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“脇役から主役へ”93歳の挑戦 6月6日

来月、神奈川県鎌倉を舞台にしたある映画が公開されます。

主演を務めたのは93歳の異色の俳優。70年にわたって脇役ばかりを演じてきました。

初めて挑む主演映画にどんな思いを込めたのでしょうか。

 

今月1日、鎌倉市内で上映された映画。

タイトルは「浜の記憶」。鎌倉の海で漁を営む年老いた男性が主人公です。

ある日、男性はカメラマンを志す20歳の女性に出会います。

『おお、こんなの撮ってるの』。

『すごくカメラ映えしますよね。いかにも海の男って感じで』。

『そうか』。

2人のひと夏の交流を描いた物語です。

 

主役を演じた加藤茂雄さん。93歳にして初めての主演映画です。

この日の上映会に姿を見せました。

加藤さんはあいさつで「長いことやってると、こんなこともあるんだね」と感慨深そうに話します。

 

加藤さんは70年にわたり、1000を超える脇役を演じてきました。

映画「七人の侍」や「ゴジラシリーズ」にも出演。「モスラ対ゴジラ」では、モスラが生息する島の原住民を演じました。

演じる役はいつも、セリフがあってもひと言か、ふた言。映る時間は一瞬でも、与えられた役柄を研究し、細かい動作にもこだわってきました。

完璧主義で知られる黒澤明監督の作品では、読経する老人の役を演じるために、般若心経をすべて暗唱できるようにして臨んだといいます。

 

「すべて真剣勝負。どんなことも、どんな小さな役でも。毎日のようにセリフ、役、監督も変わるしね。そこで、完璧を目指していかないと『あしたはないぞ』と思った。出たからには、最高のものをこしらえてやらなきゃって」。

 

今回の映画の監督、大嶋拓さんです。

一つ一つの役に真摯(しんし)に向き合ってきた加藤さんの人柄にひかれ、主役の映画を作ることにしました。

大嶋監督は「“人生の記念”に、というとあれですが、1本くらい主役があってもいいじゃないかと。加藤さんはすごく存在感があるから、やはり、人としての魅力を作品の中で表せるんではないかと思って」と、そのきっかけを明かします。

 

大嶋監督が加藤さんに用意したのは、漁師の役です。

実は加藤さん、生活のために、俳優のかたわら、長年、漁師としても働いてきました。

加藤さんは、これまで歩んできた自身の人生を重ね、精一杯、演じました。

 

『まだまだ人生長いよ。ユキちゃんなんてな、俺から見ればよちよち歩きの赤ん坊だよ。これから何だってできるさ』。

 

上映会が終わり、拍手がわき起こりました。

映画を見た人からは「93歳で現役の俳優さん、びっくりしました」「よくセリフをあれだけおじさん覚えたなって、すばらしい」といった声が聞かれました。

初の主役に挑んだ感想を聞かれた加藤さんは「気持ちいいよね、やっぱり。勉強にもなったし、今まで味わえなかった思い出ができましたよ」と、笑顔をみせていました。

 

加藤さんが主演する映画は、来月27日から、東京・新宿の映画館で上映されます。

NHK横浜

中村 早紀