19のいのち 障害がある人 それぞれの「顔」

  • 2018年9月27日

相模原市で起きた障害者殺傷事件の被告の「障害者は不幸しかつくらない」という言葉は、障害のある多くの人を深く傷つけました。2年が経過した今、障害のある人それぞれに “顔” があることを伝えようと取り組み始めた、ある当事者の男性の一歩を見つめました。《廣岡千宇記者》

■対談形式で障害のある人の意思や息遣いを

障害者殺傷事件を受けて開設された『100の顔』というサイトです。障害のある一人一人の日常や障害に対する思いが対談形式で紹介されています。

「本当に好きになったものしか興味を持てない」という高機能自閉症の30代の女性。こだわりの強さや、音への敏感さを生かして音楽活動などに取り組んでいます。

 

障害のある3人の子どもと暮らす主婦の「顔」は人形で表現。「障害のある家族とともに生きていく、とても格好良く思うのでした」と、幸せか、不幸かという単純な言葉では言い表せない暮らしがつづられています。

 

サイトを立ち上げた木村仁さんです。「障害者」をひとくくりにせず、それぞれに「顔」があることを知ってほしいと考えました。

「障害者、一人一人がちゃんと意思を持って、人の息遣いが感じられるような、そういうものを作りたいと思ったんですね」

木村さん自身、先天性の聴覚障害があります。発達障害の診断も受け、コミュニケーションが苦手で仕事が長続きしなかったこともありました。障害者雇用の仕事に就いたものの収入は足りず、障害年金で生計を立てています。

社会に負い目を感じていたさなか、殺傷事件が起きました。

「わりとみんな、価値判断、人を『生産性』で測るっていうことが当たり前なのかなと思います。障害をもっていますから、自分なんか役立たずだなとか生きてる価値あるのかないのかと考えちゃうんですけど、だからこそ相模原の事件が怖かった」

■事件の風化に危機感 サイト開設を決意

この2年、事件を直視できずにきた木村さん。社会からその衝撃が薄れていることに危機感を抱き、ことし7月、初めて事件が起きたやまゆり園を訪ねました。

障害があるというだけで殺害された19人。事件に傷ついた当事者の一人として、その命と向き合いました。「障害者というか、当たり前の人間として延長線上にあった19人の命、それがこの場で奪われたんだって思うと…」と言葉を詰まらせます。

「少なくともこの中にあった営みが、1人のよくわからない身勝手な格付けで失われたっていうことは、絶対に許してはいけないことだなと思いました」

後日、木村さんが開設したのが『100の顔』のサイトでした。そこには「『死ぬべきだ』というなら『その相手の顔をよく見てみろ』と言いたい」「私達は人間だ」と記しました。

■生の声をサイトに “顔” を知ってほしい

木村さんは、障害のある人の生の声を届けたいと当事者へのインタビューを始めました。呼びかけに応じた1人、菅原勇太さん(31)です。去年8月、発達障害の診断を受けました。人間関係を築くのが苦手で、勤めていた会社も辞めました。

 

互いにコミュニケーションが苦手な二人。それでも菅原さんは次第に本音を打ち明けていきます。

「人の話は 理解はできるけれど、僕から人に説明したりとか、自分がこう言いたいって思っているんですけど、頭の中がごちゃごちゃになって『結局、君は何が言いたいの』というのが何回もありました」

話を聞いていた木村さんは「気を遣わないわけではなくて、気を遣いすぎて疲れてしまうというのもあるし」と菅原さんの気持ちを思いやります。同じ当事者として理解をしてくれる木村さんに、菅原さんは悩みだけでなく自身の楽しみも語り始めます。菅原さんが取り出した旅行を紹介するパンフレットを見て木村さんが「風景を見るのが好きということ?」と問いかけると「風景とか、あと飛行機の中とか…」と応じていました。

木村さんは「障害者っていうひとくくりではなくて、そこには『顔』がついているわけですよね。あなたはこう感じなさいとか、あなたはこうしなければいけないというところから離れて、とにかく知ってほしい、それだけ」と思いを語ります。

 

数日後、木村さんのサイトには菅原さんの「顔」が紹介されていました。大好きな旅行中に撮影した写真に “菅原さんらしさ” を込めました。木村さんは「『障害者』イコール『全くだめな人』ではなくて、何か大きなことをしているわけでもなくって、自分の人生に、いっぱいいっぱい、必死ですよね。それでも生きている。そういうところに、生きているという当たり前のすばらしさがあると思いました」と強調します。

「障害者だって人間だ」と声を上げ始めた木村さん。一人の当事者の、あすへの一歩です。

木村さんは、19人の命が奪われた事件が社会から忘れられないよう、今後も100人を目指してサイトを更新していくということです。

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