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荒川が氾濫すると首都水没!? 命を守るための3つのポイント

  • 2021年5月27日

大雨による河川の氾濫から〝命を守るため″に知っておきたい情報を、河川ごとにお伝えする「かわ知り」。
最初にとりあげるのは、埼玉から東京を流れる「荒川」の下流。氾濫すれば「首都水没」ともいえる被害が想定され「日本一危険な川」とも言われています。いち早い避難に結びつけて命を守るための荒川について知っておきたい3つのポイントをまとめました。
(首都圏局/記者 直井良介・ディレクター 阿部和弘)

日本一危険な川 荒川の脅威とは

埼玉県秩父山地を源とし、はるか東京湾まで総延長173キロに及ぶ荒川。その流域の人口は1000万人近く。まさに日本の政治・経済を支える重要な川です。

上流から下流まで37秒の旅です

このうち下流沿いの自治体は、東京の江戸川区や江東区、葛飾区、墨田区、足立区、北区、板橋区、埼玉県の川口市と戸田市の区間を指します。
人口が密集する大都市を流れるため、氾濫すればその被害も甚大な「日本一危険な川」ともいえるのです。

国の被害想定では、流域の自治体のほとんどの地域で浸水が予測されています。深さは最大でおよそ10メートル。都市機能は壊滅し、最悪の場合、死者はおよそ4000人。54万人が孤立すると想定されています。下流域には、海抜ゼロメートル地帯が広がることから、場所によっては水が1か月近く引かないともいわれ、まさに、「首都水没」ともいえる状況になることが想定されているのです。

荒川下流域の自治体 ほとんどで浸水が予測されている

これはSFの世界の話ではありません。おととしの台風19号の際、荒川の水位は氾濫の危険が迫っていました。そこでいち早い避難に結びつけ命を守るために、荒川特有の知っておきたい3つのポイントを解説します。

荒川の「かわ知り」3つのポイント

教えてもらったのは、荒川の下流を24時間監視している国土交通省荒川下流河川事務所の副所長で、「荒川のプロ」辻勝浩さんです。

辻さんが「ぜひ知っておいてほしい」と教えてくれたポイントは、次の3つです。

命を守るポイント(1)「岩淵水門」が閉まったら注意

辻さんがまず案内してくれたのは、河川事務所のすぐ前にある『岩淵水門』でした。荒川の一部が分かれ、隅田川になる地点に設置されているこの水門。直近では、おととしの台風19号で、12年ぶりに閉鎖されました。増水を続ける荒川の水を流し続ければ、より堤防が低い隅田川が先に氾濫する恐れがあったからです。

岩淵水門

水門を閉じるのは隅田川を氾濫させないためですが、同時に荒川の水位が上がっていることも示し、広く流域に洪水の危険が迫っているサインのひとつだというのです。

2019年の台風19号の際、12年ぶりに閉鎖される岩淵水門

辻副所長

岩淵水門は、昭和57年に完成してから5回しか閉鎖していません。閉まったら、それだけ洪水の危険が迫っているということです。

 

かわ知りメモ:荒川は「人工の川」

今の雄大な流れからは想像もできませんが、実は、荒川の下流域は、人間のつくった「人工の川」です。

現在の隅田川が、かつての「荒川」だった

かつては、今の隅田川が「荒川」と呼ばれていました。「荒ぶる川」の名前の通り、江戸時代から明治にかけて何度も洪水が発生。特に被害が大きかった明治43年(1910年)の大水害をきっかけに、巨大な放水路を作るという、かつてない大計画が始まります。約20年に及ぶ難工事を経て、放水路が完成したのは、昭和5年(1930年)。それが、今の荒川になったのです。

荒川放水路 掘削の様子

命を守るポイント(2)「治水橋」の水位計を見よう

 

上流の水位や雨の状況を確認するというのは、下流域が今後どういう状況になるかということを想像する上で、とても重要な指標になります。

2つ目のポイントは、さいたま市西区にある「治水橋(ぢすいばし)」の水位計の変化です。

河口から40キロ上流にあるこの場所の水位の傾向は、数時間後の東京の水位の傾向を推測できるというのです。たとえば、東京で雨がやんだとしても、治水橋の水位のグラフが下がっていなければ、少なくとも今後数時間は氾濫の危険があるということです。
こうしたデータは、国土交通省「川の防災情報」のホームページでほぼリアルタイムに見ることができます。

国土交通省「川の防災情報」ホームページ 水位をほぼリアルタイムで知ることができる

 

私どもが提供している水位情報、映像をみていただくことで、川というものがどのような形で水が流れてくるのか、川の特徴を少しでも知っていただくことによって、(避難などの)具体的な準備ができるのではないかと期待しています。

命を守るポイント(3)弱点のひとつ「線路の橋」

これまでは、危険の兆候を知らせる2つのポイントでした。3つめは荒川の弱点を知ることだと辻さんは言います。

 

対策が進んでいる荒川にも、弱点はあります。対策はしていますが、必要な堤防の高さにするためには時間がかかる。特に周辺地域の方には、危険だという認識を持ってほしい。

その弱点とは、線路のかかった橋。京成本線とJR東北線の橋です。

このうち、足立区と葛飾区にかかる「京成本線荒川橋梁」は、周辺の堤防に比べて3.7メートル堤防が低くなっています。
鉄道の橋がかかっているため、堤防をかさ上げする工事が難しく、堤防は低くなったままに。川の氾濫につながりやすくなっているのです。

氾濫がいち早く起きやすいこうした場所をハザードマップなどで確認しておき、避難情報を元に行動してほしいと辻さんは話しています。
また、このほかにも川の堤防の弱点は、「重要水防箇所」として公表されています。

「広域避難」のためにも 情報収集と早い避難を

荒川がほかの川と違うのは、避難しなければならない人口が圧倒的に多いことです。新型コロナの感染対策で避難所の受け入れ人数も絞られる中、自治体は台風が接近する際など、都県をまたいで避難する「広域避難」も検討するよう求めています。遠くへの避難には、それだけ避難のタイミングを前倒しすることが必要です。

そのためにも重要なのは、川の水位の情報を早く得て、避難を始めることです。
水位情報は、スマホやパソコンで確認できます。たとえば、国土交通省の「川の防災情報」を開いてみると、河川カメラや水位計がある場所にマークがついています。
「岩淵水門」の水位を確認したい場合、下の左側の画面で、水色の水位計のマークをタップすると、水位データを見ることができます。

地図上の水位計をタップすると、ほぼリアルタイムの水位情報を見ることができる

川の断面の図の上に、水位が、ほぼリアルタイムで表示されます。水位が赤や紫を超えると、氾濫の危険が迫っていることを示します。
こうしたサイト、ハザードマップなどの情報を、普段から調べて触っておいて、いざというときの早めの避難につなげてほしいと思います。

これから水害が心配される時期となります。自分や大切な人の命を守る第一歩は、身近な川のことを詳しく知ることから。「かわ知り」では、今後も首都圏各地の川について、取材してお伝えしていきます。

  • 直井良介

    首都圏局 記者

    直井良介

    2010年入局。山形局・水戸局などをへて首都圏局。災害などを担当

  • 阿部和弘

    首都圏局 ディレクター

    阿部和弘

    2010年入局。秋田局、報道局、名古屋局を経て2020年から首都圏局。 これまで震災や災害などの現場を取材。

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