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特別養子縁組で育つということ もうひとつの“家族のカタチ” 6月3日

千葉県にある保育施設には、経済的な事情などで「産んでも育てられない」と、多くの赤ちゃんが預けられています。

「ベビーライフ」の篠塚康智代表理事は「3、4人の赤ちゃんが常時いらっしゃる感じですね」と話しています。

 

こうした子どもたちを実の子として迎え入れる制度があります。

「特別養子縁組」です。

不妊に悩み子どもを諦めかけていた夫婦にとって希望となっています。

子どもを迎えた夫婦は「幸せすぎてよかったね」「生活が180度変わりました」と、笑顔があふれています。

 

この「特別養子縁組」は、経済的な理由や虐待などで生みの親の元では育てられない子どもを、安定した家庭環境で育てるための制度です。

大きな特徴は、戸籍上、生みの親との関係を断ち切って、育ての親と実の親子関係が結ばれることです。

その点が、生みの親との関係はそのままに後継ぎなどとなる「普通養子縁組」とは異なります。

制度ができて30年余り。どのように“家族のカタチ”が築かれてきたのでしょうか。

 

横浜市に住む川口さん一家です。

長男の一貴さんは25年前、特別養子縁組で家族になりました。不妊治療の末、子どもを授からなかった徹さんと博子さんに迎えられました。

その後、特別養子縁組で妹もできました。

 

一貴さんは「本当に楽しく明るく育ててくれて、『ありがとう』みたいな気持ちはやっぱり強いですね」と話しています。

 

一貴さんが川口家に迎えられたときの映像です。

両親は、戸籍上も実の子とすることで、責任を持って育てていくと決意していました。

当時、父親の徹さんは「家族として生きていきたいというのがあったので」と話し、母親の博子さんは「『産んでくれたお母さんのほうに行くよなんて言われたらどうする』って言ったこともあるんですけど、一緒にいられた時間を大切にしていれば、私はもうそれで十分だと思うんですけど」と話していました。

 

そして今、赤ちゃんの時のアルバムを見ながら「このときは本当にかわいくてかわいくて」と当時を振り返る両親。

物心が付く前から、一貴さんに伝えてきたことがあります。

「産んでくれたお母さんが別にいる」という事実です。

すべてを包み隠さず共有することで、“特別”ではない“普通の家族”でありたいと願ったのです。

 

父親の徹さんは「特別養子縁組だということを、恥ずかしい事として生きてほしくない。そのためには親が隠して恥ずかしい事なんだと思わせないようにだけはしてきたつもりなんですね」とその理由を明かします。

 

それでも、事実を伝えているからこそ直面した“壁”がありました。

一貴さんが6歳のころ「産んでくれたお母さんに会いたい」と突然泣きだして、両親に訴えたのです。

父親の徹さんは「『あ、きたか』っていう、『そうくるか』と」と当時を振り返ります。

 

悩んだ両親が出した結論は、一貴さんが生まれた神戸の産院に連れて行くことでした。

自分のルーツを目のあたりにするとともに、両親の思いを感じた一貴さん。これ以降、生みの親のことを口に出さなくなったといいます。

一貴さんは「産院に行ってよかったと思いますね。十分消化できたのかな、そこから会いたいと言った覚えはないし、そこからは大きくなってからは、一度も。そこですぱっと消化できたのかな」と振り返ります。

 

社会人として、ことしから1人暮らしを始めた一貴さん。普通の家族として当たり前に育ててくれた両親に、改めて感謝の思いを感じています。

「中学生の時に『お前なんか本当の父親じゃないだろう』みたいな感じで言っちゃった時は、やっぱりあとでこっちも反省するんですけど、“この人たちが家族だ”と本気で思えていたからこそ自分も言えたのかなと思います」。

 

仕事が休みのこの日。一貴さんは、社会人になって初めての「母の日」のプレゼントを用意していました。

「これ母の日のプレゼント」と切り出した一貴さんに、母親の博子さんは「え? なに? 何だろう、うそでしょ?」と驚いた様子。

両親にゆっくりしてもらいたいと選んだのは、旅行券でした。

「渡してないなと思って」という一貴さんに「もらってないなと思っていた」と笑顔を隠せない博子さん。

 

特別養子縁組で家族になって25年。

今、家族それぞれが同じ思いを共有しています。

 

父親の徹さんは「親子がきっちり向かい合って話すしかなくて。『特別養子縁組だからダメで、実子だったら成功する』なんて、それほど甘いものではなくて、一人の人間としてつきあっていくということしかないと思うんです。それ以上のことはありえないし」と話していました。

 

一貴さんは「今の両親でよかったと思いますよ、率直に。何かあったときにすぐ助けを差し伸べてくれる、あるいはこっちが助けを差し伸べるというのが家族だと思うので、やっぱり家族は大事な存在だと思いますね」と話していました。

 

この特別養子縁組の家族の中には、周囲の理解が進んでいないという悩みも少なからずあるそうです。

川口さん家族を結び付けた支援団体は、社会の理解が必要だと指摘しています。

 

特別養子縁組を支援する、NPO「環の会」の星野寛美代表は「特別養子縁組は子どものための制度なので、子どもにとっていい環境を探す一つの方法であるという理解を進めてほしい。多くの方に“こんな家族もあるよね”という受け止め方をしてもらえると、子どもたちにとっては生きやすい社会になるだろうなと思います」と話していました。

 

経済的理由や虐待などで、生みの親と暮らせない子どもは全国におよそ4万4000人います。

その一方で、特別養子縁組で結ばれる家族は増加傾向にはありますが、年間600程度にとどまっているということです。

首都圏放送センター

中川 早織