19のいのち “アートでつなぐ” 動きだしたプロジェクト

  • 2019年6月27日

“アート”を通じて、障害のある人との接点を社会に増やしていきたいと、いまひとつのプロジェクトが動きだしています。《戸叶直宏記者》

■工事現場の仮囲いを“美術館”に

独特に連なる緑と青の模様。工事現場をイメージしたようなデザイン。

作品が並ぶのは、東京・渋谷区の街なかです。実は、工事現場の仮囲いを利用した期間限定の“美術館”です。通りかかった人からは「すごく個性的でいいじゃない」、「いつもの道がちょっと色鮮やかになるのでいいと思います」と、評価する声が聞かれました。

このデザインの作者は、地元の福祉作業所で働く知的障害のある人たちです。

こちらの女性は、数字や図形などをモチーフに、多くの作品を描いてきました。これまで発表の場はありませんでしたが、今回、初めて多くの人の目に触れることになりました。

絵を描いたこの女性は、「街なかでみんな通るときに見てくれるのかなっていうのが、うれしかったです」と話しています。

■障害のある兄に感じた “ほかにはない個性”

この“仮囲い美術館”のプロジェクトを企画した、松田文登さんです。双子の弟、崇弥さんと障害者のアートを発信したり、商品化したりする会社を、去年7月に立ち上げました。活動のきっかけは、とても仲がいいという文登さんたちの兄、自閉症がある翔太さんの存在でした。

幼い頃から仲が良かった3人きょうだい。しかし思春期になると、文登さんは周囲の反応を気にして、障害のある兄の存在を隠すようになったといいます。

文登さんは「兄に対して、馬鹿にするような人たちも出てきました。『兄はここがすごいんだぞ』とか、『障害のある人はこんな可能性があるんだぞ』とかって提示できればいいんですけど、なかなかその時には自分の選択肢を持っていなかった。そのことが人生の中で根深く残っているというか、なんか1本とげが刺さっているような気持ちになっていて」と話します。

そんな文登さんを変えたのは、兄が毎日書き続けてきた日記でした。日記の文字の力強い独特のフォントに、ほかにはない個性を感じたといいます。

「これを見たときに、単純に、このフォント書けないよなって。あ、これはすごい面白いものなのではないかなという気づきは、すごいありました」

■多くの人に障害のある人との接点を

障害者の芸術表現に興味を持った文登さん。岩手県で障害のある人が創作活動をしている美術館に通うようになりました。

佐々木早苗さんは、知的な障害があり、ことばでのコミュニケーションはほとんどできませんが、絵はおよそ20年間、描き続けてきました。文登さんは、作品に込められた意図は説明できなくても、その作品を見れば価値が伝わると感じています。

「何か月も自分の時間をかけて、ずっと自分の人生の一部としてそれを描いている。早苗さんだからこそできるアートが、そこに表れてるんじゃないかなと思います」

文登さんは、早苗さんたちの作品をネクタイなどに次々と商品化。評判は広がり、展示会やファッションショーにも呼ばれるようになりました。

そうした中、相模原市で起きたのが障害者殺傷事件でした。障害のある人の存在を否定する被告のことばに、文登さんは衝撃を受けました。

「もっと多くの人に障害のある人との接点を作れないか」

そこで生まれたのが工事現場の仮囲いを“美術館”にするプロジェクトです。いま、渋谷に続き、岩手でも動き出しています。

この日は、作者のもとを訪れ、作品を展示していいか 気持ちを確かめました。

作者の工藤みどりさんに「みどりさんの作品を工事現場に貼りたいなって思うんです」と文登さんが持ちかけると、建設会社の担当者も「これがやっぱりすごく輝いていて、色もきれいで。工事現場ってやっぱりイメージがそんなに明るくないんで、これがぴったりだなと思っています。街の人も見て楽しくなるから、ぜひ使わせてください」と頼みます。工藤さんは「はい」と答えていました。

■アートを通じて 社会全体に変化を

街なかに設置された“仮囲い美術館”は、少しずつ障害のある人への理解を広げています。

作品を見た人は「すばらしいと思います。たまたま、それが障害のある人だっていうことだけであって、それはもう垣根はないと思います」とたたえていました。

松田文登さんは「差別とか偏見をするなっていうのを、声を大にして言ったところで、社会全体は変わらないと思うんです。でも、アートというフィルターを通して発信することによって、緩やかな流れで社会全体に浸透していく。すごく小さな一歩だとは思うんですけれども、大きな一歩につながるんじゃないかなと思っています」と、期待を寄せていました。

文登さんは、今後“仮囲い美術館”のプロジェクトを、すべての都道府県に広げていきたいと話しています。

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