視覚障害者への支援 どうする「届かない」現状

  • 2018年10月4日

世界の人たちが注目するオリンピック・パラリンピックは、スポーツの祭典というだけでなく、差別がなく平等な社会を作ることを目指す大会でもあります。

前回の東京大会が開催された時代に比べ、 “バリアフリー” という言葉とともに街も姿を変え、制度も整ってきました。しかし、本当に支援が届いているのか当事者の立場に立って見つめ直すと、意外な現状も見えてきました。視覚障害者のケースから考えます。《廣岡千宇記者》

■ “自力で支援情報にたどりつけない”

視覚障害がある小野裕次さん(44)です。7年前、糖尿病をきっかけに左目の視力を失い、右目もわずかに光を感じられる程度となりました。会社員として働いていた暮らしは一変し、家に閉じこもる生活になったといいます。

小野さんは「外には出たいと思っていましたね。結構、外に出るの好きなほうだったので。でも、1人では出られないし、相談する方法も分からなかったし、何もかも分からない状態だった」と振り返ります。

 

白じょうの使い方も、誰からも教えてもらえなかった小野さん。1人暮らしのため、自分で買い物などに出かけざるをえませんが、車にぶつかったり、車道に出てしまったりと、たびたび命の危険にさらされてきました。

小野さんは、道路の脇に立ちながら「ここってたぶん、段差がないんですよ、歩道と車道の間に。路上駐車の車をよけて、そのまま車道のほうに出ちゃったみたいで。見えないって怖いなって、率直に」と、状況を説明します。

 

実は、小野さんのような人を支える訓練施設が、全国には80か所以上あります。事故やけがで人生の途中で視力を失った人が、白じょうを片手にひとりで歩く練習など、日常生活を送るためのさまざまな訓練を受けられます。

神奈川県厚木市の「七沢自立支援ホーム」で訓練を受けている、病気で視力を失った男性は「私には非常に助かるっていうか、励みにもなりますし。だんだん自分でできることが増えているような気もするので」と話していました。

 

しかし、この施設の現在の利用者は、定員18人に対して9人と、半数だけです。施設では、目が見えないことで情報を得にくい視覚障害者ならではの課題が理由のひとつだと見ています。

「七沢自立支援ホーム」の内野大介さんは「対象者がいないとは、まったく思っていません。目からの情報は80%くらいと言われている。視覚障害は情報障害と言われていて、自分で訓練施設を見つけるのが困難な状況ですので」と説明します。

周囲も情報を提供できていない現状も見えてきました。ことし発表された支援団体の調査結果では、行政や医療機関から訓練施設の存在を教えてもらった視覚障害者は10%台にとどまっていました。

支援団体は「情報収集が難しい視覚障害者の立場に立って支えてほしい」と呼びかけています。

■知っていますか? 「ガイドヘルパー」

制度があっても支援が届いていない例は、ほかにもあります。「ガイドヘルパー」もその1つです。

先日、開かれた研修会。視覚障害のガイドヘルパーは、外出に付き添い、買い物などを助けるとともに、危険から身を守る大事な役割です。専門的な研修を数日程度受ければ資格を取得できますが、ガイドヘルパーはその存在自体があまり知られておらず、なり手が不足しているといいます。

研修会に参加した人は「ガイドヘルパーが、ちょっと足りていないのかな、と。何かしら役に立つのかなと思うので、参加しています」と話していました。

神奈川県視覚障害者福祉協会の鈴木孝幸理事長は「制度があること自体、一般の人たちが知らないというのが実態ですね。いろんな手助けをしてくれる人たちと一緒になって、そういう制度を上手に活用していくのが大事かと思っています」と話しています。

■周囲の声かけが手助けに

障害のある人が、より生きやすい社会に向け、一人ひとりにどんな支援ができるのか。いま、小野さんが街を歩いている時に「助け」となるのは、周囲のささやかな声かけだといいます。

「僕がちょっと迷っていたりとか 違う道を歩いていると、声かけてくれたりしますよね。『駅ですか?』とかね。そういうのはとても ありがたいです」

 

理解の輪は、少しずつ広がっていると感じています。

喫茶店に入った小野さんが「ここにいるお客さんや常連さんとお話しして」と語ると、お店の人も「街でもよく出会ったら、声かけてくださることがあるんだよね」と応じていました。

東京で開かれるオリンピック・パラリンピック。身近にいる障害のある人たちの現状に、いま一度思いを寄せる機会にしてほしい。当事者たちの願いです。

小野さんは「当たり前のようにオリンピックパラリンピックに行けて、みんなと一緒に楽しめる。世の中全体がよくなって、『あれは2020年のオリパラからだよな』って、なってくれたらいちばん理想かな」と期待を寄せています。

視覚障害に限らず、制度や設備が整うことで、支援が行き届いていると錯覚してしまう部分もあるかもしれません。情報をつなげたり、声をかけたりする、そんな助けも求められずに困っている人はいないか、改めて向き合える東京大会になればと思います。

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