WEBリポート
  1. NHK
  2. ちかさとナビ
  3. WEBリポート
  4. アメフト日本代表が語る コロナ禍に負けない活動再開への道

アメフト日本代表が語る コロナ禍に負けない活動再開への道

  • 2020年10月20日

アメリカンフットボールの社会人リーグ・Xリーグが10月24日に開幕します。毎年春・秋の2シーズン制をとるXリーグですが、コロナ禍のため、春は中止、秋も2か月遅れでのスタートとなります。再開に向けては、野球ともサッカーとも違うアメフト特有の課題とそれを乗り越える工夫がありました。千葉のチームで活躍し日本代表も務めるNHK横浜の営業職員が、その舞台裏を明かします。
(NHK横浜 平澤徹)

キャプテンの言葉に込められた再開への思い

3月下旬に始まった新型コロナによる活動自粛から4か月。念願の全体練習は、100名あまりの選手・スタッフに向けたキャプテン・地村知樹のこの言葉から始まった。

「今日、ここに全員が集まれて、やっとアメフトができる。この喜びを短いシーズンになるとか関係なしに、試合のプレーで、そして結果で、見に来てくれるお客さん、応援してくれてるファン、そして万全な準備をして環境を整えてくれているチームに恩返ししよう。俺らの今シーズンは『日本一になる』、それだけや」

「そうだ、その通りだ!」
感染防止のため言葉こそ発することはできないが、私の心は大きくうなずいていた。アメフトができないやるせない日々はもういらない。「ここからだ、ここからなんだ」と。

アメフト選手は二足のわらじ

私が去年から所属するオービックシーガルズは、千葉県習志野市に拠点を置くチーム。Xリーグで最多7度の優勝を誇る名門だ。チームに所属するのは、銀行員、商社マン、消防士等、全く違う環境で働く選手たち。土日祝日を利用してプレーを続けている。試合の際の旅費等はチームが負担するが、選手には試合出場による報酬は一切無い。

攻撃を展開するランニングバックの選手たち 左から3人目がキャプテンの地村選手

アメフトへの愛情だけでプレーを続けてきた我々にとって、新型コロナウイルスによってリーグ戦はおろか、練習の機会さえ奪われたことはポッカリと心に穴が開いたような感覚であった。

飛まつ、三密、選手管理 再開への課題が山積

とはいえ、コロナ禍でのチーム活動の再開は困難を極めるものであった。クラブチームゆえに、仕事も違えば、生活環境も違う中で、一人一人が背負う感染リスクもさまざまだ。そのような状態で、チームがどう選手を管理すればよいのかがまず問題だった。

またアメリカンフットボールは、サッカー、野球等とは違い、激しい接触を伴うことが前提のコンタクトスポーツである。飛まつ対策にはとりわけ注意を払う必要があった。フィールドでは全員がヘルメットを着用するので、マスクをするわけにもいかない。また、試合や練習に100名以上が一堂に集まることを考えると三密回避も重要な課題となってくる。

練習再開を支えるスタッフの努力

リーグ再開に向けて、各チームの模索が始まった。オービックシーガルズでは、一人一人の新型コロナ感染防止対策を徹底するため、チーム独自のガイドラインを策定した。ガイドラインを守ることで、生活や仕事の環境が違っても選手個々の感染リスクを下げることができる。また、毎日の検温を全員が徹底し、専用サイトで一括管理することで、チームのトレーナーが常に選手の状況を把握できるようにした。

選手は体温・体調を毎日報告

また、三密を避けるために、チーム全員で集まる場合は室内を避けてフィールドのみとし、選手間は一定の距離を保つようにした。最も注意が必要な飛まつ対策には、ヘルメットにマウスシールドを装着することになった。選手が被るヘルメットは数十種類に及び、シールドをつけるフェイスガードの大きさや形はヘルメットごとに異なる。

フェイスガードの大きさ・形はヘルメットによりさまざま

このため、マウスシールドは一つ一つ手で作らざるを得ない。作ったスタッフは「慣れてしまえばすぐだから大丈夫」と話をしていたが、練習再開前の装着作業は夜遅くまで行われたと聞いている。

お手製の型紙で起こした線に沿ってシールドを切り出す

練習再開後も、スタッフは選手が来る1時間ほど前からウエイトルームの器具や選手のロッカールーム、トイレ等の設備の消毒作業を行っている。関係者の努力がコロナ禍での活動再開の大きな力となった。

ミーティングができない!

練習再開についてはスタッフの努力もあって目途が立ったものの、「ゲームに勝つ」という意味ではまだ大きな課題があった。

アメリカンフットボールでは1プレーごとに作戦会議をする時間が25秒ほど与えられる。その間に、オフェンス、ディフェンスそれぞれが次にどのようなプレーをするのかを選択する。この短い時間に1から全員の動きを確認するのは不可能だ。暗号のようなプレー名を全員が頭でイメージし、それをフィールドで実行する必要がある。

例えばオービックシーガルズの場合は、相手チームの作戦にもよるが、オフェンスプレーのパターンは数百種類にも及ぶ。その中から瞬時にプレーを選択して実行するには、選手全員の動きを事前に確認しあうミーティングが欠かせない。その時間は他のスポーツよりもはるかに長く、1回2時間を超えることもある。

選手の動き方を示すボード 試合前に準備する攻撃パターンは1試合で数百に及ぶことも

コロナの前なら、お互いの顔を付き合わせて、映像を見ながらイメージを共有し、フィールドで実際に動いて、その後また映像で確認するというのが一連の流れであった。三密を回避するため、長時間のミーティングで意識のすり合わせをすることができないということも大きな課題となった。

新しい日常での「あうんの呼吸」の作り方

コロナ禍で全員で集まることが難しくなった期間、オービックシーガルズでは、オンライン上でのミーティングを重ねた。クラブチームであるため、選手それぞれが違う仕事をしており、時間の調整だけでも苦労があった。1回あたりのミーティング時間は15分~1時間とこれまでよりも短くなることが多いが、事前に確認する内容、映像等を共有しておくことで、これまで以上に「質」の高いミーティングを実現した。

オンラインでは、ミーテイングだけに留まらず、チーム所属のトレーナーによる自宅でできるトレーニング講習も行った。私も参加したが、全員がフィールドで一斉に行うトレーニングと違い、トレーナーが個々の選手をモニターでチェックしている効果もあり、自宅にいるとは思えない汗の量になることもしばしばあった。

集まることができない4か月間、オンライン上という新しい日常で、カメラを通じてお互いの姿を確認し、映像を共有する等工夫をしながら、「あうんの呼吸」を作り上げた。いまでは、コロナ前と遜色ないプレーが実行できるまでになっている。

アメリカンフットボールを止めるな!

全体練習の再開から20日あまりが過ぎた7月30日、待ちに待ったリーグ再開のスケジュールがついに示された。開幕は10月24日、オービックシーガルズの初戦は11月8日に決まった。かつてない状況を乗り越えてここまで準備をした全チーム、協会関係者の努力があっての開幕である。また、忘れてはならないのが、「ファン」の存在だ。

今シーズンのリーグ戦は、コロナの影響でかなり入場を絞った形になり、チケット販売も限定的になる。オービックシーガルズでは先日ファン会員向けに一部チケットの先行販売をしたところ、十数分で完売となった。今年に入り、試合の中止や延期が次々と発表されて、イレギュラーな形となる中で、開幕を楽しみにして、チームを、選手を励まし続けてくれた「ファン」の存在があるからここまで来ることができたと感じることができる。

写真提供:オービックシーガルズ

我々選手にできることは、冒頭の地村キャプテンの言葉にもあった『日本一』という結果を出して、恩返しをすることだ。コロナ等の環境を言い訳にしない。さあ今だからこその最高のフットボールシーズンの開幕だ。

 

NHK横浜 平澤徹
中学でアメリカンフットボールを始め、高校・大学でそれぞれ日本一を経験。2008年にU-19日本代表選出。大学卒業後、Xリーグでプレーし、2チームを経て2019年オービックシーガルズに移籍する。2015年と2020年に日本代表としてプレー。横浜局では営業職員として神奈川県内の企業対応等に携わる。

ページトップに戻る