障害者殺傷事件でした。

社会の意識を根底から変えるにはどうすればよいのか。子どもの頃から理解を深めて欲しいと執筆したのが、「わたしが障害者じゃなくなる日」でした。

本では、障害者殺傷事件についても触れ、率直に投げかけます。

“「障害者はいないほうがいいんだ」と言って殺してしまったんです。どう思いますか”

“一人じゃなにもできない人は死んじゃってもいい?”

海老原さんはそもそも「障害」とは何か、捉え方から投げかけます。

 

例えば、段差があって車いすの利用者が建物に入れない場合。

車いすの人に「障害」があるのではなく、スロープなどがない建物の側に、「障害」があると指摘します。

障害者に限らず、さまざまな人に手を差し伸べられていない社会が“生きづらさ”という障害を作り出していると語りかけます。

「その人を困らせている環境の側を、どうやったら変えていけるかっていうことに意識を向けられる人が育ってくれたらいいなと思っている」。

 

本をきっかけに、自分に何ができるのか考え始めた人もいます。

石田陽乃さん(11)と、母親のゆかりさんです。

ふだん、障害がある人と接する機会は少ないという陽乃さん。以前、視覚障害がある人が赤信号で横断歩道に踏み出すのを見かけたのに、声をかけるのをためらってしまったことが引っかかっていました。

陽乃さんは「助けてあげたいけど何もできない状況で、すごく残念だった」と振り返ります。

 

こうした中、出会ったのが海老原さんの本。親子で読み、話し合ってきました。

注目したのは“障害者は弱くてかわいそうな存在だから助けてあげるのですか?”という問いかけ。

 

母親のゆかりさんは「『弱くてかわいそうだから助けてあげてる』、そういうふうに思っているわけじゃないのに、助けるときに『思いやり』って思って助けると、かわいそうって思っていることにつながっちゃうんじゃないかな。でも、助けないのも違うけど」と陽乃さんに問いかけます。

陽乃さんは「こういう障害がある人だから手伝うっていうよりも、『同じ人』として手伝うってこと」と答えていました。

ゆかりさんも「そうそう、そうそう!」と応じます。

障害のあるなしにとらわれず、ただ向き合うことから始めればいいのだと、納得することができました。

 

陽乃さんは「全く同じように接してあげて、その人が『待って』って言ったり、『なにして』って言ったりしたら、そのとおりに動いてあげれば、それだけでいいんだなって。しっかりと相手のことを思って、相手のことをしっかり聞いてあげたりすれば、いいんじゃないかな」と話していました。

 

“わたしに障害があるのはあなたのせい”と、あえて投げかけた海老原さん。

本の中で“社会が少しずつ変わり、みんなが少しずつ手伝ったら、障害は障害じゃなくなっていく”と記しています。

海老原さんは「『障害』というのは、究極を言ってしまえば『生きにくさ』『生きづらさ』っていうことだと思うんですね。誰かが困っているときに、自分が何かできないかなってちょっとでも考えられるとか、気づけるとか。そういう人たちが増えていくと、みんなが幸せになっていくんじゃないかと、期待したいですけどね」と話しています。

 

海老原さんの思いが込められたこの本は、茨城県の障害者の支援団体が読書感想文のコンクールを開催するなど、共感が広がっています。

NHK横浜

土橋 和佳