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停電が奪った母の命 台風の長期停電で熱中症に

  • 2020年9月10日
旅行が好きで、施設のお風呂や朝食のパンを楽しみに暮らしていた母親は、去年9月に千葉県を直撃した台風15号のあと、亡くなりました。母親の命を奪ったのは、浸水でも強風でもなく、長期化した停電でした。社会部/記者 佐野 豊

午前3時に停電

渡邉典子さん(当時82)は、国内の景勝地に旅行に行くことや、家庭菜園が好きでした。

3年前に脳梗塞で倒れて入院したことをきっかけに、千葉県君津市にある特別養護老人ホーム「夢の郷」に入所。
長男の幸也さんによると、温泉のような施設の岩風呂を気に入り、朝食に好きなパンを食べられることが嬉しいと言って、暮らしていたといいます。

しかし、台風15号が千葉県を直撃した去年9月9日の午前3時、施設は停電と断水に襲われました。
エアコンが使えず、次第に食事や水分がとれなくなりました。

救急車を呼んでいます

施設では気温が30度を超える中で、なんとか電気の復旧まで乗り切ろうと、冷たい湧き水を含ませたタオルを入所者の首に巻くなど必死の対応を行いました。
渡邉さんが高熱を出し、ぐったりとした状態で見つかったのは、台風から2日後の11日の朝。

「熱中症の疑いで救急車を呼んでいます」

幸也さんの元に、施設から連絡がありました。
ところが、市内の病院も停電の影響を大きく受け、受け入れ先の病院が決まるまでに2時間もかかってしまいます。

ようやく運ばれた最初の病院では、熱中症の症状がひどくなっていて、大きな病院に転院しました。

長男の幸也さん
「医師からは、熱中症の症状がひどく、体力も弱っていて高齢なので、最悪の事態を覚悟してくださいと言われました。母に会っても、目は開いていたので私が来たことはわかっていたと思うのですが、もう話すこともできない状態でした」

そして翌日、停電から3日後の9月12日に、渡邉さんは亡くなりました。

電源が復旧するはずが…

なぜこのようなことになってしまったのか。
実は、東京電力が「(施設がある)君津市では9月10日のうちに99%以上の地域で復旧する」という見通しを示したことや、県などが電源車の派遣の優先順位を決めていなかったことなどから、緊急性の高い施設に円滑に配備されなかったのです。

渡邉さんの施設に電力会社の電源車が配備されたのは、亡くなった翌日でした。

幸也さん
「『あと半日で電源が復旧するから大丈夫だ』という間違った情報で人が死んでしまうことを知ってほしい。電源車の優先的な配備のためのマニュアルをしっかり作ってすぐに配備できれば、亡くなる人も減るのではないかと思います」

優先順位のリスト作成中、でも課題も

千葉県は、台風15号を教訓に、病院や福祉施設を対象に非常用発電機の有無や自ら電力を賄える期間を調査し、どこに電源車を配備するか、命の危険が及ぶ重要度に応じて4段階で優先順位をつける作業をすすめています。

ところが、新たな課題も明らかになりました。台風15号の当時、千葉県に配備された電源車は最大で360台でしたが、県全体で、最も優先順位の高い「特A」が少なくともおよそ170か所、2番目に高い「A」はおよそ2000か所にのぼり、県全域で停電が長期化した場合、「特A」と「A」の施設に電源車を行き渡らせることが難しい場合もあることがわかったのです。

渡邉さんが亡くなった特別養護老人ホームでは、優先順位が2番目の「A」に該当するとみられますが、電源車が来ないことも想定し、4000万円以上を負担して、大型の非常用発電機を整備することを決めました。また、燃料が調達できなければ、発電機を動かし続けられないことから、ガソリンスタンドから優先的に燃料を供給してもらう協定を結びました。

こうした県などの動きについて、母親を亡くした幸也さんは、母の死を繰り返して欲しくないと、こう訴えています。

「ことしの台風シーズンが始まっているので、一刻も早くリストを完成させて、電源車を配備するようにしてほしい。また、非常用発電機はすごく高価で経営が苦しい施設は入れられないだろうし、実際に導入できる施設は少ないだろうから、母の死と同じことが起きる心配はあると思います。同じことが起こらないよう、国と施設などが協議しながら導入率を高めていけるよう考えて欲しいです」
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